4「思う」
結喜と話す青年の声を聴きながら、私は黙々とアイスを食べる。
甘い。
アイスを食べたのはいつぶりだろうか。
値段は見れないし、何を買うのかは自身では分からないためか、アイスを買うことなどはなくなってしまった。
こんな暑い日に外出とは、我ながら思い切ったことをする。
「哀ちゃん?ここ兄ぃが呼んでるよ」
結喜からそう言われ、私は少し驚く。
アイスに集中しすぎたか・・・
「すいません、なんでしょうか?」
「いや・・・その目って生まれつきなのか?」
その質問に、私は小さく頷いた。
「はい、初めからこんな感じです」
私からしたら、こんな質問はいつも通り、日常茶飯事なのだ。
だから、あっけらかんと、簡単に答えたが、他人からはそんな私はどんなふうに見えているのだろう。
私は何も見えないからこそ、他人からどんなふうに見られているのか気になってしまう。
「そうかぁ・・・大変だな」
心はそう話した。
うわべだけの言葉・・・大変だな・・・その言葉には色々な意味が含まれてるのを知っている。
その大部分は「大変そうだね、まぁ私たちには関係ないけど」の意味が含まれていることが多い。
だが、それを感じ取ったのか、結喜が口を開いた。
「ここ兄ぃ・・・そんな変に同情するような言葉は控えた方がいいよ」
「え・・・?同情と言うか、感想と言うか・・・まぁ・・・嫌な奴もいるかぁ・・・すまん」
結喜が言った言葉に、心はあっさりと謝罪をした。
なぜ気が付いたのか・・・結喜からは事故で足を失くしたと聞いている。
だから、普通ではないから、私の気持ちが理解できるのかもしれない。
「いえ、気にしてませんよ」
私は微笑みながらそう話す。
うまく笑えているだろうか。
口角の上がり方は不自然ではないだろうか。
「その銀髪は地毛?」
青年はそう話す。
その質問に、私は驚いた。
髪の話。
綺麗だと、よく褒められる髪だ。
だが、その質問が来るのはかなり早かった。
正確には、一般的には目の事ばかりを聞かれ、話題がないから仕方なく髪の話に移る。
そんなもんなのだ。
この人は、私の目には興味があまりない。
それは私にとっては不思議と嬉しかった。
「はい、地毛です」
「ハーフ的な?」
「私はクォーターですね」
「なるほど」
たった四文字の言葉だが、それには関心の意がしっかりと込められていた。
直後、心が言葉を紡ぐ。
「え、ご両親どっちがハーフ?両方?」
「両方です」
「純混血かぁ」
純とは何か、混ざり合ってる時点で純ではないだろ!!と私は心の中でツッコみながら心が軽くなっていくのを感じる。
「何?クォーターって」
結喜の言葉が響く。
それに対して心が返した。
「ご両親の片方か両方がハーフってこと、確か両方でもなったはず・・・」
「ハーフ&ハーフみたいな話?」
「ピザみたいに言うなよ」
そう話す彼らからは気遣いなど感じないが、それが新鮮で、私は嬉しかった。
「さて行くか・・・何しに来たんだっけ」
そうだ、私の散歩に付き合わせて、私は何も返せていない何か返せないだろうか・・・
だがいくら考えても意味はない。答えは出ないのだから。
「あぁ散歩か・・・ここからだと・・・案外暗くなるよな。いや、日が伸びたんだっけ・・・毎日コンクリートしか見てないからわからないな・・・」
「もっと上見て歩きなよ」
「うるせぇ」
独り言のようにつぶやいた青年の言葉に、結喜が返す。
その何気ない会話は、私を置いていく。
「哀歌ちゃん・・・帰ろうか」
そう言いながら彼は席を立つ。
椅子が動く音が響き、私は耳を澄ました。
「ゴミは俺が捨ててくるから、ちょっと待ってて」
「はい、ありがとうございます」
そう言って足音が遠ざかっていく。
「お兄さんは優しいね」
「昔からね」
「羨ましいな」
「ほんと・・・私にはもったいない」
私の言葉に、結喜の声が少しばかり暗くなる。
何か、言ってしまっただろうか・・・
「じゃあ・・・帰るか・・・」
突然聞こえた声に、私は体をびくつかせる。
「あれだ、哀歌ちゃん、今後結喜とかと遊んでくれるなら向かいに行ったりするから、気軽に言ってくれ」
その声には優しさがこもっていた。
「ありがとうございます!」
私は礼をすると同時に、彼に抱いていた疑いの念を振り払い、少しばかり反省する。
この人は大丈夫だと、本能が知らせた。
そうして、また暑い空間に出て歩みを進める。
苦しかった人生・・・できることも少なく、何を目指して命を諭せばいいか、悩む人生。
そんな真っ暗な人生に、小さな光が芽生えた瞬間だった。