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1.
「メイ、誕生日おめでとう」
「お父様っ!ありがとうございます」
メイリン・サイアーズ
それが、私の名前。
公爵家であるサイアーズ家、4人兄弟の3番目。
ちなみに、上も下も男ばかり。
「何か欲しいものはあるか?」
「何でもいいのよ。今日はあなたの大切な10歳の誕生日なんですもの」
「そうだぞ。ほら、言ってみなさい」
娘が1人というだけでなく、
体が弱く、生まれつき片足が不自由なため、
両親からそれはそれは大切に育てられてきた。
気軽に外出も出来ないのは可哀想だと、
世界中から一流のシェフを雇い、
街一番のブティックを呼び出しては
新しいドレスを新調する日々。
メイリンが欲しいと思ったものは
すぐに手に入る。
「いいえ、お父様、お母様。
こんなにも素敵なパーティを開いて下さっただけで充分です」
「まぁ、この子ったら。なんて優しいのかしら」
我儘を言っても誰も咎める者はいない。
何不自由のない生活。
悩みなんてない。
そう思っていた。
3年前の今日、
この世界が本の中の世界であることを思い出し、
「いいえ、ほんとに充分なんです」
そして、その我儘により殺される運命だと
知るまでは。