4.
その後、心配性の母による手厚い介抱は
少し疲れたから休みたいという
私の言葉により中断する夕方まで続いた。
「それじゃあ、私たちは戻るけれど
何かあったらすぐ呼ぶのよ?」
「はい、お母様」
名残惜しそうにドアから顔を覗かせる
母に微笑むと、母はようやく姿を消した。
「ふぅ…」
やっと終わった…。
「…つかれたぁ」
いくら見た目が子供とはいえ、
中身は立派な大人よ。
食べさせてもらうのだって
どれだけ恥ずかしかったか…!
侍女達はそんな私達を気にする様子もなかったけど。
…もしかして、これが普通なのか?
私はこの物語を書いた作者ではあるけど、
ヒロインを中心としたストーリーだから、
メイリンの幼少期は、
回想シーンで少し書いただけだった。
…そういえば、
今のメイリンは何歳なんだろう。
目の前に両手を広げてみるが、
小さな手が示すのは子供ってことだけ。
改めて部屋の中を見渡してみるが、
ヒントになりそうなものもない。
「…一度、整理してみる必要がありそうね」
今度は慎重にベッドから抜けて、
窓際に置かれた机へと向かう。
この不自由な足では、壁伝いに
歩かないとすぐに転んでしまう。
ひょこひょこと、僅か数メートルの距離を
数分かけて歩く。
「やっと着いた…」
ようやく辿り着いた椅子へ座り、
引き出しを開けると、そこには1冊のノート。
「やっぱり」
メイリンの幼少期は病弱であったが故に、
1日の大半を部屋で過ごしており、
趣味と呼べるものは読書のみ。
そして、より多くの本を読むため、
文字の練習だけは、兄弟の誰よりも早かった。
…こうしてノートに文字の練習をしていた頃は
天才なんて呼ばれていたメイリンだけど、
他の子達が勉強を始めて暫くすると
その才はごく平均的なものへと変わっていくのよね。
優秀な公爵家の兄弟達と比べて、
魔力も少なく、騎士としての才能もないお荷物公女。
メイリンは、そんな自分を何よりも嫌っていた。
目の前のノートには、
文字がびっしりと埋め尽くされている。
裏でこんなに努力していたなんて…、
知らずに私は、彼女のことを
『お荷物公女』なんて言葉で片付け、
ヒロインをいじめる様子だけを記していた。
小説の中とはいえ、
可哀想なことしちゃったな…