人でありながら人を越えし者
はいどうもニノハジです〜
ようやく最近少し暖かくなってきた今日この頃。
50話を超えてまだまだ第3章は続きますが、引き続きお付き合いください!
ではどうぞ!
『雷装』を発動し形勢を覆す事に成功したレイだったが、その胸中は穏やかではなく、決して油断出来る状況では無い事を悟っていた。
(あの距離で発動した『雷装』の、しかも略式に反応して未然に防ごうとして来た……後ほんの少し遅れていたら私がやられていただろうタイミングで。しかも……)
レイは土煙が上がる方を見る。
それぞれブレイズとマーガが吹き飛んだ方向だったが、どちらの気配も感じる。
どうやら2人共戦闘不能には至っていないらしい。
(それなりのダメージを負わせた筈だけれど、それ以上に魔法障壁が邪魔をして思った以上に傷を与えられなかった。まさかあの一瞬であれ程の魔法障壁を生み出すなんて……)
現在あの2人には動きが無い。
すぐに動ける様な傷では無い筈だが、土煙が邪魔をして詳細が見えない。
もしかしたら罠か、それともこの『雷装』の対策でも講じているのか。
しかしこの『雷装』を発動している以上、レイも悠長にしていられる時間が無くなったのは事実である。
(さっきの攻撃、あの時は『強化+10』に『雷装80%』だった。それで決定打にならないのなら『雷装100%』を使うしか無い。だからこそ魔力の使い道を考えない……と……)
そこでレイはある事に思い至る。
それは常に全力でいる事の必要性だ。
魔力運用の観点から見れば、これは非効率も甚だしい。
(例えばそう、今みたいに。常に80%を維持するんじゃ魔力を無駄に垂れ流しちゃう。そうじゃなく必要な時だけ出力を上げ、そうじゃない時は下げてしまえば……)
そう考え意識を集中させてみる。
いつでも『雷装』の出力を上げれるように強化魔法はそのままで、『雷装』の出力だけを下げていく。
一瞬、解除するという選択肢も浮かんだがすぐに否定するレイ。
再発動の際は、略式とはいえ一瞬だけ発動に時間が掛かる。
先程はその隙を突かれそうになったのだ。
強者との戦いでは出来るだけそういった隙は無くすべきだろうと判断する。
(とりあえず30%なら大抵は反応出来る筈。後は都度出力を調整して対応する様気を付ければ……)
そして更に考え至るレイ。
この技術は様々な応用が利くのではないか、と。
そう、例えばレイの持つ『神威賦与』にだって……
(今はまだそれを扱える段階では無いけれど、でもこれに似た様な事をすれば今でも……)
「っ!」
自分が更に強くなれるかもしれない希望を見出したレイだったが、前方で起きた異変に意識を現実に引き戻される。
そこには遂に立ち上がった2人の英雄の姿があった。
時はほんの少し遡り、レイに吹き飛ばさた直後。
ブレイズとマーガは土煙の中、お互いの状況を確認しあっていた。
「マーガ、生きているか?」
「何とかね……そっちは?」
「無事とは言い難いがまだ動けそうだ。お前の魔法障壁のお陰だな」
傷の程度を確認し、お互いが戦闘可能だと判断する。
しかし体は痺れ直ぐに動けそうにない。
いや、作戦も無しに直ぐ行動したところで勝ち目は無いだろう。
レイの今の状態は、2人にとってそれだけの脅威であった。
「あんな魔法見た事無いが、お前は知っているか?」
レイが攻めて来ない事を幸いに、回復と対策に充てる2人。
ブレイズが、魔法の専門家であるマーガに先程の魔法について聞いてみるが、予想通りの答えが返ってきた。
「いや、僕も初めて見るよ。凄いね、まさか自身に雷魔法を掛けるなんて。あまりにも素晴らしく、あまりにも恐ろしい魔法だ」
しかし考察はしていたのだろう、予想よりも遥かに詳しい内容の返答が返ってきた。
「雷魔法を掛ける?それだと自傷行為にしかならないのではないか?」
言葉の意味が分からず思わず問い掛けるブレイズ。
マーガの言葉通りなら、レイは自分自身に雷魔法を撃ったという事。
それだけでは今のレイの状態の説明にはならない。
「そうじゃないんだ。原理は全く分からないけど、彼女は雷魔法を、強化魔法と同じ様に自身に付与して使ってるんだと思う。それがあの素早さと、僕達の痺れの正体じゃないかな?」
「そんな事が……」
可能なのか、思わず続きそうになった言葉を飲み込むブレイズ。
何せ目の前に現実として存在しているのだ。
しかし認めたくない現実に、思わず目を逸らしたくなってしまう。
尚もマーガは語る。
