生命の選択
はいどうもニノハジです〜
伏線回収回です〜!
ニイル達の過去が少しだけ明らかになります!
ニイル達が何者なのか、少しだけですが分かれば嬉しいです!
ではどうぞ!
「大昔、アタシ達がまだ子供だった頃、アタシ達はとある孤児院で育ったの」
フィオは静かに、そう語り出した。
その横顔をレイは眺め続ける。
「その頃は今のアタシ達3人以外にも沢山の家族が居てね。見ての通りアタシ達は血の繋がりも無くて、種族すらバラバラだったけど、それでも皆仲良く暮らしてたんだ」
それでようやく合点がいったレイ。
何故ニイルや獣人族のランシュを、森人族のフィオが兄妹と呼ぶのか。
それは過去に、家族として本当に過ごしていたからなのだと。
「その時は知らなかったんだけどね。実はそこは色んな所から様々な事情を持った子供達が集められた場所だったの。私もとある理由からそこに預けられて育った」
その言葉にレイは思い当たる点があった。
全く喋らないランシュや、本来森人族では産まれない筈の赤髪を持つフィオ。
そういった何かしらの事情を持つ子供達で、その孤児院は構成されていたのだろう。
「アタシより歳下の子が居なかったから、必然的にアタシが1番下の妹でね。当時は塞ぎ込んでいたアタシも、皆のお陰で元気になる事が出来たんだ」
遥か遠い過去に思いを馳せる様な、そんな目をしながら夜景を見続けるフィオ。
しかしその表情には笑みが浮かんでいた。
「その時には当然ニイルも居てね。もちろん他のお兄ちゃんも居たんだけどそれでも1番優しくしてくれたんだ!だから家族の中で1番お兄ちゃんが好きなの!」
それにほんの少し頬を染めながらそう語るフィオ。
その表情を見れば誰でも、その感情が家族愛以上の物であると気付くだろう。
「でもお兄ちゃん、その孤児院に来た当初は誰にも心を開いてなくて、今以上の冷たい考えを持ってたって皆が言ってたんだよ。当時は信じられなかったけどね。詳しくは知らないけど、それだけお兄ちゃんも辛い過去があったんだと思う」
それに驚きに目を見開くレイ。
現在ニイルが持つ思想の原点が、まさか幼い時からのものだったとは、流石に予想がつかなかった。
だからこそ、あれだけの確固たる意思を持って言えたのだと、今なら分かる。
「でもアタシが来た時には全然そんな事無くて。家族の中で誰よりも家族を大事にしてた。そんな優しいお兄ちゃんだったから……」
そうして悲しげに目を伏せ、一呼吸置くフィオ。
レイはそんなフィオを急かすこと無く、ただ黙ってその先の言葉を待ち続けた。
「アタシが来て1年が過ぎた頃かな?とある事件が起こったの」
ややあって語り出したフィオは、いつもと真逆な暗い雰囲気を纏っていた。
「とある事件?」
思わず口を開くレイ。
その問に暫くの逡巡の後、フィオは話し出した。
「当時はどこも戦争が絶えない状況でね。その国も例に漏れず他国と戦争してたの。そして、その孤児院はその戦争で使う兵士を作り出す為の実験場だったんだよ」
溜息を吐き、そう語るフィオ。
レイはその内容の衝撃に言葉をかける事が出来なかった。
そんなレイに構わずフィオは続ける。
「アタシはまだ来て日が浅かったからそこまで酷く無かったけど、お兄ちゃん達はかなり酷かったみたい。特にお兄ちゃんは皆を守る為に自分一人で人体実験の犠牲になろうとしてたみたいでね」
次第に表情に怒りが見え始め、言葉の節々にも強い憎しみが見え隠れするフィオ。
「でも大人はそんな約束を守らなかった。それを知ったお兄ちゃんは家族を守る為に契約をしたの」
「契約?」
レイの疑問に、首を横に振りフィオは続けた
「詳しくは分かんない。でもそのお陰でお兄ちゃんは力を手に入れてアタシ達を守ってくれた」
そうしてレイを見つめ返しフィオは続けた。
「レイも薄々勘づいてると思うけど、その力は本当に強力で、だからお兄ちゃんは人間を辞めちゃった。そして強力だからこそ、この力を知った人間にも危険が及ぶ。それでレイにも力の詳細を話せないの。ごめんね?」
申し訳無さそうに苦笑するフィオ。
レイも今までの出来事、そしてこの話でとある仮説が浮かんでいた。
それが恐らく正しいのだと確信する。
(多分ニイルは……不老不死……そしてランシュとフィオも……)
話では力を得たのはニイルのみ。
故に同じ力なのか、はたまた違うのか、それすらも分からない。
しかし獣人族や森人族が長命種である事を差し引いても、それ以上の年月を生きているであろう事を、レイは直感していた。
「でも人間を辞めても心までは変わらなかった。優しいお兄ちゃんはその力で全てを救おうとしたの」
フィオは夜空を見上げ深呼吸をする。
