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バケモノが愛したこの世界  作者: 一一
第3章 色欲花柳編

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登城

はいどうもニノハジです〜

戦闘も終わりいよいよ終盤へと差し掛かってきました!

引き続きお楽しみいただければ幸いです!

ではどうぞ!

 全てが終わりレイ達4人がいつもの宿に戻った時には、太陽が昇り始める時間になっていた。

 朝日に目を細めると緊張が解れたのか、途端に空腹と眠気がレイを襲う。


(そういえばご飯もまだだったわね)

 仕事終わりの食事をするつもりがここまでの騒動になってしまった事に、つい苦笑してしまうレイ。


 今すぐにでもベッドに飛び込みたい欲求を堪えて、まずはニイルの部屋でレイとニイルの治療を行う事となった。

 治療と言っても例の如く、ニイルの用意した魔法薬を飲むだけなのだが。


 しかしそこで一悶着起きた。

 ニイルから差し出された魔法薬を見た瞬間、今までの鬱憤(うっぷん)が爆発したのだろう、レイが以前苦言を呈した時以上の怒りでもってニイルに詰め寄ったのだ。


「魔力は治癒魔法では回復しないからこれを飲むのは分かるわ。でもいい加減この地獄を何とかしないと耐えられない」

 と、今までニイルに向けた事の無い剣幕でそう告げたのだ。


「以前貴方は言ったわね?飲んだ事が無いから分からない、と。なら今すぐ貴方も飲むべきだわ。そうすればいかに貴方が悪逆非道な行いをしてきたのか分かる筈よ」

 その迫力は、フィオやランシュでさえもレイを止めるのを躊躇(ためら)わせる程。

 流石のニイルもその雰囲気に呑まれつつ、抵抗を試みる。

「い、いえ……私も飲みたくないから飲まない訳では無く、()()()()()()()()()()()()()()()だけで……」

「下手な言い訳は止めてちょうだい。いいから黙って飲みなさい」


 ニイルもスコルフィオに対する結界で、脳へのダメージを負い魔力も減少している。

 故にレイはその言葉を嘘と切り捨て、まるで『雷装』を纏っているかの如くニイルから薬をひったくり、ニイルの口へと流し込んだ。


 そしてその日、ニイルは長年連れ添っているランシュやフィオですら見た事が無い表情を浮かべ、薬を改良する事を固く誓ったのだった。



 その後軽く食事を済ませ、各々部屋で休息となった。

 到着した時は喧騒(けんそう)に包まれていた宿も、レイ達が食事を始める頃には落ち着きを取り戻しつつあった。

 街の状況を確認したくもあったが、夜にはスコルフィオとの約束、何より眠気が限界に達しレイは泥の様に眠りに落ちていった。

 あのニイルですら、食事が終わるとすぐに部屋に引きこもってしまった程だ。

 それぞれ自覚していないだけで疲労が溜まっていたのだろう。

 もっとも、ニイルの場合は薬の不味さの影響が多分に有りそうだったが。



 そうして充分な休息を経て、夜、4人はスコルフィオの待つ城へと向かった。

 一応の為今まで通りフードを被り赴く4人。

 認識阻害魔法を付与しなかったので初めは門番に怪しまれたが、レイ達が名乗るとすぐに対応を改め城の中へと通されたのだった。


「来る途中街を見てても思ったのだけれど、朝にあんな出来事があったとは思えない程静かね」

 城内を見渡しながら呟くレイ。

 ここフィミニアに(そび)える城は、一般的な宮殿等と比べるとサイズは比較的小さい。

 それでも中で務める人間はそれなりに存在し、先程から色々な人間とすれ違ってきた。

 しかしそのどれもが慌てている様子も無く、穏やかな日常の一幕という印象を受ける程、城内、いや街でさえも平和な状況だと見受けられた。


「あの後、スコルフィオや街の自警団が治安維持に努めたのでしょう。しかしたった半日足らずでここまで落ち着かせるのですから、彼女の手腕はやはり並大抵の物ではありませんね」


 と、手放しで賞賛するニイルに少し複雑な心境を覚えるが、しかし確かにその手腕には流石のレイも舌を巻く。

(流石フィミニア(このくに)を建国しただけの事はあるわね)


