6 「大切な人」
ラックにかけてある服を取り、結喜が自身に合うか鏡を見ながら確かめる。
俺はその光景を椅子に座りながら見ていた。
何枚も何枚も自身の体に合わせ、不満そうな顔をしてはラックに戻す。
それを何度か繰り返しているいるのを、ただ遠目から見ている。
ため息を漏らし、スマホをポケットから取り出す。
もうかなりの時間服屋にいる。
俺は椅子から立ち上がり、スマホをしまいながら歩き出す。
「結喜、決まらないなら今度でもいいんじゃないか? 季節が変わればまた新しい服も出るだろ」
「ここ兄は分かってないなぁ。季節が変わったら新しい服は出るけど、今ある服は消えちゃう。しっかり大事にしないと」
「なら俺の時間も大事にしてくれ・・・」
そう言うと、結喜は俺を冷たい目で見る。
「ただ浪費するだけの時間を大事とは言わないよ。どうせ寝てるか、ゲームしてるかでしょ?」
「馬鹿やろう。睡眠は大事だろ。沢山寝れば健康だ」
「寝過ぎは寿命を縮めるらしいけど?」
そう返され、俺は歯を鳴らす。
そうなのか、寝すぎはよくないのか。
俺は天井のライトを見つめる。
「ライトは明るいのに、俺の未来は暗いな」
「別に上手くないから」
冷たい。
凍えるほど冷たい返事に、涙が出そうになる。
「そうだ、クラスメイトと会ったが、学校はどうだ」
そう話すと、結喜はうーんと悩みながら服を選ぶ。
「別にあまり変わらないよ。前からの友人は気にかけてくれるし・・・あ、そういえば変わった転校生が来たね」
「ほう?転校生か・・・」
そう返すと、結喜はうん。と短く返事をした。
「変わってるって?良くないものが見えるとかか?厨二病とかか? あとは、方言が強いとか?」
「違うよ。日本人の子なんだけどね、銀髪?白髪?なの。すごいよね」
「染めてるんじゃないのか?」
その問いに、結喜は首を振る
「地毛らしいよ? 綺麗な髪だったよ」
「ほう、仲良くしろよ?転校してきたばかりだと不安だろうし」
そう話すと、結喜は頷く。
「当たり前よ。真っ暗な世界で生きてくのは大変だもん」
結喜はそう話した。
確かに、先の見えない未来に不安を抱き、生きていかなくてはいけない。
家族や友人、幼馴染。第三者の力を借りないと、精神は保てず、人生と言う物語に自らピリオドを打つ人間も少なくはない。
たった一人、されど一人
この一人は、命を救う一人になり得る。
独りが好きな人間はいるが、一人で生き、耐えれる人間はこの世にはいないのだから。
結喜も1人だったら・・・
いや、考えるのはやめよう。
今は学校生活も安定してきている。喜ぶべきだ。
俺も高校の方は安定している。
友達・・・と呼べるやつがいるかどうかは正直わからないが、争いはない。
嬉しい限りだ。
このまま、安定して物事が進むといいが・・・」