バケモノの後悔
はいどうもニノハジです〜
不穏な回、そして少しの伏線回収の回となります!
やっぱりこういう心情とかを書くの好きだなと感じる今日この頃www
楽しんでいただけたら嬉しいです!
ではどうぞ!
レイが走り去って行くのを見送る事しか出来ない一同。
静寂に包まれた部屋、誰しもが動けない中最初に動いたのはフィオだった。
勢い良く立ち上がり、ニイルを睨みつけるフィオ。
その表情は怒りと、そしてほんの少しの悲しみと同情の色が混ざっていた。
「もうお兄ちゃん!まだ子供のレイに対して言い過ぎ!レイの気持ちを知っててあそこまで言うなんて大人気ないよ!」
フィオにしては大変珍しく、ニイルを叱りつけレイの後を追って部屋を出ていく。
残された一同、特にニイルは背もたれに寄り掛かりながら疲れた様に溜息をついた。
「なんというか〜……私も酷い考えを持ってると思ってましたが〜、貴方のはレベルが違いましたね〜……どう生きればそんな思想に至れるんですか〜?」
苦笑しながらそう問い掛けるスコルフィオ。
人の上に立つ以上、感情で左右されない様に努めてきた彼女も、昔はレイと同じ考えを抱いていた。
いや、誰だって多少の差異はあれど同じ価値観で生きているだろう。
それでは国が立ち行かないから封印しているだけで、それでも根底にあるのはこの国、ひいては住民達に対する愛情に他ならない。
しかしニイルはそれを根底から否定し、情を一切考慮しない考えを持っていた。
為政者ならば完璧な国を創れる才能であり、そこに住まう者達にとっては監獄になりかねない、そんな思想。
人を従える立場から気になり、そんな質問をしたスコルフィオだったが、意外にもニイルはその質問に口を開いた。
「長い年月生きていれば……必然と至りますよ……それが幸か不幸かに関わらず……ね」
目を閉じ苦笑しながらそう答えるニイル。
まさか返答を貰えるとは思わず、驚きの表情でニイルを見るスコルフィオ。
何よりその内容の方に驚きを隠せない。
恐らく彼の力の秘密であろう事実の一部を、仮にも敵であるスコルフィオに提示したのだ。
お陰でニイルに対するある仮説が思い浮かぶ。
「同族嫌悪……というやつですかね。あまりにもかつての私を見ている様で……ついムキになってしまいました。お恥ずかしい話ですよ」
まるで敢えて開示するかの様に、この状況の詫びと言わんばかりに語るニイル。
そんな思惑もあったが実のところただの愚痴、というのが割合の大部分を占めていた。
それ程までに、今回の出来事はニイルにとっても堪えていたのである。
「お恥ずかしい事ばかりですが、一応の為セストリアの警備を増やしておきましょう。あの子が彼等を逃がす為に行動するとも限らない。私の方からもこちらのランシュを向かわせますので、それで許してやっては貰えませんか?」
苦笑を濃くしながらスコルフィオにそう提案するニイル。
フィオが追い掛けたとはいえ、今のレイが何をするか分からない。
もしかしたらセストリアの者達を助ける為に行動する可能性が有る以上、フィミニアに迷惑を掛けられない、そう判断しての言葉だった。
「なのでランシュ、お願いしま……」
そう頼もうとランシュに目を向けたニイルだったが、ランシュがほんの少し怒りの表情でニイルを見ている事に気付き言葉に詰まる。
まるで弟を叱る姉の様な表情を浮かべるランシュ。
そしてそれはフィオは当然ながらレイも、そしてニイルですらも、大昔から逆らえない迫力で。
「い、いやしかし……」
尚も言い募ろうとするニイルだったが、変わらないランシュの表情に気圧され、やがて溜息と共にこう吐き出した。
「……分かりました。あの子もそんな短絡的な事をする子では無いですからね。私の考えすぎという事で今の話は無かった事にしてください」
「え、えぇ……分かったわ〜……」
後半はスコルフィオに向けてそう言い、戸惑いながらもそれに了承する。
今のやり取りを見ると、ニイルが人間に対して無価値だと考えているとは到底思えない。
そうでなければランシュの事などお構いなしに、自分の提案を推し進めている筈なのだから。
あまりにもチグハグな言動に戸惑いを隠し切れないスコルフィオ。
「さて、それでは今度は私の質問に答えてもらってもよろしいでしょうか?」
そんなスコルフィオを他所に、座り直し改めてスコルフィオを見るニイル。
その表情は真剣で、今までのやり取りなど無かったかの様。
そんな態度故に、スコルフィオも居住まいを正し改めて内容を聞く姿勢をとる。
「何かしら〜?正直〜、貴方の願いを聞く理由は〜無いんだけど〜?」
「えぇ、だからこそ質問なのです。答えたくなければ答えなくても結構。その場合はこちらで勝手に動きますので」
一気に一触即発の空気へと変わる室内。
控えていたヴァイスもニイルを睨みつけている。
スコルフィオが謝罪した相手はレイであり、ニイルでは無い。
