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2「よく聞く」

 心が心配そうに私を見つめる。

 何もそんなに見なくてはいいじゃないか。


 誰かの声で、なにかの音で発作が起きるのは別にこれが初めてじゃなかった。

 だから、慣れている私からしたら大した問題じゃない。


 だが、彼は私を心配そうに見つめた。

 

「大丈夫か?」


 そう話す彼の声はどこか優しく、そして、何故か空っぽに聞こえた。


 違和感、この人の言葉には少しだけ違和感がある。

 そう思いながら私はゆっくりと立ち上がる。


「大丈夫」


 太陽の光で目を細める心を見ながら、私はそう呟いた。


 心はゆっくりと立ち上がり、天見(あまみ)を見つめ、小さく頷く。


「ありがとう」


 心は天見に小さく礼をした。


「金返すよ」


「いや、いいよ」


 心がポケットから財布を取り出そうとすると、天見は笑いながらそれを止めた。


「困ったときはお互い様というか、たかが百円だ。それで誰かが助かるなら安いもんだでしょ。だから、大丈夫。それよりも、対応が早いな」


 天見が何気なく発したその言葉に、心は少しばかり顔を歪める。


 対応が早い。

 その言葉が、おそらく心の中のなにかに刺さったのだ。


 私は少しズレたイヤーマフを抑え彼らを見つめた。


「まぁ、色々あるんだ」


 そう言いながら心はスマホを取り出し、時間を確認する。


「時間に制限もあるし、早く行こう」


 心はそう言って銀髪の少女の手を引いて先を歩いた。


 私はその後に続く、楽しそうに談笑しながら歩く彼らを、数歩後ろから眺める。

 楽しそうには見えるが、きっと私には合わない、騒がしいのは苦手だ。


 そう思いながら太陽を睨み、ため息を漏らす。

 

 水族館の内部に入り、視界は暗く包まれる。

 もちろん多少は騒がしいが、暗いせいか全体的に声のボリュームが小さくなる。

 この程度なら耐えられそうだ。


 そう感じながら私は彼らについていく。

 マップを開き、彼らは場所を確認する。

 暗いからか、かなり広いからか・・・迷いやすいのだろう。


 そう思いながら床に書かれた順路を示す矢印に視線を向けた。


「これ見ればいいじゃん・・・」


 私は誰にも聞こえないようにそう呟きゆっくりと視線を彼らに戻す。

 そうして、なんだかんだ外に出た。


 水族館は終わりだろうか?

 いや・・・ペンギンのエリアか・・・


 奥には人だかりが・・・

 彼らが見ているものはペンギンだった。


「小さいペンギンがいる!!」


 子供がそう話す。

 小さいペンギン・・・

 子供が指をさす方向に視線を向け、小さなペンギンを確認する。


「本当だ」


 私はそう呟き、それに釘付けになっていた。

 可愛い・・・

 小さい・・・


 ペンギンの子供だろうか?

 そう思いながらペンギンの説明が書いてある看板を見る。


「フェアリーペンギン・・・」


 聞いたことない種類だった。

 赤ん坊・・・または子供だと思っていたペンギンはしっかりとした大人だったのだ。

 あんなに体は小さいのに、しっかりと泳げている。

 群れで活動し、輪を乱すことはない。


 そんな時、少し離れたところで楽しそうに話す心達を見る。

 輪・・・


 私には少し・・・いや、かなり難しい話だ。

 この体質のせいで みんなと一緒・・・は無理だと知っている。

 学校の行事でも、私はお荷物だ。

 学校の行事は何かと大声を出すことが多い。


 それは生徒か、保護者かは時によって変わるが、人の叫び声は私にとっては苦痛でしかなかった。

 私は再度ペンギンを見て、その場を離れる。

 きっと私は、ここにはいてはいけない。

 

 これだけ人が多いんだ。

 おそらく、いなくなったことにさえ気が付かない。

 見終わるころくらいに、私は戻ろう。

 

 離れたところから、ペンギンを見つめ立ち尽くす心を見て、私はその場をはなれた。


 真っ暗な空間に誘い込まれるように、私は・・・姿を消した。

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