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バケモノが愛したこの世界  作者: 一一
第4章 ???編

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73/88

幻想種

はいどうもニノハジです〜

和やかだった空気から一転、物語は大きく動き始めます!

今回はそんなお話です!

ぜひお楽しみいただければと思います!

ではどうぞ!

 再び気絶してしまった男の治療を続けながら、他に生存者が居ないか確認する4人。

 しかし、残念な事に気絶していた男以外の人間を発見する事は出来なかった。


 その後レイのたっての希望で沈没船の調査も行ったのだが、そちらでも特に有益な情報を得る事は出来なかった。

 ただ1点、調査の結果沈んでいた船が、先日見た調査団の船の1つだった事が判明したという事のみ。

 他の船は見当たらなかったが、状況から察するにこの船同様沈められてしまったのだろうと全員が察する。


「兎も角これで調査団に問題が起きている事は判明したのです。今は報告と、彼に治療を受けさせる事が先決です」

「……そうね、急ぎましょう」


 周辺含め念入りに調査した結果、時間は大分過ぎ今は日も沈みかけてきている。

 水平線に沈む太陽を眺めながら提案するニイルにレイも賛同し、一行はデミーラ共和国へ戻る事となった。



 丁度男が意識を失い、目撃者も居ない事から帰りは転移魔法を使用したニイル。

 一瞬にして今朝居た浜辺へと到着し、外套を着込んで4人は冒険者ギルドへと向かうのだった。


「あれ?その人って確か調査に出た筈の……?一体何が?」

 ギルドに到着し受付嬢に事態の説明をすると、案の定現場は騒然となった。


 発見された男は病院へと搬送され、レイ達4人は詳しい話を知りたいと言われ別の部屋へと通される。


 暫くの後に4人の前に姿を現したのは、支部長を名乗る男。

 その彼にレイ達は先程までの経緯を説明する。


「なるほど……魔烏賊(セーピア)だけでなく魔鮫(スクアルス)まで……事態は報告されているより大分深刻な様だ」

 支部長が唸りながら呟く。


 報告では、魔獣の数は多いが魔鮫(スクアルス)の様な強力な個体は今まで目撃されていなかったそうだ。

 だからこそ、少ない人数でも何とか現状維持を続ける事が出来たとの事。


「だが、強力な個体が今までに無い行動で襲ってくるとなれば、現状は崩壊しかねん」

 腕を組みそう言う支部長。

 そして、その予想は見事的中した様で。


「失礼します」

 ノックの後、ギルド職員と見られる男が入室してくる。

 彼は悲痛な面持ちのまま、最悪の報告を始めた。

「昨日、別の場所にて魔烏賊(セーピア)討伐の依頼を受けていたパーティが……先程、全員遺体となって浜辺に倒れているのを発見しました。遺体は損傷が激しく切り刻まれていたり食いちぎられていたりしていたそうです。恐らく魔鮫(スクアルス)による被害かと……」

 男は早口にそう捲し立てた。


「やはり皆さんが討伐した以上の数が付近に居る様だな」

 支部長が苦虫を噛み潰した様な顔で、その報告を受け取る。


「そのパーティも私達同様、水中で狩りをしていたのかしら?」

 レイが疑問点を口にする。

 それに答えたのは報告にやって来たギルド職員だった。

「いえ、周辺に激しい戦闘の痕が残っていた事から浜辺で奴等に出会ったのでしょう。全員が人間族(ヒューマン)だった事もあり、水中での戦闘は無かったと見ています」


 水中活動に適した人種が居るならば当然の事だが、それ以外にも水中でも呼吸する方法は幾つか有る。

 レイやニイルは例外だが、一流の魔法師が複数人居れば短時間だが活動出来るのだ。

 また、特殊な薬草や『過去の遺物』を使うという手段も存在する。

 そのどれもが希少故使える者は限られるが、高ランクの冒険者にとっては常識として広く普及していた。

 しかし今回の被害者達はBランクのパーティという事で、そのいずれにも該当していなかった。


魔鮫(スクアルス)は浜辺にまで出没するの?」

 そうなれば新たな疑問点が浮かんでくる。

 水中に生息する魔鮫(スクアルス)がどうやって冒険者を仕留めた、という事なのだが。

 しかしこのレイの質問には、代わりに支部長が答えた。

「魔獣は魔法を使える。奴等が水魔法を使えば少しの間位なら陸地でも活動出来るだろう。しかし、今までその様な事をする個体の目撃報告は無かったし、そんな事が出来るなど知りもしなかった。つまりそれ程の異常事態が起きているという事なのだろう」


