謝罪と困惑
はいどうもニノハジです〜
戦いも終わったにも関わらず不穏な回となっております…
楽しんでもらえるか不安ですがよろしくお願いいたします!
「言い訳にしか聞こえないと思うけど〜。あの日〜全員の意思で滅ぼそうとした訳では無いの〜。それを知っておいてもらいたくて〜」
そう締め括り、スコルフィオは過去を語り終えた。
彼女にとっても嫌な思い出だったのだろう、そう言い終わった彼女の顔には疲労が見え、苦悶の表情を浮かべている。
だがこの中で一番苦痛を感じているのは間違いなくレイだろう。
そんな彼女は話を聞き終わった後も俯き、その表情は薄紫色の髪に隠れて伺い知れない。
「だから私は〜貴女に敵対しないと誓ってるの〜。私も自分の国を守ってるから〜、貴女の気持ちは少しは分かってあげられるし〜」
気遣う様な表情を浮かべスコルフィオはレイへと話し掛ける。
その間もレイは無反応だがスコルフィオは構わず続けた。
「だからこそ、あの時貴女達を救えなくて本当にごめんなさい。私の力が足りないばかりに、貴女にはとても辛い過去を背負わせてしまった。謝っても許される事では無いけど、それでもこれが私の本心よ」
口調を本来のものに戻し、椅子から立ち上がり頭を下げるスコルフィオ。
その後に続いて控えていたヴァイスも頭を下げた。
「償いに、貴女の要望を可能な限り叶える事を誓うわ。それだけじゃ許してはもらえないでしょうけど、誠意だけは示しておかないと」
頭を下げ続けるスコルフィオ達だが、レイは一向に反応を見せない。
怒りを露わにするでも無く、悲しみに涙を零すでも無く、ただ俯いたまま微動だにしなかった。
「失礼ですが、この子が失ったのは故郷そのものであり、それに代わる様な物はこの国そのものを貰い受ける事と同義だと思うのですが、そう考えてもよろしいのでしょうか?」
見かねたニイルが口を挟む。
それにスコルフィオは頭を上げ、苦笑を浮かべながら言った。
「私よりもこの国を良くしてくれるのならいくらでも差し上げるし、私の命を差し出す覚悟は有るわ」
それにヴァイスが驚きの表情を浮かべスコルフィオを見るが、構わずスコルフィオが続けた。
「でもこの国を滅ぼすというのならそれは呑めない。もしそれが要求なのだとしたら私は最後まで抗います。この国の子達は私の命よりも大切な、何よりも替え難い宝物なの」
真剣な顔でそう言うスコルフィオ。
その覚悟を持った表情と言葉で、彼女がどれだけこの国を愛しているかが伺い知れる。
そして少し悲しげな表情になりつつ、口調も戻しレイへと言った。
「お金や欲しい物が有るなら〜時間は掛かるだろうけど必ず用意するわ〜。それ以外でも〜力になれそうな事には〜協力を惜しまないつもりよ〜?何か望む物はあるかしら〜?」
その言葉に全員がレイを見るが、やはりレイは俯いたまま何も言う事は無かった。
全くの無反応、それにスコルフィオは悲痛の色を濃くする。
そのまま数秒してもレイに動きが見られなかったので、代表してニイルが代わりに答える事にした。
「今はこの子も混乱している様なので、返事はまた今度という事でよろしいでしょうか?」
それに苦笑しながら頷き、スコルフィオも答える。
「そうですね〜急に言われても浮かばないでしょうし〜。整理がついたらまた来てください〜。それ迄は〜好きなだけこの国に居ても構いませんので〜」
そう言って座り直し、ヴァイスに指示を出すスコルフィオ。
それに懐から少し大きめの袋を取り出し机の上に置く。
金属が擦れる音、どうやら中身は大量の金貨の様だった。
「これはその分の滞在費用と〜今朝の騒動の報酬です〜。貴女達はこの国を救ってくれましたからね〜。足りない様でしたら〜言ってくだされば追加しますので〜」
どうやら全面的に協力するというのも嘘では無いらしい。
当面の活動資金の援助、更に今回の騒動での報酬も加えてそれなりの金額が入っているのを確認するニイル。
そこでようやくレイが動きを見せた。
相変わらず俯いたままだが一言呟く。
「あの人達は……どうなるの?」
それは、今回レイ達が戦ったセストリア王国の者達を言っているのだろう。
彼等を打ち倒した後、レイ達はそのまま撤収したので行方が気になっていた様だった。
「セストリアの人達は〜、全員ここの地下牢に捕縛しています〜。今は治療を受けているところでしょう〜」
そう答えるスコルフィオ。
彼女はそのまま続けた。
「彼等はセストリアの〜重要な人間です〜。そんな者達が〜他国で破壊活動をしていたのですから〜、それ相応の対応をとらざるを得ないですね〜」
そこまで言われたところで初めてレイは顔を上げ、スコルフィオを見据える。
その表情からは何の感情も読み取れない無表情で有りながら、何かを隠す為に無表情を貫いている、そう感じさせるものがあった。
「なら彼等の命の保証をしてちょうだい。それが私からの要望よ」
と、レイはスコルフィオにそう告げた。
今までの会話から全く想像もつかなかった要望に、スコルフィオだけでなく、その場に居る全員が困惑の表情を浮かべる。
「えぇっと〜……それは〜……」
「無駄な事をするのは止めなさい」
言い淀むスコルフィオを遮り、ニイルが口を挟む。
それに思わずニイルを睨みつけるレイ。
その瞳には隠し切れない怒りの感情が含まれていた。
「無駄ってどういう事かしら」
