覚悟と決着
はいどうもニノハジです〜
前回に引き続き戦闘シーンとなります!
今回の戦闘は自分でも結構気に入っているので皆様も楽しんで頂けたら幸いです!
ではどうぞ!
「さぁ、そろそろ決着をつけましょうか?」
挑発する様にそう告げるレイだったが、決して勝算の目処が立ったからでは無い。
寧ろその逆で、いよいよレイの魔力の底が見えてきたからである。
これ以上長引けば、2人を削り切る前に確実にレイが魔力切れを引き起こす。
当初想定していた、最悪のシナリオ通りに進む事が予想出来た。
故に、レイらしからぬ挑発も兼ねた宣言を行ったのである。
しかしその挑発を受けても、対する2人の冷静さが失われる事は無かった。
もちろん、状況的に追い込まれている事は重々承知の上だがそれでも尚、2人は勝利を諦めてなどいない。
この程度の苦境、英雄と呼ばれるようになってから今まで、いやそれ以前からも、幾度となく乗り越えてきたのだから。
「しかし追い込まれてるのもまた事実ってね。そっちはどう?」
わざと明るい雰囲気を醸しながら言ってのけるマーガ。
ここで悲観した所で状況は好転しない、それ故の態度だった。
「確かに早々に決着を付けたいのはこちらも同じだがな。だがこちらも奴を殺れるだけの決め手が無い。持久戦に持ち込まれればこちらの敗北は目に見えている」
マーガなりの気遣いに感謝しつつ、しかし厳しい現状を冷静に突き付けるブレイズ。
マーガの魔力も、ブレイズの体力も限界に近い今の状況では短期決着を狙うレイと同じではある。
しかしこちらの手の内を全て晒し、その上で互角である。
少しでもレイを上回る要素が無い限り勝ち目など……
「いや、有るよ」
と、マーガは断言する。
「さっきやってみてコツは掴んだんだ、だからさっきよりも大量の魔法を生み出せしてみせるよ。それを使えば彼女の手数の多さと機動力を削げる筈さ」
先程ぶっつけ本番で使用した複製魔技と『真強化』の併用。
その経験を活かしレイの速度を殺すとマーガは言う。
「そして隙が生まれたなら、君はあの技を使えるだろう?」
そう笑いながら問い掛けてくるマーガに、ブレイズは1つの技を思い浮かべる。
それは彼が『剣聖』と呼ばれるに至った理由。
彼が独学で生み出し、現状彼しか使えない奥義『五重斬』であった。
一瞬にして五回斬り付ける、彼の剣速でしかなし得ないその技なら、確かにレイを捉えられるだろうとブレイズも考えていた。
しかしあの技の発動には一瞬だが溜めを必要とする。
その所為で機動力に優れるレイには使用出来ずにいたのだ。
だがそれをマーガが止めてくれるという。
ならば確かにこれは決定打になり得るかもしれない、そうブレイズは考えた。
「チャンスは一度きり。上手い事僕の魔法を利用して彼女の動きを止めてくれ。但し、僕はほぼ全ての魔力を無差別に魔法として打ち出す。君の事は考慮出来ないし外せば僕は魔力切れを起こすだろう。だからこれは賭けだ。それでも君は……」
「信じるさ」
言いかけた言葉を掻き消すようにブレイズが応える。
その顔にはいつも無表情なブレイズらしからぬ笑みが浮かんでいた。
「昔からの腐れ縁だがお前を信用しなかった事等無い。これしか方法が無く、お前が考えた案ならば俺はそれを変わらず信じるのみ」
そのブレイズの言葉に釣られて笑うマーガ。
(感情が表に出にくいから勘違いされがちだけど、彼って結構人情深いんだよね)
昔からそんな彼を尊敬しているマーガは拳を突き出し。
ブレイズも自分の拳をぶつけて、2人は同時に叫んだ。
「「よし!やるぞ!」」
「オォ!」
空気が震える程の声を上げながらレイへと翔けるブレイズ。
『真強化』のお陰でその速度は尋常ではないが、『雷装』状態のレイには到底及ばない。
(何か仕掛ける気ね)
警戒しつつ先手を打つために出力を上げレイも突撃する。
そしてまたしてもブレイズの間合い直前で出力を下げ、先程よりも滑らかに速度の緩急を生み出す。
「それはもう……見切っている!」
しかし完全にブレイズを捉えたと思われた剣は、ブレイズの短剣により阻まれる。
先程よりも確実に防ぎ辛い攻撃を難なく捌いて見せるブレイズに、内心驚愕するレイ。
(たった1回見ただけでもう通用しなくなるなんて!技の完成度を上げても無駄という事ね!)