それを理解した上でニイルはスコルフィオに対し提案し、断れば好きに行動する、言外にそう脅していた。
お互いの関係が、レイという存在が居るからこそ成り立ち、この両者が直接仲間になった訳でも無い。
そして当のレイも話の途中で飛び出してしまった以上、未だに敵同士だという事を明確に示した応酬だった。
「良いわ〜。とりあえず〜聞くだけ聞いてあげる〜」
それに鋭い目つきで答えるスコルフィオ。
(やっぱり油断出来ない相手ね)
そう判断しながらニイルの言葉を待つ。
その視線を真っ向から受け止めながら、ニイルも本来の目的を果たすべく……
「では、貴女達は『過去の遺物』という存在を知っていますか?」
そう告げるのだった。
レイを追い掛け、城内を走るフィオ。
たまにすれ違う人を無視し、ひたすらに辺りを捜索する。
小さい城と言ってもそれは他と比較して、である。
中はそれなりに広く、そして部屋の数も多い。
知らない城の、更に敵の居城である。
レイも、そんな場所の扉をわざわざ開けてまで彷徨うとは思えなかったフィオは、まず分かりやすい場所から探し始める事にした。
その予想は見事に的中し、探し始めて数分でレイの後ろ姿を見付けるフィオ。
彼女はバルコニーにて、淡く輝く街と夜景を眺めていた。
「1人にしておいて……」
近付くとそんな言葉を投げ掛けられる。
気配を消していないとはいえ、昔なら絶対に気付かれなかったであろうフィオの存在を感知していた事実に、成長を感じ少しだけ嬉しくなるフィオ。
「ようやく見つけたのに、そんな事する訳ないでしょ!」
そんな気持ちも相まって、明るい雰囲気で声を掛けレイの横に並び立つ。
レイを見れば既に泣き止んではいたが、それでも泣き腫らした瞳は未だに朱に染まっている。
そんなレイに精一杯の愛情を込めて、頭を撫でながら努めて優しい声色で語り掛けた。
「ごめんね?お兄ちゃんもついムキになっちゃって言い過ぎただけなの。アタシからも注意しとくから一緒に戻ろ?」
フィオは家族の中で1番下の妹だった。
故に妹が欲しいと焦がれていた時も有る。
だからこそレイを本当の妹だと思い、今まで兄弟達から受けた優しさを分け与える様に、そう話し掛ける。
その優しが伝わったのだろうか。
再度目元に涙を浮かべながら、レイは夜景に目を向けたまま口を開いた。
「フィオは、悲しくないの……?私の、ううん、私達との思い出も無価値だなんて言われて……私は3人と出会えて、本当に嬉しかったのに……」
その言葉に無性に嬉しくなり、思わず笑みがこぼれるフィオ。
フィオもそう感じていた様に、レイもフィオ達と出逢えた事をこんなにも嬉しく思い、そして悲しんでくれている事実に、どうしようもなく愛おしさが溢れる。
そんなフィオに、ようやく目線を向け不思議そうな表情を浮かべるレイ。
「ごめんね、レイもそんな風に想ってくれてるって分かったら、嬉しくなっちゃって」
そう言いながら、レイの瞳に溜まった涙を優しく拭い去るフィオ。
そしてレイと同じ様に夜景に目を向けながら口を開いた。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん、ああ言ってるだけで本当の本心からそう思うことなんて出来ないって知ってるから。だって昔はレイと同じ様な事を言ってたんだもん」
「え……!?」
思わず驚きの表情を浮かべるレイ。
それはそうだろう、ほぼ真逆の考えを持ち、真っ向から否定したレイと同じ思想を抱いていたと言われたところで、そう簡単に信じられるものでは無い。
そんなレイにそうなるよね、と笑いつつフィオは続けた。
「お兄ちゃんがあれだけ言ったのは、お兄ちゃんがレイと同じ、皆を救いたいって行動した結果、凄く後悔したからなんだ」
そう語るフィオの表情はとても辛そうで。
痛みと悲しみを堪えている様な表情だとレイは感じた。
「だからレイも同じ後悔をしてほしくなくて、あれだけ強く言っちゃったんだよ。だからって言い過ぎだと思うけどね!今頃、心の中では結構後悔してるんじゃないかなぁ?」
お兄ちゃん優しいから、そう言い終えたフィオの表情には苦笑が浮かんでいるが、その悲痛さは隠し切れていなかった。
あれだけの事を言われたにも関わらず、傷付かず寧ろニイルに同情するかの様に言うフィオ。
そんなフィオ達の関係性が気になり、今まで踏み込めなかった質問を口に出すレイ。
「一体貴女達に、何があったの?」
それに痛ましい笑みを浮かべながら、フィオは語り出す。
かつて、バケモノがバケモノに成るに至った、その後悔を。
如何でしたでしょうか?
遂にニイル達の過去を少しだけ掘り下げる時がやって来ました!
でも全部ではありません、ほんの少しだけお見せする形で考えています。
まだまだ伏線は残しておきたいですからね!www
では次回もお楽しみに!




