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バケモノが愛したこの世界  作者: 一一
第3章 色欲花柳編

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47/88

英雄と呼ばれる二人

はいどうもニノハジです〜

今回の話で新たな敵の正体が分かります。

あ〜成程!と思っていただければ幸いです!

「どうだマーガ?奴はまだ生きてるか?」


 倒壊した建物に消えたレイを油断無く見つめながら、剣士の男が問う。

 未だ土煙のせいでレイがどうなっているのかそれは定かでは無いが、()()()()を持つ彼には相手の状態が視えているだろうと分かっての問いだった。


「まだ生きているよ。随分強固な魔法障壁を張れる様だね。やっぱり魔法師としての腕も一流みたいだ」

 案の定、マーガと呼ばれた長身の男がその瞳をもって答える。

 彼とは幼馴染みの腐れ縁で、その才能を1番理解していた。

 そんな彼が一流と認めた相手ならば一筋縄ではいかないだろうという事を、改めて再認識する。

(まぁ、あのルエル殿を退けた相手だ。()()()()()()()の相手だとは思っていなかったが……)


 2人は知っていた。

 世界的にも英雄と呼ばれる2人だが、真に最強の名を冠する存在はルエル(かれ)だと言う事を。

 あまり表舞台に立たない存在だっただけに彼の実力を知らない者が多いが、彼と一緒に働いていた者達はその強さを良く知っている。


 だからこそ最初彼が負けたと報告を受けた時は、何の冗談かと思ったものだ。

 しかし実際に相対してみて、目の前の相手(レイ)がかなりの強者だと言う事は瞬時に理解出来た。

 その証拠に。


「ブレイズ!」

「……っ!」

 マーガの警告と共に、土煙の中から一瞬にして肉薄して来たレイの剣を、両手の剣で受け止める。

 ブレイズと呼ばれた彼も剣の腕には自信が有った。

 その彼を持ってしても一流と認めざるを得ない程の身体能力と剣の鋭さが、彼女には有った。


「身体強化をあれ程の速さで展開するとは!それも略式かい!?あの難しい強化魔法の略式を、これ程まで使いこなせる人間が存在するとは!」

 レイが魔法を発動しようとしたところをマーガは視た。

 故にブレイズに警告を発したのだが、その時には既に魔法が完成しており、一瞬にしてブレイズとの距離を詰めていた。


 幼い頃から数多くの実践を経験し、幾人もの魔法師を見てきたマーガだったが、これ程まで完成度の高い魔法を、これまた完成度の高い略式で使う人間はルエル(ひとり)しか見た事が無かった。


 マーガが驚きの声を上げている間も、レイとブレイズの剣戟(けんげき)は続く。

 周りの人間には、二人の剣閃は目で追えないレベルだったが、当人達にはお互いの力量を測る程度の軽い物であった。


(奴も身体強化を使っているが、地の身体能力差で俺の方に分がある)

(こっちも身体強化を使ったけれど、それでもまだ及ばない)

((ならば……))


 お互いが現状を把握し、仕掛けるタイミングを見計らう。

 そして剣がぶつかり合う衝撃を利用し、レイが後方へ飛び距離を取った。

(一気に畳み掛ける!)

(ギアを上げる!)


 レイに何もさせまいと、強く踏み込み一気に距離を詰めるブレイズ。

 しかしその剣先が届く前に、レイの声が響いた。

「『+5(ブーストファイブ)』!」


 その瞬間、ブレイズの前からレイが消える。

 そう錯覚させる程の速さで剣を避け、そのままブレイズを斬り裂いた。

「何!?……ぐっ!」


 レイの剣は魔法障壁に防がれながらもそれを斬り裂き、ブレイズの鎧を浅く切った。

 斬られた時の衝撃も利用し、後方へと大きく飛びマーガの隣へと移動するブレイズ。

 間一髪マーガが展開してくれた魔法障壁のお陰で命拾いしたブレイズは、レイを見据えながらも傍らのマーガに礼を言う。

「……ハァ!一気に速度が上がった!お前の魔法障壁が無ければやられていたかもしれん。助かったぞ。……マーガ?」


 しかし一向に返事が無いマーガに訝しみそちらを向くと、マーガが頭を抱え小刻みに震えていた。

「ど、どうした!?奴にやられたの……」

「凄い凄い凄い凄い凄いぃぃぃぃ!」


 その様子に心配したブレイズだったが、次の瞬間叫び出したマーガに一瞬固まり、そして呆れた表情を浮かべる。

「……いつもの発作か。今は戦闘中だぞ、後にしろといつも言っているだろう」

「何を言ってるんだい!?あんな魔法見た事無いんだよ!?アレは一体なんだろう!?強化魔法の強化かな!?それとも重ね掛け!?どちらにせよ今までの常識を覆す魔法に他ならない!まさか()()()()()()()()()()()()()()で実用化させている人間が居るなんて!どういった仕組み!?発動条件は!?効果時間は!?魔力の消費量は!?あぁ!疑問がどんどん湧いてくるよ!知りたい知りたい知りたい知りたい!」


 ヒートアップしたマーガを放ってブレイズはレイへと向き直る。

 確かにマーガの言う通り、レイの発動した魔法はブレイズも見た事が無い魔法だった。

 強化魔法だけは誰にも負けないと自負していた彼でさえ、目を見張るものがあった。

 確かにあの魔法は脅威である。

 身体能力が今までの何倍も上がり、今やレイの方が威力も速度も上だろう。


(しかし先程ので奴の速度は()()()()。今程のスピードなら対応出来る。何より……)

 口には絶対出さないが、マーガ(かれ)とならこの程度の相手なら対処出来る。

 それ程の信頼と、そして実力をもって確信していた。


(今ので仕留めたかったのだけれど、やっぱりそう上手くいかないわね……)