まるで涙を流さない様に堪えている、そんな風にレイには見えた。
「色々あって!お兄ちゃんは全てを救う為に戦った!そう!お兄ちゃんはこの星全てを救う為に戦ったの!でも!……結局……負けちゃった……」
震える声を誤魔化す様に叫ぶフィオ。
しかし耐え切れず、最後は涙を流しながらそう呟いた。
「どんなに力があろうと、全知全能でもない限り必ず何かを取り零す。そしてそれを拒んで欲張れば、より多くのモノを失ってしまう……傷付いたお兄ちゃんが目を覚ました時、守りたかったモノのほとんどが無くなっちゃってた」
涙を拭い、改めてレイへと向き直るフィオ。
苦笑を浮かべながら、諭す様に言葉を紡ぐ。
「だからレイも、そんな後悔をしてほしくないの。全てを守ろうとすれば、より大きな犠牲を払う事になるかもしれない。本当に守りたいモノを選んで、それ以外を切り捨てる。辛い選択だろうけど、でもそれが一番辛くない選択なんだよ」
そう語り終えたフィオの言葉はあまりに重く、そして大きな想いが乗せられていた。
それはレイを慮る想い。
同じ後悔をさせたくないという、大きな愛情が込められた言葉だった。
その言葉を真っ向から受け、レイは口を開く。
「だからニイルは、あんな事を考える様になったの?」
それはニイルが抱く思想の事である。
幼少期にそう至り、例え一時それが変わろうとも、これ迄の経緯を考えればその価値観が根付いてしまうのは仕方の無い事だろう。
「そうだね……お兄ちゃんは皆を守れなかった事を、自分の所為だと今でも思い込んでる。自分の所為で何もかも喪った、自分が大切なものを守ろうしたから……そう思ってる。だから未だに大切な人を作ろうとしないのかも……」
「でもランシュやフィオはこうして生きているし、ニイルも皆を守る為に戦ったんでしょう?それなら褒められこそすれ、誰もニイルが悪いなんて言わないと思うのだけれど?それこそ、さっき彼が言ってた傲慢な考え方なんじゃないのかしら?」
と、そう疑問を口にするレイ。
詳しい事は分からないしフィオも教えてくれないだろうが、少なくとも今の話ではニイルが自身を責める理由は無いように思える。
ニイルの力が及ばなかったばかりに救えなかった、等と考えているのならば、それこそ傲慢な考えだとレイは感じたのである。
しかしそれに、またしても首を横に振り否定を示すフィオ。
「今まで沢山の人を見てきたから分かるんだ。『英雄』って呼ばれる人とか特にそうなんだけど。力を持ってて、その力を周りから求められる人達って、そのほとんどが力を持つ者の責任、みたいなのを持ってるんだよね。助けを求められて、それで救える力を持ってるならその力を使うのは当然って考え。そしてそれで救えなかったらその力を上手く使えなかったその人の責任だって」
それは少し分かる気がする、そう思ったレイ。
持つ者は持たざる者を救う様にと求められ、仮にそれが失敗すれば、持たざる者は容赦無く持つ者を糾弾する。
人間社会で幾度となく繰り返されてきた歴史である。
例に漏れず、ニイルもその考えを抱いていたのだろう。
「だからお兄ちゃんはその時に、そんな傲慢な考えを持つ事を辞めるって決心してた。でも優しいお兄ちゃんはそれを心の底から切り捨てる事は出来なかったんだ」
それにね、とフィオは続ける。
「全てがお兄ちゃんの所為なんて事は無いんだけど、少しはお兄ちゃんの所為でもあるんだよ」
「え……?」
その言葉に疑問を顕にするレイ。
確かに一端であれ、ニイルに責任が有るというのなら自己責任の念を持ち続けるのは頷ける。
「さっきも言った通り、お兄ちゃんの力は強大でね。今は色んな理由で力を封印してるからバレてないけど、その力の所為で敵が攻めてきたっていう側面は、確かに有るの」
それにまた街並みに視線を戻し、フィオは続けた。
「だからお兄ちゃんは本気を出せない。気付かれたらまた敵がやって来るから。そうなればまた色んなモノが失われる。そういう理由でお兄ちゃんはずっと自分を責め続けてるの」
そう語ったフィオにかける言葉が見付からないレイ。
ニイルが背負っているモノの大きさが、あまりに大き過ぎる為に。
自分とは比べ物にならない程の重責に、言葉を失ってしまう。
「だからお兄ちゃんは心を殺して他人を遠ざけるの。いつもそう、お兄ちゃんは自分よりも他人を優先してた。だから家族の為にバケモノになって、そして周りの人達を守る為に、心もバケモノに成ったんだよ」
と、フィオは悲しげに語るのだった。
如何でしたでしょうか?
今回のニイル達の過去話ですが、大事な所は結構ぼかしてあります。
なので語ってない事はまだまだ有ると思ってください!
それは今後の伏線となりますのでお楽しみに!
ではまた次回!




