1 「触れるもの」
「ありがとうございました!」
店員の声が後ろから響く。
「結局何も買わないのか?季節がどう、今しかないものもあるとか言っていたくせに」
「ここ兄ぃ。大事なのはね、季節じゃなく、今ある中で自分に必要か、そして自分が心の底から欲しいかどうかだよ」
「さっきと言ってること違くね?」
そう言いながら車椅子を押す。
「さて、これからどうする?帰る?てか帰ろう。さぁ帰ろう。 帰る人ー!はーい!」
俺はあまりにも帰りたいがために、自身に問い、その問いに自身で賛成する。
車椅子を片手でゆっくりと押しながら俺は右手を天高くあげる。
その光景を結喜は恥ずかしそうにみていた。
「やめてよここ兄ぃ。恥ずかしい。てかそんな帰りたいの?こんなに可愛い美少女とお出かけ出来るのに?」
「はっ!何言ってるんだ。100歩譲って結喜が美少女だとして、性格の悪さが地を這ってるだろ」
「はぁ?マジここ兄ぃ最低じゃん! 性格も良いですぅ〜」
結喜はそう言って俺に舌をだす。
「知ってるか?結喜・・・人間は完璧じゃないんだぜ・・・」
「さっきの話しでしょ?それと私が美少女っていう事実にどう関係すんの?」
結喜はため息を漏らしながら俺を見つめる。
「あぁ関係ある。神は二物を与えない。・・・これがどう言う意味かはよくわからんが、顔が良ければ性格が悪く、性格が良ければ顔が微妙って事だ」
「あ、言葉濁した。顔の部分は多方面に敵を作るかもしれないから逃げたでしょ?はっきり不細工って言えばいいじゃん」
おっと。結喜ちゃん怖いこと言うね、今の時代ボコボコにされちゃうよ?
「だ・・だが。間違ってはいないぞ・・・顔は微妙でも化粧で可愛くなる。だがな、心は化粧出来ないぞ、ソウル傾向はお先真っ暗だ」
「ソウル傾向?またゲームの話?」
と、これだからここ兄ぃは・・・と小さく呟きながら結喜は首を振った。
「はいはい。まぁいいや。帰ろ」
結喜は呆れたようにつぶやいた。
「おい待て、結喜がそんな態度とると俺が子供みたいじゃんか」
「男はいつまでも子供でしょ?プラモとか、仮面ライダーとか、ゲーム。あと下品、ずーっとそれ」
「男はいつまでも子供?わかってないな、男って生き物は自身が楽しいと思う事をやっているだけだ、他者からの評価を気にせず強行・・・真の強者・・・あれ?ちょっと待てよ!」
気づいたら車椅子が手を離れ、結喜は自身で操作し先に進んでいた。
俺は小走りで車椅子を追いかけ、帰路につく。
夕方にはなっていない。
時間は・・・14時か・・・
帰ってゲームでもするか。
カラカラと車椅子を押しながらそんなことを考える。
コンクリートの道をただ、車椅子を押しながら歩いている。
「帰ったら何するの?ここ兄ぃは」
「ゲームかなぁ」
「またぁ?」
そんななんでもない話が心地いい。
そんな時、目の前にある少女が見える。
壁に手をつき、杖で地面を叩きながら歩いてくる。
別にそれだけなら気にはしないのだが、綺麗な顔立ちに銀髪。
日本人とはかけ離れた容姿に目を惹かれた。
「あ!哀ちゃん!」
結喜がそう呟いた。
「え?哀ちゃん?どれ?」
「前の人前の人」
そう言って結喜は前にいる少女を指差した。
「あれ?結喜さんの声?」
そう言いながら少女はキョロキョロと頭を動かす。
「目が見えないのか?」
「言ったじゃん」
結喜にそう言われた。
言われたっけ?うーん・・
俺は店での会話を思い出す。
「真っ暗な世界で生きるのは大変だもん」
回想の中で結喜がそう話す。
え?
あれか?比喩じゃなくて、ガチ真っ暗?
「説明不足にもほどがあるだろ!」
そんな話をしてあると、少女の白杖が車椅子に当たる。
「あ、あ、ごめんなさい!」
謝る彼女に結喜は話しかける。
「こんにちは、哀ちゃん。どこ行くの?」
「少しお散歩です。 家の近くをウロウロとしているだけですよ?」
そう話していた。
だが、1人でウロウロとするだろうか。
そういえば・・・目の見えない人はどうやって道を覚えているのだろう。
「結喜さんは?」
「私は買い物ー。近くのお店に行ってたんだ」
「もう少し詳しく説明してやれよ」
俺がそう話すと、哀ちゃんと呼ばれた少女は体をびくりとさせた。
そうか。
結喜だけがいると思っていたのか。
確かに、そうだよな。
声がしなければ1人だと思うよな。
「あ、え?男の人もいるんですか⁉︎ 結喜さんの彼氏さん⁉︎私、邪魔ですよね!す、すいません!」
先程までの清楚な感じがすべて何処かに吹き飛び、顔を赤ながら足早に横を通る。
ゴツン・・・
鈍い音が響き、後ろを見ると少女は電柱のそばでしゃがみ込んでいた
「あぅー痛い・・・」
電柱に頭をぶつけたのだろう。
焦ったとはいえ危ないな。
俺は彼女にゆっくり近づく。
「大丈夫? 別に彼氏でもないし、焦らなくていいよ?」
「え、あ。そうなんですか?・・・良かったですぅ」
そう言って少女はゆっくりと立ち上がり、確かめるように俺の腕を触る。
「あ、ありがとございます!」
「うぃ。哀ちゃん?だっけ。 俺は鳴海心。よろしくね」
「あ、私は鳳山 哀歌です!よ、よろしくお願いします!お兄さん!」
そう言って、哀歌は頭を下げた。
「で、ただ散歩じゃあれじゃない? どこか行きたいところあるなら、結喜と一緒に行こうか」
「い、いいんですか?」
哀歌はそう言って少し考えたあと・・・
口を開く。
「なら、近くの大型ショッピングモールに行きたいです!道を覚えたいので・・・」
哀歌はそう話した。
大型ショッピングモール・・・
今そこから帰ってきたけど・・・
仕方ない。提案したのは俺だ。
「お、オーケー・・・」
「よろしくお願いします!」
哀歌は再度頭を下げる。
頭を下げた少女とは反対に、俺は空を見上げた。