 長年冒険者に寄り添ってきた彼等から見ても、前代未聞の事態が訪れている。

 その事実に緊張で顔を強ばらせながらも、ギルド職員が頷いた。


 その時、今まで黙り込んでいたニイルが口を開く。

「失礼、ここまでの話で、今後のギルドの対応をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」


 それにギルド支部長が答える。

「そうだな……被害が出てしまった以上、現状での対応は厳しいと言わざるを得ないだろう。何とか国を説得して増援を寄越してもらいたくはあるのだが……」

 しかし、その言葉は最後まで言い切ることが出来ず言い淀んでしまう。


 支部長も過去に何度か事態改善の為、増援の打診を国に申請していた。

 しかし、未だ根付いている人間と亜人との確執の所為で、双方の種族からその提案をそれとなく拒否され続けて来たのだ。

 海上の警備を亜人種のみが行っているのも、その為であった。


 そういった理由で、今回も却下されるとの考えから来る発言だったのだが。


「では一刻も早く動かれる事をお勧めします。私の予想が正しければ、事態はこの国の壊滅だけに留まらず周辺国家にまで及ぶ事になるでしょう」

 ニイルがその考えに警告を発したのだ。


「それは、どういう事だ?」

 ギルド支部長が身を乗り出して問う。

 残りの全員もニイルに視線を向ける。

 その全ての視線を受け止めながらニイルは語り出した。

「魔獣の大量発生、それだけなら自然界でもごく稀に起こりうる現象です。私も最初はそれが原因と考えていました。実際、この辺りは自然が多く、魔力が溜まりやすい場所も有る事でしょう。そうした場所に魔獣は生まれやすい。しかし複数の種類が、何より統率を持って行動しているという事実はこれを否定し、そして別の要因を示します」


 そして一拍置き、ニイルは改めて口を開いた。

「恐らく今回の原因は、『幻想種』によるものでしょう」

「『幻想種』?」


 支部長が疑問符を浮かべ、ニイルの隣に座るレイも首を傾げる。

 レイはまだしも、かつて自身も冒険者として名を馳せ、引退後も長年冒険者を見てきたギルドの支部長すら、聞いた事の無い言葉だった。


 その反応に頷きを返しながらニイルは続ける。

「ここ最近の目撃例は無い様なので、知らないのも無理は無い事かと。『幻想種』とは遥か太古の時代から生きている、魔獣の頂点に立つ存在と呼べる生き物です。御伽噺に出て来る、人の手に余る怪物達。それらを総称して『幻想種』と呼びます」


 それに、姉妹以外の聴いていた全員の表情が驚愕に染まる。

 代表してレイが口を開いた。

「ま、待って!?御伽噺って、この世に沢山出回ってる()()御伽噺!?あれは子供に読み聞かせる為の作り話なんじゃないの!?」


 レイも幼少期の頃は御伽噺を好み、様々な種類の話を聴いて育った。

 レイでなくともこの世界の人々なら、必ずどれかは知っているだろう程にありふれていて、そして身近な存在である。

 しかし大人になるにつれ、あれは創作の物語だと誰もが思う様な、そんな荒唐無稽な話ばかりであった。


「あれ等は伝承によって語り継がれてきた、過去にあった事実です。もちろん創作や多少の脚色がされている物も有るでしょう。しかし今の世に出回っている物のほとんどは、過去に起きた出来事なんですよ」

 しかし、その物語は事実なのだとニイルは言う。

 物語に出てくる様な英雄や勇者とそれに打倒される怪物、更にそれらを従える魔王や神等、それらは全て存在していたと。


 ニイルは尚も続ける。

「『幻想種』は強大な力を持ち、周囲の獣を支配します。それは魔獣も例外では無く、過去にはそれ等を率いて国を滅ぼした個体も存在します。その話は物語にも出ていますので有名でしょう」


 いくつかの物語には、怪物が魔獣を率いて国を攻め滅ぼす、という物が存在する。

 そのどれもが、最終的には勇者や神と呼ばれる存在が討ち果たす為、子供からは人気の有名な物語だった。

 故に支部長とレイは頷く。


「今回の事態も『幻想種』が原因と考えれば全てに辻褄が合います。奴等はその強大な力により魔獣を生み出す事も可能です。だからこそ今回の元凶を潰さなければ事態は沈静化しませんし、早めに対処しなければこの国は滅ぼされ、周辺の国も滅びる事になるでしょう。何せ……」

 そしてニイルは天井を仰ぎ見る。

 その目はどこか遠い過去を見つめる様で。

 ()()()()()()()()()()()()()()、ニイルは呟くのだった。


「今は、助けてくれる神も勇者も居ないのだから……」

如何でしたでしょうか?

連載当初の設定の1つをようやく持ってくる事が出来ました!

色々考えていた物の1つがこの幻想種という存在でした。

まぁこれは半分なのですが…

この言葉の意味は後々分かると思います!

今後もお楽しみいただければ幸いです!

ではまた次回、お会いしましょう!

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