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2「下された決断」

 俺は扉が閉まる音に、拳を握る。

 なんで・・・あんな顔してんだよ・・・


 チャイムと共に柳牛(やぎゅう)熊懐(くまだき)が寄ってきた。


鳴海(なるみ)・・・」


(こころ)・・・」


 彼らは同時に俺の名前を呼んだ。

 俺は顔を上げ、彼らを見る。

 どんな表情をしていたのか・・・それはわからない。


「まだ追いかければ間に合うかもしれないぞ」


 柳牛がそう話した。

 その言葉に俺は視線を下に向け、ため息を漏らす。


「間に合ったとして、何の意味がある」


「俺の時は首を突っ込んできたのに、天見(あまみ)の時は助けないのか?」


 柳牛のその言葉に俺は歯を食いしばりながら顔を上げた。


「それは、お前はまだ諦めてなかったからな・・・。諦めてしまった人間を助けるのは不可能なんだ」


 その言葉に柳牛は拳を握る。


「なんだよそれ、諦めてしまったから助けられないって・・・。じゃあぁ、お前が今までやってきたことって何だったんだよ」


 その言葉に俺は拳を握る。


「柳牛はも分かっているはずだ。心はそう簡単には変えられない・・・諦めてしまっていると、いくら手を差し伸べようが、その手を受け取ってくれるわけがない・・・」


 俺のその言葉に柳牛が胸ぐらを掴む。


「決めつけんなよ!!どんなに腐っても、救いを求めてる人間はいるんだよ・・・俺の時だってそうだったろ、どれだけ突き放してもしつこくついて来た。首を突っ込んで問題に正面から向き合った・・・その活力は、お前が誰かを思う気持ちってその程度なのかよ・・・誰にでも手を差し伸べるから・・・誰でも助けようと思うからこそ・・・そんな鳴海だからこそ・・・あの子たちはお前の事を好きになったんじゃないのかよ!!」


 そう話した柳牛はうつむきながら歯を食いしばる。

 

「俺の時みたいに後先考えずに動けよ・・・あいつはいつもだれかを支えてた・・・こんな仕打ちってないだろ・・・」


 そう話す柳牛。

 瞬間、ポケットの中でスマホが三回震えた。


 俺はポケットからスマホを取り出し、画面を見る。

 天見からのメッセージが三件・・・うち一つはメッセージ削除の通知だった。


「・・・何を言ったんだ」


 画面を確認して、メッセージアプリを開く。


(騒がしくして悪かったな・・・)


(天見がメッセージの送信を取り消しました)


(助けに来ようとするなんて考えるな・・・授業に集中して頑張れ、もう少しで期末とかだったろ)


 そう書いてあった。

 一方的なメッセージの羅列。


 俺はその違和感に首を傾げた。

 

 柳牛と熊懐が、スマホを覗き込むように顔を近づけてきた。


「・・・天見は何を消したんだ?」


 柳牛がそう話す。

 彼は首を傾げたまま唸る。


「わからん」


「きっと・・・・助けて・・・じゃないかな」


 俺の呟きに熊懐がそう話す。

 俺と柳牛は一度熊懐を見て、再度スマホに視線を落とした。


 助けて・・・

 もしそうだとして、なんで消したのか・・・

 なんで逆の言葉を再度送りなおしたのか・・・


「どうしてそう思うんだ?」

 

 俺の言葉に熊懐はうーんと考えて後に話し始めた。

 

「女子・・・というかヘラっている人に多いんだよね・・・」


「・・・ヘラ?」


「病んでる・・・みたいな。まぁ天見は違うと思うけど・・・」


 桜色の髪を揺らしながら熊懐はそう話す。

 

「具体的に聞いても?」


「うん・・・思い通りにならない・・・何かによって抑制されてきた人間は理想を大きく持つくせに、目標を叶えるときに怖気づく癖があるんだ。何かをしたいけど、どうせ失敗する。私なんか・・・・ってね」


「誰かを頼るのはだめなのか?」


「それはできないよ。そういう人間は、人をあまり信じない、過去に何かあったのか、否定ばかりの日々で自分自身すら信じれなくなったのかも。助けを求めるのは弱み・・・そう認識してるから誰かを頼れない・・・でも、周りから人間がいなくなるのは嫌なの。だがら、メッセージの削除をした。本音を打ち明けたら弱みを見せることになる・・・でも、問題を残すことで離れるのを防ぐ。心と柳牛も、今、なんて送ったんだろう?って気になってるでしょ?それが目的、まぁ、天見の場合はただの強がりだろうけど」


 熊懐のその言葉に、俺と柳牛は顔を合わせる。


「もし削除したメッセージが・・・助けてくれだったら・・・どうする?」


 柳牛の言葉に俺はスマホに視線を落とす。

 メッセージを取り消したと・・・その文字だけがやけに強調されているように見えた。


「行くぞ・・・」


 そう話して、教室から飛び出す。

 廊下を走り、階段を駆け下りた。


「お前ら・・・廊下を走るな!!高校生だろう!!」


 男性教師の怒鳴り声が響く。


「すいません!」


「ごめんなさい!!」


「うるせぇな!!」


 俺と熊懐は謝罪をしながら横を通る。

 柳牛はなぜか罵倒していた。

 あの教師に恨みでもあるのかもしれない。


 玄関に到着し、下駄箱に手をかける。


「鳴海!!そんなことしてたら間に合わなくなる!!両親が来たってことは車だ・・・上履きのまま出るしかない!!」


 柳牛と熊懐は一切の躊躇なく外に上履きのまま出る。


「・・・・クソッ!!」


 そう悪態をついて、俺も玄関から飛び出した。


 校門に走る。


「クッソ・・・悪いことしてる気分だ!!」


 俺の言葉に柳牛は楽しそうに口を開いた。


「怒られるときは一緒だ!!鳴海も、熊懐も!!」


「教師に悪態ついたのはお前だけだよ!!同罪にすんな!!」


 そう叫びながら走り続けると、スーツを着た男女に挟まれてる天見の姿が見える。


「天見!!」


 そう叫ぶと、天見がこちらに視線を向けて驚いた顔をする。

 

「・・・なんで」


「何があったかは知らない・・・興味もない!!でも、そんな顔してたら心配もする!!この決断は・・・俺の決断だ!!」


 そう話すと、天見はすこし顔を曇らせる。


「・・・そうか・・・」


 天見はそう言って車に乗り込んだ。

 小さく響き、俺は歯を食いしばる。


 無情にも車は走り出し、その後ろを見ることしかできなかった。


 息を切らしながら車の姿を見送る。


「・・・なんなんだ・・一体・・・」


「天見の家庭は大手の化粧品会社だ・・・母親が今社長をしてる・・・あとを継がせたいんだと。それが・・・あいつに自由がない理由だ」


 柳牛はそう話した。

 化粧品・・・?

 男子でもいいのか?それはそうと、まだ十六歳だぞ・・・速すぎるだろ・・・。


 今から自由を奪って・・・仕上げるつもりか?

 息を切らしながら車が消えた道路を見つめていた。

 

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