3「生まれたもの」
こんにちは、こんばんは鬼子です!!
体調を崩していまして1週間投稿をお休みさせていただきました!!
やっと復活いたしましたので、これから投稿を再開いたします。
今後とも、よろしくお願いいたします
翌日の放課後・・・
夕日が差し込む教室。
部活をしていない生徒はおそらく全員帰った後の放課後・・・
静かで何も聞こえない・・・
椅子から立ち上がり、窓の外を見つめると、サッカー部の連中が汗を流して走っている。
楽しそうだ・・・月並みの感想だが・・・今はそれ以外は考えたくはない。
スポーツか・・・息が上がるし、けがをすれば痛い・・・必死に走っても、ボールに触れるかすらわからない・・・きついスポーツだろ・・・なのに、楽しそうにサッカーを行う彼らを見つめて、歯を食いしばる。
俺の生き方は間違っていたのか・・・
ならどこで間違ったのか・・・
前に進んでいたのか・・・
誰かを優先することに自身の存在意義があったとして・・・何もしなくなってしまった俺はどうすればいい?
これから何かを変えて、その結果を認められるだろうか?
何も変わらなかったら?・・・そもそも・・・こんな俺のために誰かの手を煩わせてもいいものか・・・
そんな考えが頭をよぎってしまう。
「・・・鳴海君?」
静かな空間・・・静寂に響いたのは、女性の声だった。
背後から響いた声に俺は振り向き、声の正体を確かめる。
そこに立っていたのは、俺たちの担任教師、地神だった。
「・・・地神先生・・・」
「帰らないんですか?鳴海君は部活も入ってないですし・・・誰かを待っているとか?」
その言葉に俺は少し苦笑いして、地神に答える。
「俺に友達はいませんよ・・・」
俺は確かにそう話した。
友達はいない・・・巻き込まないためにはそう話すしかないだろう・・・?
どれだけ仲が良くても、結局は赤の他人だ・・・救ったからと、見返りを求めるのは少し傲慢だ。
いない・・・か。
自身に嘘をついて、そんなことを言ったのはいつぶりだろうか・・・
ただもとに戻っただけだ・・・なのに・・・その言葉は重く心にのしかかる。
「地神先生はどうしたんですか?」
「私ですか? クラスの出席簿を教卓に忘れてしまって・・・」
そう言いながら地神は黒板の前にある教卓に向かい、ガサゴソと何かを探す。
そうして、彼女は何かを探しながら話した。
「欺瞞や詭弁では何も変えられませんよ・・・」
「はい?」
地神が突然発したその言葉に、俺はうまく反応ができなかった。
「・・・あった・・・。欺瞞や詭弁で得られた未来は・・・嘘じゃないと思いますか?私は思いません。真実だけを追い求めるのはきついでしょう・・・犠牲があるくらいなら最初からやらなければいいじゃないか・・・そんなことを思うかもしれません、でも、どんなにいい未来でも、後悔する。過去の行いに、何もしなかった自分に、全部を置いて来た過去そのものに・・・」
「・・・でも、どうせ切り離されてしまうんであれば・・・」
そう話すと、地神は首を振った。
「屋上に行ってください、先生も後で行きます。帰らないでくださいね?」
そう話して俺の返事は聞かずに地神は教室から出て行ってしまう。
俺はため息を漏らして、地神の言ったとおり屋上に向かった。
扉を開け、夕日の当たる屋上に出ると風が優しく体を撫でる。
「・・・少し待つか・・・」
そう言って、屋上の端まで行き、フェンスにつかまって校庭を見下ろした。
高い・・・足がすくんでしまいそうなくらいだ。
「鳴海君!!」
瞬間、背後から地神の声が響き、俺は振り返る。
それと同じタイミングで、地神は一個の缶ジュースを投げてきた。
「・・・あっぶな・・・」
体制を崩しながらギリギリキャッチして、缶を見つめる。
「・・・ありがとうございます」
振って飲むタイプのゼリー飲料を受け取り、俺は地神の顔を見る。
地神の手に缶コーヒーが握られていて、彼女はそれを開けて飲んでいた。
「・・・コーヒーはおいしくないですね・・・」
「なんで買ったんですか」
「なんかかっこよくないですか?」
そう言いながらコーヒーを一口飲み、再度眉を歪ませている。
「何が見えていないんですか?」
缶を開けようとする俺の顔を見ずに、彼女はそう話す。
俺は地神の顔をみて、眉を歪めた。
「・・・なんて言いました?」
「だから、何が見えていないんですか?考えていることと、その結果が見えてないからそんな顔をしているんですよね?」
地神が発したその言葉に俺は目を見開く。
「なんで・・・」
「大きな壁にぶち当たったんですよね?自身の過去すらも否定してしまいたくなるような程、大きな壁が・・・」
俺は地神のその言葉にうつむく。
「私も何度かありました。そして、そのたびに、過去を思い出すんです。こうしておけば、ああしておけばもしかしたらって・・・そして何度も失った結果・・・何かを失う前に、それを失うかもわからないのに、先に手放そうとする。でも、それは正しくはありません」
「どうしてですか?」
「何もない時間も、何も成しえなかった時間も、何かを得た時間だから」
そう話す地神の言葉に俺は首をかしげる。
何を言っているのかわからない。
「何もないなら・・・何かを得た時間ってのはおかしくないですか?」
「そうですか?私はそうは思いませんけどね・・・」
俺はその言葉になにも答えられない。
そんな俺に優しく笑って地神は話し始める。
「その何かは鳴海君にしかわかりません・・・経験、自由、友達や、時間、そして思想・・・今持っている考えや後悔は、経験したからこそ生まれたもの・・・それはきっと君の周りの人たちを助けたはずです。君自身の役に立っていなくても、誰かの役には立ってる」
「でも、それを認識する術はありません・・・」
「認識が必要ですか?・・・でも・・・もう十分に証明されてると思いますけどね・・・君の周りには以前より人が増えました。それは、過去の君が、または過去に君が得た何かしらの能力が、人をひきつけたんです。それだけで十分じゃないですか・・・わざわざ自身の過去を否定して、なんでなかったことにしようとするんですか?」
その言葉に俺は何も答えられない・・・
誰かを助けるためにばかり動いていた俺は・・・自身を助けるためには何をすればいいかわからない。
そんなことを考えているうちに、あぁ・・・もういいかと、未来すら諦めてしまいそうになる。
こんなことならと・・・今まで頑張ってきた過去すらも、無駄だったと言ってしまいそうになる。
何も生まれない、生み出せないと・・・そう言い切ってしまいそうになる。
「本当に大切なものってのは・・・目には見えないんです。そして、その大切なものの正体は、鳴海君ならもうわかっています」
そう言って地神はにっこりと笑った。
俺が欲しているもの・・・
仲間が欲しているもの・・・
ずっと近くにあって・・・ずっと見えていたもの・・・
あぁ、わかってる・・・最初からずっとそばにあった。
身近にありすぎて見えてなかったものがある。
俺は・・・きっと・・・
夕日が照らし出す屋上・・・
静寂の中に、覚悟が刻まれた深呼吸が響き渡った。