 スコルフィオの持つ力やカリスマ性だけでは無い、元娼婦からここまで来た彼女の(たゆ)まぬ努力を想像して、少し気圧されてしまうレイ。


「こちらの部屋で少々お待ちください」

 そんなレイの心情を置き去りに、案内人から指示が飛んでくる。

 中に入ってみると、そこには大きな円卓と椅子が並んでおり、それ以外は特に目を引く物は無い。

 所々に装飾が施されているがそれも控え目で、部屋の広さも比較的小さい。

 てっきり謁見の間に通されるものだとばかり思っていたレイだったが、この部屋はどう見ても……

「会議室?」


 そう、内政や軍部に関する話し合い等を行う部屋と言われた方がしっくりくるのである。

 実際、レイの幼い頃の記憶では、国王である父がよくこの様な部屋で重鎮達と議論を交していた。

 それ故に出た発言だったのだが、どうやらニイル達も同じ感想を抱いていたらしい。


「そうですね、少なくとも一国の主と面会する場ではない事は確かです。部屋も無人ですし、信頼されているのか、はたまた罠なのか……」

 そう言いながら瞳を漆黒に輝かせ部屋中を見回るニイル。

 何か罠が仕掛けられてあるなら、それで見破る事が出来るだろう。

 そう思いつつレイも部屋を見渡す。


 確かに部屋は無人で、更に部屋の外に衛兵等も配置されていなかった。

 罠だとするならあまりにも杜撰(ずさん)で、そうでないのなら意図が読めない。

 案内人は部屋に案内した後、すぐに部屋を去ってしまったので意図を聞くことも出来ない。

 思わず困惑してしまう状況であった。


「取り敢えず普通の部屋の様です。閉じ込められた訳でも無く、今すぐどうこうされる状況でも無さそうですので、ひとまず座って待ってみますか」

 一通り見て回ったニイルはそう言い、手頃な椅子に座り目を閉じる。

 それに習ってランシュとフィオもその両隣に座った。


(頼もしいのか肝が据わっているのか……いえ、その両方かしらね……)

 その堂々とした佇まいに内心苦笑しつつ、レイもフィオの隣に座るのだった。



 それから約数十分後、レイとフィオが談笑していると、ランシュの耳が動き次いで顔を扉へと向ける。


「来ましたか」

 一拍遅れてニイルが目を開き、レイも気付く。

(嫌な気配が2つ……ようやくお出ましね)


 それは『神性付与保持者(セルヴィ)』の気配ともう1つ、更に強力な気配。

 つい先程目の当たりにしたお陰でそれが『神性保持者(ファルサ)』だと分かる。


「ごめんなさ〜い。お待たせしました〜」

 そうして部屋に現れたのは、相変わらず気の抜けた喋り方をするスコルフィオと、以前城前で出会ったヴァイスと呼ばれる女性だった。

 スコルフィオはパタパタと小走りでやって来て、円卓の空いていた席に腰掛ける。

 ヴァイスはその後ろに控える形で止まった。

 その2人以外の人物は無し。

 そう、護衛の騎士等も付けずたった2人でこの場へとやって来たのだ。


(確かに『神性付与保持者(セルヴィ)』が居れば護衛は要らないでしょうけれど、それにしても不用心過ぎるわね?)