「下手をすれば雷そのものの天災にだってなれるかもしれないけど、今そうしてないって事は少なくとも雷以下の速度でしか動けないって事じゃないかな?ま、大分こちらの希望的観測が入ってるんだけど」
と、苦笑するマーガにブレイズは疑問をぶつける。
「まさか先程の攻撃、お前には見えていたのか?」
それに呆れ顔でブレイズを見るマーガ。
「逆に聞くけど僕に見えると思う?その質問は僕がしたかった位だよ」
昔から根っからの研究者気質で、肉体労働はブレイズが行ってきた。
今でも体を動かす鍛錬を嫌うマーガだが、ブレイズは生まれ持っての天賦の肉体と、それに満足せず日々努力を行う精神力を秘めていた。
それ故の質問返しだったのだが、その返答にマーガは驚きの表情をうかべる事になる。
「俺には僅かにだが見えていたぞ」
「本当かい?」
だが、とブレイズは続ける。
「俺の肉体があの速度に付いて来れない。あのスピードには反射ですらも動く事が出来ないだろう。通常ならな」
その言葉に1つの可能性に思い至り、喜色を浮かべるマーガ。
「じゃああの方法なら!?」
「恐らく対応可能だ」
同じ事を考えていたのだろう、力強く頷くブレイズ。
「なら勝算はまだ有るね」
そう言い体を起こすマーガ。
ブレイズも体を起こし、両手に剣を握り目を瞑る。
「信じるぞ」
「僕もだよ」
そうしてこの世で2人しか知らない魔法を発動させるのだった。
ブレイズはその恵まれた肉体に、更に努力を重ね『剣聖』にまで至ったが、自身が保有する魔力が少なく魔法は苦手としていた。
ならその長所を更に伸ばそうと考えたのが、ブレイズとは逆に魔法の才に恵まれたマーガだった。
ブレイズが使う強化魔法を更に強化出来ないか、常に考え続けていたマーガ。
レイ達はあっさりと使っていたが、天才でも頭を悩ませる程強化魔法の強化、延いては魔法陣の書き換えは難問であり、世界がその課題に取り組む程であった。
しかし長年の研究の末に、マーガとブレイズは1つの成果を得る。
まだ使いこなせるのは2人だけであり、実戦にも使った事が無い故に公表すらしていない魔法。
それは2人で行う、強化魔法の強化であった。
まずマーガが創り出した、強化魔法に闇属性の妨害魔法を混ぜ込んだ、新たな強化魔法をブレイズが使用する。
その効果は本来全身に行き渡る強化を妨害し、脳内にのみ作用する様に改造した魔法だった。
それにより少ない魔力で脳内のみを強化、本来なら上げることが出来ない反射神経や動体視力等の知覚の部分を向上させる事を可能としたのである。
もちろん、それだけでは肉体が知覚に付いて来られない。
それを補う為に、マーガがブレイズに強化魔法を付与する。
その結果、脳にしか影響を及ぼさない強化魔法と、肉体にのみ影響を及ぼす強化魔法が、干渉を起こさずに1人の人間に掛けられる事を可能としたのだ。
ただでさえ普通の人間より優れた肉体性能を持つブレイズである。
その彼の性能全てを2倍以上に引き上げたならば……
立ち上がった2人を見て今まで以上に警戒をするレイ。
何故ならブレイズが、先程とはまるで別人の様な圧力を放っているから。
決して浅くは無い傷の筈だが、ブレイズは寧ろ先程よりも動けそうな気配を漂わせている。
(マーガがブレイズに力を集約させた?そんな事が可能なのかしら。いや、可能だとして行動するべきね。今のブレイズはルエルに匹敵しそうなレベルに思えるし)
それ程の嫌な印象をブレイズから受け取るレイ。
故に先程よりも強烈に攻める事を決意する。
(一瞬だけ……出力を上げる……30%から90%に!)
最初の80%より更に出力を上げ、一気にマーガへと斬り掛るレイ。
マーガがブレイズの補助を行っているのなら、まずはそのサポーターであるマーガを潰そうという魂胆であった。
全く反応出来ていないマーガであったが、しかしその目論見はあっさりと反応してきたブレイズによって阻まれる。
「嘘!?」
偶然などでは無い、明らかに狙った動きに驚きの声を上げるレイ。
レイの剣はブレイズによって弾かれ、レイは一旦距離をとる。
その様子にマーガは満面の笑みを浮かべ、ブレイズもほんの僅かだが笑みを浮かべ同時に叫ぶ。
「「さぁ!第2ラウンドの始まりだ!」」
人を越えし英雄は、遂に雷をも捉えたのだった。
如何でしたでしょうか?
これどっちが主人公か分からんなwww
まぁでも私の中の英雄像は何時だって主人公なのでそういう風に見える様に書きました!
皆様にもそう感じて貰えたら幸いです!
さて、構想では第3章もそろそろ佳境に差し掛かる予定です!
あくまで予定なので分かりませんが引き続き第3章をお楽しみください!