確認する様に何度か斬り結ぶも、やはり全て防がれる。
剣を振り下ろす途中で変速を行う等、フェイントを織り交ぜる事すら出来るようになったレイの剣閃すらも、全く通用しなかった。
そしてこの距離はブレイズの間合い、その変速の合間を縫い確実に反撃を行ってくる。
(魔力が心許ないけどしょうがない!ここはさっきと同じ様に速度で撹乱し……)
「ハッ!?」
一旦距離を取ろうとしたレイを囲む様に、先程よりも更に大量の魔法が展開される。
今度は速度重視の雷魔法のみ。
だからこそ量も先程よりも多く、回避すら困難とさせる。
(この量は……!『雷装100%』じゃないと捌き切れな……)
「この瞬間を待っていた」
一瞬の隙。
普通なら隙にすらならないその刹那を完璧に見切り、ブレイズは剣を上段に構えレイへと踏み込む。
その瞬間レイの肌は粟立ち、本能が狂い叫ぶ。
技は必中、当たれば必殺。
生存本能が逃げろ、避けろ、生き延びろ、そう叫び出す。
身体強化と違い、『雷装』により底上げされた知覚だからこそ分かる。
あれは当たってはいけないモノで、今のままでは捌くことすら出来ないと。
1秒にも満たないその時間。
次の瞬間に訪れるであろう死を。
しかしレイの脳内では走馬燈では無く、先程思い至った思考が思い起こされていた。
それは『雷装』の出力変更の際に思い付いた事。
未だ扱い切れない『神威賦与』への応用。
現状それを為せるだけの実力も時間も無い。
ならばそれを出来る様に、出来るやり方をこの場で行う必要が有る。
(でなければ死ぬ!この瞬間に覚悟を決めろ!)
「『神威賦与発動』!」
レイの瞳が漆黒に輝き、一瞬だけ『神威賦与』を発動させる。
それは能力の暴走、又は脳が情報の処理をし切れず廃人となる前に能力を解除してしまえば良いという、力技ではあったがレイが今出来る最大の考慮であった。
レイの周りに展開された魔法を解析、全て同じ構成なのが幸いしそれ程情報量も多くない。
故に、周囲に展開されている同じ構成の魔法を全て消し去るレイ。
そしてブレイズを見据え、通常の状態では行えなかった『雷装』の制限を取り払う。
レイの周囲に展開されていた魔法が、一瞬で消えた。
それにも動揺せず、前だけ見据えるブレイズ。
奥義を発動するまでの時間は整い、後は全身全霊を持って剣を振り下ろすのみ。
(思えば『真強化』で使った事は無かったな)
今まで相対してきた相手では、ここまで追い詰められる事は無かった。
故にこれが初めての使用となる訳なのだが……
(失敗する気がしない。寧ろ今までよりも最高の技を繰り出せそうだ)
今は身体能力も知覚も、その全てが倍以上となっている。
ならこの奥義ですら今まで以上になるだろう。
そう確信し、剣を振り下ろす。
「『十重殺』!」
「『制限解除』!」
2人の叫びが重なり、直後音が掻き消える。
そう錯覚する程の、音を置きさった2人の剣閃が衝突する。
刹那に生まれたブレイズの十の煌めき、全てが絶殺の威力を持つそれをレイは正面から捌き切り……
勝敗は、目にも止まらぬ迅さで付いた。
「ハア!」
裂帛の気合と共に振り切ったレイ。
その剣は見事にブレイズを斬り裂き、後方のマーガを巻き込みながら吹き飛んだ。
「はあ……はあ……ぐっ!」
直後激しい頭痛に膝を着いてしまうレイ。
一瞬だったにも関わらず、『神威賦与』が脳の処理能力を少し越えた様だった。
気付けば鼻血と血涙も出て来ている。
「よく頑張りましたね、まさか勝つとは思いませんでしたよ」
そんなレイの頭上から声が降ってくる。
見上げればニイルが空から降りて来るところだった。
その言葉に少しムッとし言い返そうとしたのだが。
「無茶をしましたが確実に強くなりましたね。英雄を倒したんです、誇って良いですよ」
そう素直に褒められ言葉に詰まってしまう。
「さて、随分派手に動いたので今すぐここから退散しましょう。本来の計画とは少し外れてしまいますが、仕方ないです……」
「?ニイル?」
周囲の結界を解除しながらレイへと手を差し出すニイル。
それに掴まりながら立ち上がったレイだったが、急に言葉を止めたニイルの態度を不審に思い声を掛ける。
見ればニイルは先程ブレイズ達が吹き飛ばされた方を見つめていた。
レイもその視線を追うと、微かに土煙の中から人影が見える。
「ブレイズが覚悟を見せたんだ、なら僕もそれに応えなくちゃね」
ふらつきながらもそう呟くマーガが、土煙の中から姿を現すのだった。
如何でしたでしょうか?
決着!と思いきや?
そんな回となりました!
そしてそろそろ3章も佳境です!
予定では佳境の筈ですwww
でももう暫く続くので引き続きお楽しみ頂けたらと思います!
ではまた次回!




