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バケモノが愛したこの世界  作者: 一一
第3章 色欲花柳編

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惑わす者

はいどうもニノハジです〜

前回の訳分からん状況の説明回となります!

これで伝わるかな?

伝わらなかったらどうしよう...

私にもっと文才があれば...

そう思い続ける日々であります泣

とにかく楽しんで貰えたら何よりです!

それではどうぞ!

「一体……何が起こってるの……?」

 震える声で(ささや)くレイ。

 誰かに対して言った言葉では無い。

 ただひとりでに、無意識の内に出た言葉であった。


 レイは全てを目撃していた。

 スコルフィオの周囲に突然現れた騎士達も。

 その騎士達と戦うマーガも。

 スコルフィオが燃やされ、しかし何故か死なずにマーガ諸共斬られる所も。

 そして、意識を取り戻したマーガの首が刎ねられる所も……


 その全てが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なのでもちろん現実には何の変化も無く、項垂れたまま動かないマーガ、それを見つめるスコルフィオ。

 そして結界内でそれを見ているレイ達、全員が微動だにせずその行く末を見守っていた。


「今までのアレは全て()()です……スコルフィオ(かのじょ)が魅せた幻覚がこの結界すらも貫通し……私達にも見えたのが先程の光景です……」


 いや、1人だけ肩で息をし、ふらつきながらもレイの疑問に答える人物が居た。

 ニイルである。

 彼は地面に手を付き、結界を維持しながらもその漆黒に輝く瞳でスコルフィオを視続けていた。


「ぐふっ……!」

 しかしその様子は明らかに異常でその瞳からもちろん、鼻や耳からも血が流れ、最後には吐血迄してしまった程。


「ニイル!?」

「お兄ちゃん!?」


 そのあまりにも異様な姿に声を上げるレイ達だったが、それを手で制しニイルは話し続けた。

「大丈夫です……脳の処理限界を超えただけで……まだ耐えられますので……流石に4人分の視覚情報を処理するのは……()()私には厳しかった様です……」


 そう言われレイは気付く。

 以前ルエルと戦った際、レイが神威賦与(ギフト)を使用した時も似た様な事をニイルは行っていた。

 今回もそれと同じ様に、結界内のレイ達3人分の情報処理を、ニイルが肩代わりしてくれたのだろう。


「で、でも!それでも結界が防いでくれたんじゃないの!?たかが幻術魔法程度で、どうして貴方がそこまでダメージを負っているのよ!?」

 あの時のレイは神威賦与(ギフト)を使用していた。

 その際に脳へと与えられる情報は尋常では無い。

 そう考えれば4人分は多いとしても、ここまでのダメージをニイルが追う筈は無いとレイは思っていた。


 しかし、そのレイの叫びは苦笑と共にニイルに否定される。

「『神性(アルカヌム)』がその程度の力な訳、無いでしょう?」


 その言葉に二の句が継げなくなるレイ。

 そんなレイに苦笑を濃くしながらニイルは続けた。

「『色欲』が相手を惑わす力だと言うのは()()()()()()()。故に幻術関連の能力だと予想を立て、その対策としてこの結界を作ったのですが……やはりそれだけでは足りなかった様です」


 それに瞳の輝きを増しながらニイルは続ける。

()()()では、神の力の詳細を視る事は出来ません。なので少ししか分かりませんが恐らく先程の幻覚、あれは相手の視覚のみならず、相手の魂、更に現実に迄()()()()()力を持つと思われます」

「現実?」


 レイの問に、えぇ、と頷きながらニイルは続けた。

「彼女の幻覚は魂さえも誤認させ、幻覚で受けた傷は現実の肉体をも損傷させる。そして恐らく、本気を出せばその幻覚すらもこの現実世界に呼び出す事が可能だと思われます。先程大量の騎士を見たとフィオが言っていましたが、それは幻術で生み出した物でしょう」


 そう言ってニイルは先程から全く動かないマーガを見る。

「今回の幻術はかなり威力が抑えられてあったので、結界でなるべく幻覚作用を無効化し、それでも抑えきれないものは私の視覚を共有、魂にこれは幻覚だと認識させ被害を抑えました」


 つまり、ニイルは4人分の『神威賦与(ギフト)』から流れてくる情報を処理していたという事。

 1人分の『神威賦与(ギフト)』でさえ、普通なら廃人確実の情報量を、それを4人分である。

 いかにバケモノと呼ばれるニイルであっても、その負荷は計り知れないものがあった。


「そ、それじゃあ……」

 私達の所為でニイルをここまで傷付けてしまったの?

 そう、泣きそうな顔で聞こうとしたレイに、まるで言わんとする事が分かっていたかの様に遮り、否定するニイル。

「いいえ、貴女達の所為ではありません。『神性(アルカヌム)』が相手なら仕方ない事です。仮に目を閉じようとも、魂にまで影響を及ぼす幻覚はその程度では防げません。そして幻術を防ぐ事が出来たとしても、その幻を現実に持ち込まれれば今度は物理的な戦闘力が必要となってくる。これがこの世界の神秘。貴女が敵と看做(みな)す『神性保持者(ファルサ)』達です」

