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2「聴く」

 太陽が身を焼く中、おそらく三十分程度の炎天下での散歩が終わる


「もうすぐ着くぞ・・・」


 ここ兄ぃと呼ばれた青年の・・・心の声が耳を刺す。

 ウィーンと機械音が響き、自動扉の開閉を知らせた。

 中に入ると同時に、涼しい風が肌を撫で、ひんやりと気持ちがいい。


「涼しい・・・」


 結喜(ゆき)の声が聞こえ、私は少し笑みがこぼれた。


 本当に暑い・・・

 年々暑くなっているような気がする。

 

「ありがとうございます」


 私はそうお礼を言った。

 

「いや、いいよ」


 心は私の言葉にそう答え、ゆっくりと歩く。

 

「人間歩かないと不健康になるしな」


 彼がそう話すと、結喜が続けて話した。


「哀ちゃんが居なかったら今頃、ベッドの上で惰性を貪ってたもんね」


「休みなんだから、休ませろよ。正当な権利だろ」


 そう言い合う彼らの言葉に、私はクスッと笑う。


「仲がいいんですね」


「こんなもんだろ」


 私の言葉に、彼はあっさりと肯定した。

 それが少し・・・いや、かなり羨ましかったのを覚えている。


 一般的には・・・私たちのような特殊な人間と関わるのは嫌なはずだ。

 めんどくさいし、地雷も多いだろう。

 それに臆さず関係を築き、ましてや仲の良さを肯定できるまでの道が、簡単なものだったとは思えない。

 彼は、努力家なのか・・・


「アイス食べるんだろ?」


 そう話す彼に、私は小さく頷く。


「うん!!」


 結喜もしっかりと返事をした。


 列に並び数分、店員の声が徐々に近づいてくる。

 そうして、注文をして、先に席に着いた。


「結喜さんは、いつも仲がいいんですか?」


「ん?」


 私の言葉に、彼女は不思議そうに返事をした。


「いえ、お兄さんと仲がいいような気がしたので・・・」


「あぁここ兄ぃね・・・」


 私の問いに、彼女は少し考えるような声を出す。

 うーんと唸る彼女に、私は首を傾げた。


「何か?」


「私たちは兄弟じゃないから、ただ、近くに住んでる幼馴染ってだけ」


「そうなんですか?」


 そう話す彼女の声は昔を懐かしむような、優しい音色がした。


「ここ兄ぃにはいろいろ支えてもらったから」


「いろいろ・・・?」


 私は首をかしげる。


「哀ちゃん・・・何か変なこと想像してる?」


「してないです」


「意外とむっつりなの?」


「してないです」


 私の反応に彼女はクスクスと笑いながら話を続ける。


「ここ兄ぃは、私が足を失くす前から私を知ってるから。その期間は三年くらいで決して多くはないけど、ここ兄ぃは人の心を読むことに長けてるから・・・気持ち悪いくらいに言い当ててきたよ」


「好きなの?」


 私がそう話すと、結喜の呼吸の音さえも止まる。


「・・・ん?」


「いや、なんか声が優しいし、柔らかく楽しそうに話すから、好きなのかなって・・・」


「私がここ兄ぃを?ないない!!ないないない!!!ないよ~」


 結喜がそう話す。


 もう好きじゃん・・・

 大好きじゃん。


 何も言わないでおこうと、私は心に誓った。


「うぃい、アイスお待たせ」


 心の声が響いた瞬間、ガタンと机が揺れた。


「・・・どうした結喜?」


「え!?な、何でもないよ~」


 結喜のその言葉に、彼は少しばかり気の抜けた声を出した。


「なんだよ、気になるな」


「気にするな!!」


 結喜がそう話すと、彼はカップを音を立てて机に置いた。


「後で哀歌ちゃんに聞こ」


「私も教えませんよ?いわゆる、ガールズトークってやつです」


 そう話す私に、彼は「えー」と言葉を漏らした。


 こんな私にも普通に接し、言葉を交わしてくれる。

 家ではあたり前だったかもしれないが、外に出れば危険にさらされる人生で、こんなにも人の優しさに触れることはこれまでなかった。


 彼らが楽しそうに話している声を聴き、私はこのひと時を楽しむ。

 この一瞬だけは、普通になったような気がした。

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