「そのままの意味です。誰彼構わず救おうなんて無理な話なんですよ。少し力を手に入れたからといって思い上がるのは止めなさい。それこそ正に傲慢ですよ」
その言葉に頭に血が上るのを自覚するレイ。
自分の要望を否定された事よりも、憎むルエルと同類扱いされた事がレイにとって何よりも耐え難い侮辱だった。
「彼等は国からの命令に忠実に従っただけだわ!なのにこんな事で殺されるだなんて、英雄と呼ばれる彼等にとってあまりにも屈辱の筈よ!人類にとっても大きな損失に……」
「彼等もそれを覚悟の上で国に仕え、戦っているのでは?その考えこそ命を懸ける彼等に対する冒涜だと思いますがね」
故に声を荒らげるレイだったが、ニイルの反論がそれを遮る。
そもそも、とニイルは続けた。
「相手が誰であれ命を狙って来た時点で彼等は明確な敵であり、そんな相手を野放しにするのが貴女の『復讐』なのですか?」
「そ、それは……」
思わず言い淀むレイ。
ルエルに対して絶対の憎悪と殺意を抱いているだけに、ニイルの反論は的を得ている。
しかし今回は前提から全て違うのだ。
だからこそ理性では分かっていても、レイの感情がニイルの意見を否定する。
だがそれを言葉にする前にニイルは言葉を続けた。
「復讐とはそういうモノです。関わる者全てを歪ませその人生を大きく変容させる。そしてその末に彼等は今、この国で囚われたのです」
まるでレイが作り出した結末だと言わんばかりの言葉を、ニイルは更に続ける。
「この国にとっては利用価値は有るが私達には無い。そんな相手を助けて次襲われた時、貴女はまた彼等を退ける事が果たして出来ますか?今回は運が良かったものの、彼等も次は対策を講じて来るでしょう。そんな彼等に殺されてもまだ貴女は同じ事が言えますか?だから言ったのです、そんな考えは『傲慢』だと」
レイが望んで無いにしろ変わってしまった相手の人生。
それを解決出来る力も無いのに救おうと考えるのは傲慢だ。
そうニイルは言外に告げる。
それは今までの言い聞かせる様な話し方と違う、淡々と事実だけを述べる様な言い方で。
そのニイルの変化に気押されつつも、レイは尚も反論しようとする。
「でもだからって……利用価値だけで人間を測るなんて……」
そこまで言ったところで、更に冷酷な声音でニイルが遮る。
「この世の全ては利用価値が有るか否かの違いでしかなく、それは人間でも変わりありません。価値が有る内は使い、無くなれば棄てる。それがこの世界の理です」
その言葉にレイは絶句する。
つまりニイルにとっては全て等しく同じ価値であり、その中で自分の都合の良い存在だけを選んでいる、という事だ。
それはレイの、いや、生命有るモノなら誰しもが否定するだろう考え。
どんな生物でも生きていれば多かれ少なかれ群れをなし、それが相互扶助をし合い社会を形成していく。
これはその命の有り様を真っ向から否定するものだった。
「なら!ランシュとフィオもそうだって言うの!?貴方にとっては利用価値が有るから一緒に居るだけだと!?」
溢れそうになる涙を堪えて、震える声で叫ぶレイ。
そのニイルの考えでは、家族という概念すら無価値という事になる。
今まで仲が良さそうに見えていたそれが実は偽りだったと、そう信じたくない一心でそう問い詰める。
何故ならそれが本当なら、レイとの時間も無価値という事になってしまうから。
だがその問いを発した瞬間、ランシュとフィオは目を伏せた。
まるでニイルがどう答えるか分かっているかの様に。
「その通りです。私も彼女達も、互いに生きるのに必要だから一緒に居る。ただそれだけに過ぎません」
そしてそれは事実だったのだろう。
思案する様子も無く即答するニイル。
まるで大昔からの変わらぬ考えだと言わんばかりの言葉に、レイの脳内にニイル達と過ごした日々が思い起こされる。
この思い出が嘘だったという事実に、遂に堪え切れなくなったその瞳から大粒の涙を零しながら、囁くように再度問い掛けた。
「人との思い出は……?その人への感情や想いも無価値だと言うの……?」
その言葉に少しだけ哀愁を滲ませながらニイルは答えた。
「生命の価値はその死後、周りの人間が決める事でありその道程に価値は有りません。その人物が生前何を成したか、それを見て人はその人物に価値を見出すのです。そして思い出も、言い換えれば物に対する愛着と同じでいずれは廃れていく記憶です。あの人が愛おしい、この人と一緒に居たい。そういった感情は個人のエゴであり、寧ろ呪いと呼べるでしょう」
それを聞いたレイは堪らずとばかりに立ち上がり叫んだ。
「人は!生命は!物なんかじゃない!大切な思い出を!呪いだなんて呼ばないで!」
事ここに至り、ようやく全員が理解した。
レイが何に対し不満を覚え、怒りを顕にしていたのかを。
レイは、スコルフィオやニイルが生命を物としか見ていない事に憤っていたのだと。
しかし気付いた時には既に遅く。
レイは涙を流しながら部屋を走り去っていくのだった。
如何でしたでしょうか?
心理描写とか書き出すと文字数多くなるんですが、読みづらくないですか?
こういうの書くの好きなんでしょうね多分www
でもダラダラ書いてる感じになってないかが心配です…
次回も長くなるかもな〜なんて思いつつ次回も楽しみにしていただけると幸いです!