「凄〜い!そんな事まで〜分かるんだ〜?」

 圧倒的実力差に打ちひしがれそうになった時、レイの耳にそんな声が届く。


 見ればスコルフィオが微笑みながら手を叩き、こちらに近付いて来ていた。

 それに一斉に戦闘態勢に入るレイ達。

 ニイルは結界の維持に動く事が出来ない。


「あ〜ん待って待って〜。ここで貴方達と〜戦うつもりは無いわ〜?」

 慌てた様に、口調だけは全く慌てていない様に思える言い方で、立ち止まり指を鳴らす。

 途端、周りの幻覚は消えマーガもそのままうつ伏せに倒れ込んだ。


「……ハッ!……ハア……ハア……」

「お兄ちゃん!」

 ニイルも漆黒の眼を閉じ結界を解除する。

 ふらつき血反吐を吐きながらもフィオに支えられ立ち上がった。

 そんなニイルに代わり、レイが全員の疑問を代弁する。


「戦う気は無い?それはどういう意味かしら?」

「そのまんまの意味よ〜?私はここで〜貴女達と事を構えるつもりは無いわ〜?もちろん〜?貴女達がやる気なら〜?私も相手してあげるけど〜?」

 剣を抜き警戒するレイに向けて、そう言い放つスコルフィオ。

 その後彼女はチラリと自身の後方に目を向ける。


 レイ達もそちらの方を見てみると、遥か後方からこちらに向けてやって来る集団が見えた。

 先頭に先日見かけたヴァイス、その後方には現在ニイル達がお世話になっている自警団の面々や、先程幻術で現れた騎士達も大勢見える。

 どうやらあれが先程ニイルが言っていた、現実に干渉する幻覚なのだろう。

 空想を具現化出来るとはこういう事か。

 あれ程の物量を呼び出せるとなれば、疲弊しきったレイ達では到底太刀打ち出来るとは思えない。

 それ以前にニイルがこの調子では、スコルフィオの扱う幻術を打ち破る事すら不可能だろう。


 舌打ちをしながらスコルフィオに目線を戻すレイ。

 しかし、ここまで追い込まれたレイ達と、スコルフィオは戦う気が無いのだという。

 罠と疑わない方が無理からぬ事だった。


「私達を見逃すというの?」

 レイからの問い掛けに微笑みを絶やさずスコルフィオは答える。

「見逃すも何も〜。貴女達は〜この街を救ってくれた恩人だと聞いてます〜。彼等からこの街を守り〜避難誘導までしてくれた人達を〜何で捕まえなきゃいけないんですか〜?」


 そう答えながら、倒れているマーガ達を見るスコルフィオ。

 確かに、レイの願いでこの街を守る様に立ち回ったのは事実。

 目撃者からの証言からそう判断されたのなら、この対応は頷ける。


「それに〜()()()()()()と〜今回の件については〜全くの別問題ですので〜。これで〜貴女達を捕まえでもしたら〜私が街の皆から怒られちゃいます〜」

「……ッ!」


 しかしスコルフィオは何故レイ達がこの国に来ているのか知っている様だった。

 にも関わらずこの対応では、誰が見ても罠と思ってしまうだろう。

 思わず剣を握る手に力が入るレイ。


 それを見て困った顔をしながら溜息をつき、スコルフィオは話す。

「なら〜今日の夜にでも〜私の城に来てください〜。そこで〜()()()()()()()()よ〜?」

 と、レイに向けてそう言い放った。


 それはルエルが言っていた、12年前の事件の真相の事も含まれているのだろう。

 これでレイは、例え罠であろうともスコルフィオの思惑通りに動かなければならなくなった。

 今日の夜殺されに行くのだとしても、真実を解き明かさなければこの旅の意味が無い。


(いえ、それならこの場で刺し違えてでも……)

「落ち着きなさい」


 レイが覚悟を決めこの場で戦おうかと考えた時、その思考を遮る様にニイルの声が響く。

 ようやく息を整えたニイルはフィオに礼を言いつつ、レイの頭を撫でながら続けた。

「彼女の実力があれば、今この場で私達を制圧する方が手っ取り早いでしょう。わざわざ回復の猶予を与える意味がありません。それに彼女からは敵意が感じられない。ならひとまず信じても良いでしょう」

「でも……!」


 少し赤面しながらも尚も反論しようとするレイだったが、直後息を吐いたスコルフィオを見て怪訝な顔をする。


「そう言ってもらえると〜こちらも助かるわ〜。正直〜?貴方とは〜ここでやり合いたく無かったし〜?」

 そう言うスコルフィオの顔には明らかに安堵の色が見える。

 どうやら今までの発言も、ニイルを警戒しての物だったらしい。

 そうだと分かればレイも納得する事が出来た。


「おや、こんな手負いを相手にそこまで警戒せずとも。どうせ回復したところで『神性(アルカヌム)』には太刀打ち出来ませんよ」

「どうかしら〜?そう言いつつも〜余裕が見えるのよね〜?そもそも『神性(このちから)』を知ってる時点で〜貴方は脅威でしかないんだけど〜?」


 お互い笑みを浮かべつつもその目は全く笑っていない。

 この状況は、警戒しつつも利害が一致した結果だと一目見てレイも判断出来た。


「そういう事なら、この場は引く事にするわ」

 そう言い剣を収めるレイ。

 それを見てスコルフィオも笑顔を取り戻した。


「では〜また夜に来てください〜お待ちしてますので〜」

 そうして踵を返し去っていくスコルフィオ。


 その後ろ姿を見送りながらニイルが(ささや)いた。

「『神性保持者(ファルサ)』相手に死なずに済んだのです。まずは生き残った事を喜びましょう。そして夜に向けて回復に努めるのです。問題が起きればその時対処すれば良い」

「うん……」


 こうして一抹の不安を残しつつも、英雄2人との戦いは幕を閉じたのだった。

如何でしたでしょうか?

これにて英雄戦終了となります!

そして物語の核心、そして第三章も終盤へと差し掛かりました!

あと何話で終わるかは全くの未定ですがお付き合い下さい!

では次回もお楽しみに!

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