 レイの方も、マーガの反応に呆けはしたが、気を取り直し思考を巡らせる。

 先程の剣戟で、ブレイズと呼ばれた男の実力を大まかにだが掴んだ。

 恐らく彼の剣の腕は、超一流と呼ばれる領域だろうと予測している。

+5(ブーストファイブ)』のお陰で身体能力は上回れたが、もしかしたらこれも今後対応されるかもしれない。

 そう思って臨んだ方が良いと考える。

 そして、そんな超一流が二人。


(万全の状態ならまだしも、今の状態で相手にするにはかなり厳しい……)

 現状魔力も少ないので『神威付与(ギフト)』を使う訳にもいかない。

 そもそも『柒翼(しちよく)』達以外の相手に『神威付与(ギフト)』を使わない、と考えていたし、何よりまだ使うにはニイルの補助が居る。

 しかしそんな事も言っていられなくなってきているのを、レイは感じていた。


(せめてどちらか片方でも落とせたら、まだ楽なのだけれど……)

 先程ので仕留め損なったのが悔やまれる。

 しかし最早後の祭り、タラレバの思考は足元を(すく)われる。

 頭を振り現状に目を向けた。


(やっぱり『雷装』で一気に片を付けるのが1番なのだけれど……この人数差、それに彼等の実力の底がまだ見えないのが不安要素ね)

 恐らく『雷装』の『100%(リミットカット)』を使えば彼等を倒せるだろう。

 しかしその後は確実に魔力枯渇で動けなくなり、それを凌がれた場合は敗北を意味する。

 一か八かの賭けを仕掛けるにはまだ早いと分かってはいるのだが……


(これ以上は()()()()()()()()()()()()()()

 そんな思考が頭を過ぎるのだった。


「もう落ち着け。後は奴を捕らえて調べれば良いだろう?今は奴への対処を考えろ」

 いよいよブレイズが痺れを切らし、呆れ顔でマーガへ言う。


「それもそうだね、ゴメンゴメン」

 それに一瞬で真面目な顔になり、マーガもレイへと視線を定めた。


「確かにあの魔法は脅威だ。さっきより格段に全てのステータスが上がってる。普通ならこれで詰むんだろうけど、でも君なら対応出来るでしょ?」

 そう分析しながら傍らのブレイズに問い掛けるマーガ。


(やっぱり……)

 その言葉にレイは内心吐き捨てる。


「まだ他に隠し球が有るかもしれない、それが不安では有るけど……なら、それが出来ない様に手数で攻めてみようと思うんだ」

 そう言った直後、マーガの周りに大量の魔法が浮かび上がる。

 数で言うならルエルよりも少ないが、それでも普通の人間からしたら絶望の2文字が浮かび上がる量である。


(略式!しかも多い!)

 恐らく略式を使えるだろうと予想していたが、一度にこれ程の量を出せるとは予想だにしていなかった。

 思考を中断し、目の前の状況に対応するべく剣を構えるレイ。


「ほら皆!巻き込まれたくなかったら離れなよ!」

 マーガが部下達に忠告しながら魔法を掃射し、様々な属性の魔法がレイへと襲い掛かる……


「……くっ!?」

 ……前にレイへと一瞬で到達したブレイズが、剣で斬り掛かってきた。

 間一髪防いだのも束の間、すぐさまブレイズは退き魔法弾が襲いかかって来る。


「くそっ!」

 移動しながら魔法を斬り伏せ、まずは厄介なマーガへと狙いを定めるレイ。


 しかしマーガへ飛び出そうとしたレイの前にまたしてもブレイズが現れ、その道を阻んでしまう。


(まるで何処に魔法が来るのか分かっているみたいに現れる!魔法も彼を避けて私だけを狙って……!)


 お互いの高い技術力と、それを完全に信頼したコンビネーションに追い込まれていくレイ。

 あまりの手数の多さに、『雷装』を使う余裕すら無い。


(このままだと押し切られ……)

「えっ!?」

「ん!?」

「何!?」


 直後レイへと向かっていた無数の魔法が消え、三者がそれぞれ驚きの声を上げる。


「今!」

 そのチャンスを逃さず、レイは目の前に迫っていたブレイズに斬り掛かり、防がれはしたが後方へ弾き飛ばす事に成功する。

 全員驚きの表情を浮かべているが、レイにはこんな芸当が出来る人物に心当たりが有った。


「遅れて申し訳ない」

 そう言いながら空から降りてきたのは、レイの想像通りニイル達3人であった。


「あれは……」

「チッ!新手か!」

 新たな人物の登場にマーガとブレイズがそれぞれ声を上げる。

 しかしそれら全てを無視してニイルはレイへと振り返り、言葉を掛けた。

「騒ぎのする方へ来てみれば、まさかこんな厄介な相手だとは思いませんでしたよ」

 苦笑を浮かべながら良く耐えましたね、と労うニイル。

 それに安心しそうになるが、頭を振りマーガとブレイズに視線を戻すレイ。

「ニイルは2人を知っているの?」


 その問い掛けに肯定し、ニイルも視線を2人へと向ける。

「彼等は有名ですし、色々調べましたからね。魔法を使う長身の男はマーガ・キャストー。『魔王』と恐れられる存在であり、もう1人は……」


 その異名を知り、レイは衝撃に目を見開く。


「ブレイズ・シュバイン。『剣聖』の異名を持つ、正しく英雄と呼ばれる二人です」


 と、そう告げるのだった。

如何でしたでしょうか?

ちゃんと引き継がれていた剣聖という異名、ここで登場です!

そしてもう1人の魔王とは...

詳しい話は次回にしたいと思いますので、お楽しみに!

ではまた次回も、よろしくお願いします!

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