 2人を見つつ部屋の外に意識を向けるが、変わらず他の人間の存在は感じられない。

 それにレイは益々困惑してしまう。


 それは他の3人も同様でランシュとフィオは警戒心を増し、ニイルもその視線を2人から外さず常に見つめている。


「今朝からのゴタゴタで〜仕事が山積みだったのよ〜、後で〜貴方達からも〜お話を聞かせて貰えたら助かるわ〜」

 そんな心情を他所にスコルフィオが話し始める。

 どうやらあれだけ落ち着いて見えた街や城も、裏では事後処理がまだ続いているらしい。

 それを表面化だけでも平穏に戻しているのだから、やはりスコルフィオの手腕は計り知れない。


「では本日はその話をする為にこの場を設けたのですか?」

 ニイルが視線を全く逸らさず話す。

 露骨に警戒しているという態度を出しているが、それを意に介さずスコルフィオは言った。

「それも有るけど〜言ったでしょ〜?()()()()って〜。それは〜色々と〜聞かれたくない話も有ると思ってね〜?()()()()〜?」


 それに思わず反応してしまうレイ。

 その話の中にはレイが知りたい話もある筈。

 気が気でない反応になってしまうのは仕方の無い事だろう。

 そしてどうやら人払いをしたのもその為の様であった。

 自国の人間にもスコルフィオが『柒翼』というのを隠しているのならば、その対応にも頷ける。


「でもその前に〜知ってるとは思うけど〜まずは自己紹介からね〜?私はスコルフィオ〜。『神性保持者(ファルサ)』で〜、察しの通り『柒翼』が1人〜、『色欲』の名を冠する者よ〜。そしてこっちが『神性付与保持者(セルヴィ)』のヴァイス〜」

「……よろしく」


 ほんの少しだけ呆れを滲ませる表情で、初めて口を開いたヴァイス。

 その目線はスコルフィオを向き、今にも溜息を吐き出しそうな雰囲気を醸し出している。

 以前レイ達が見掛けた時は有能な女上司という感じの風貌(ふうぼう)だったが、どうやらスコルフィオに振り回されている苦労人らしい。


「そうですね、では私から。ニイルと申します、どうぞよろしく」


 そこからニイルを皮切りに自己紹介をしていく。

 ランシュ、フィオと名乗り終わった所でスコルフィオが口を挟んだ。

「フィオリムという事は〜もしかして愛称は〜フィオさんですか〜?」

「うん、そう。みんなそう呼んでる」

 フィオが肯定すると、頷き後ろのヴァイスに向き直るスコルフィオ。


「では〜皆さんが居る時は〜私の事は〜スコルフィオと呼んでくださいね〜?同じフィオだと〜分からなくなるから〜」

「……了解よ、スコルフィオ様……」

「あ〜ん!様は止めてよ〜!」


(随分気安いのね……部下と言うより友達って感じかしら)

 その2人のやり取りにそんな事を思ってしまうレイ。

 ルエルとベルリの2人は完全に上下関係が生まれていたが、どうやらこの2人の場合は違うらしい。

神性保持者(ファルサ)』と『神性付与保持者(セルヴィ)』の関係性も色々有るのだとレイは思う。


「レイミス・エレナートよ。見て分かる通りエレナート家の人間よ。今日はその話も聞けるのでしょう?」

 最後にフードを外し自己紹介をするレイ。

 念を押す為に睨みつけながらそう言ったのだが、スコルフィオの反応はレイの想像とは大きく違うものだった。


「……『紫電の王女』様……」

「は?」

「え、あ、あぁ、ごめんなさい〜つい口をついて出ちゃったみたい〜」

 少し恥ずかしそうにそう答えるスコルフィオだったが、初めて呼ばれる名前に困惑を禁じ得ないレイ。


「『傲慢』の彼から聞いてた通り〜綺麗な薄紫色だったから〜。ついそんな名前が思いついちゃったのよ〜」

 二つ名については気になるところではあったが、それよりも聞き捨てならない言葉に反応するレイ。

「『傲慢』、と言ったわね?それはあのルエル・レオ・ナヴィスタスの事かしら?」


 それに笑顔を浮かべながらスコルフィオは答える。

「えぇそうよ〜。その彼が以前ここに来てね〜?ボロボロの状態で〜貴方達の事を教えていったのよ〜なんで私の居場所を知ってたのかは謎だけど〜」


 やはりルエルはレイ達から逃走した後、『柒翼』達と会っていたらしい。

 他の人物との接触は分からないが、大方自分が回復する迄の時間稼ぎとして『柒翼』を利用しようとしていたのだろうとレイは考える。


「彼からは〜貴方達を殺せって言われたけど〜私には彼に従う義理も無いし〜それに話したい事もあったからね〜」

「話したい事?」


 その言葉に訝しげな顔をするレイ。

 それに頷きながらスコルフィオは続けた。


「そうよ〜。12年前、一体何があったのか〜話しておこうと思って〜」

「……ッ!」


 まさか自分から話し始めると思っていなかったレイは、期待と驚愕に息を飲む。


 そんなレイを見つめながらスコルフィオは話し始めた。

 あの日、何故エレナート王国が滅びる事になってしまったのかを。

如何でしたでしょうか?

次回遂に謎の核心へと迫ります!

その後の展開がどうなるのか、お楽しみに!

ではまた次回!

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