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2「感じる」

 柳牛(やぎゅう)と握手を交わし、歩き始める。


「意外だわぁ・・・天見(あまみ)と仲良かったなんて」


 そう言いながら柳牛は俺の顔を見る。

 その瞳には何のくもりもなく、ただ純粋な興味の色が見えた。


「てか最近学校来てなかったっしょ?」


 柳牛のその言葉に俺は首をかしげて、彼を見つめる。

 下駄箱にて、彼は靴を履き替えながら俺の反応に首を傾げた。


「何・・・?なんか俺、まずいこと言った感じ?」


 そう言いながら俺と天見の顔を交互に見る柳牛を見て、天見はため息を漏らす。


「先生の話聞いてなかったのか?」


 そう言った天見の顔を見ながら柳牛は眉を歪めた。

 

地神(ちがみ)が何か言ってた?スマホ触ってて聞いてなかったかも」


 そう言いながら笑う柳牛をみて、天見は呆れたように首を振る。


「入院だよ、詳しい話は知らないけどね」


 天見はそう話し、俺の顔を見る。


「・・・そう、入院だ」


 間違ってはないからな。

 実際に入院はしていた。

 ただ・・・なんか嘘をついているようで心が痛い。


「そっかぁ・・・で、鳴海(なるみ)は履き替えないの?」


 その言葉に俺は焦り、下駄箱を見る。

 まずい・・・記憶がないから、どこにあるのかわからない・・・


「ひ、久しぶりすぎて場所忘れたわ」


 俺の言葉に柳牛は笑いだし、腹を抱えた。


「なんだそれ!!忘れないだろ普通・・・仕方ないから俺も手伝ってやるよ!!」


 そう言って、柳牛は下駄箱の扉にあるネームプレートを確認していく。


「助かる」


「いいってことよ。柳牛様って呼んでもいいぜ」


 そういいながら、指さし確認で柳牛は順々と見ていた。


「あったぁ・・・鳴海ぃ」


 そう言いながら俺の上履きが入っているであろう小さな箱を叩く。

 

「助かるわ。ありがとう」


 そう言いながら俺は上履きを取り出す。

 そんな時、視界の外から小さな声で柳牛の声が聞こえた。


「あ・・・これ名前順か」


 その言葉を聞いて俺は目を瞑る。

 漏れ出しそうになるため息をグッと抑え、立ち上がった。


「じゃ、行こうか」


 そう言って先を歩く天見と柳牛の後を追う。

 そうしてたどり着いたのは自分のクラス・・・と思われる場所だ。

 本当に自分のクラスだったかは今となってはわからない。


 クラスに入った瞬間、中にいたクラスメイトの視線が集まる。


「・・・鳴海?」


「あいつ入院してたんだよな?」


「いつの間に退院してたのか」


 そんな声が教室内に響いた。l

 

「・・・俺ってレアキャラ?」


 その光景に違和感をおぼえ、そう言いながら天見を見ると、彼は小さく首を振った。


「レアではないけど・・・地神先生の話では学校に復帰するかわからない・・・みたいな話もしてたからね」


 そう言いながら天見は苦笑いを見せた。

 

「そんな話もしてたのか」


「まぁね・・・あの人は心配性だから・・・先走っちゃったのかも」


 そう話していると、桜色の髪をした女子が近づいてくる。


「鳴海?」


 彼女はそう言いながら腰に手を当てて俺の顔を覗く。

 カラーコンタクトをしているのか、桜色の目が俺の瞳を見つめた。

 胸は大きく、カチューシャをしたロングヘア・・・だ。

 女子にしては身長が高いか?百七十くらいはありそうだ。


「・・・えっと」


 俺はそう呟く。

 誰だろう・・・こんなに迫ってくるのは・・・俺の知り合いか?


 悩んでいると、天見が話し始める。


「何をそんなに近づいているんだい?熊懐(くまだき)


 そう話す天見は俺に視線を送る。

 熊懐?珍しい名前だな。


「・・・天見には関係ないでしょ?」


「友達だから関係ないなんてことはないと思うけどなぁ?」


 そう話す天見を、熊懐は睨みつけた。


「はぁ?これはアタシと鳴海の問題だから、部外者は黙ってて」


 そう言われ、天見の表情は少しムッとする。

 彼らはクラスメイトではあるが、あまり話さないのだろう・・・

 それは、天見の声のトーンでわかった。


「・・・あぁ?テメェなんだよ・・・?急に割り込んできて、部外者はテメェだろうが」


 そう言いながら熊懐を睨みつけたのは、まさかの柳牛だった。


「は?」


「は?」


 にらみ合う二人・・・

 この状況に俺は何もできない・・・

 緊張か・・・何を考えたのかわからない・・・

 頭が真っ白になった俺は、気が付いたら口を滑らせていた。


「・・・どえらい髪の色してるんだな・・・」

 

 そう話すと静寂が流れ、熊懐が俺を睨む。

 

 あぁ・・・終わった・・・

 結喜(ゆき)癒怒(ゆの)哀歌(あいか)(らく)、俺は死にます。

 骨は拾ってくれ天見・・・


 だが、帰ってきたのは意外な反応だった。


「そう?アタシは結構好きだけど・・・あまり好みじゃない感じ?」


 その言葉に、一度去った静寂がルンルンとスキップをしながら帰ってきた気がした。

  

「え?」


 俺はそう声を漏らしていた。

 もしや・・・仲がいいのか?

 記憶を失う前の俺とは仲良しさんだった感じ?


 そう考えながら俺は天見を見ると、彼も驚き放心状態だった。 

 この反応はおそらく違うんだ。

 仲良しとかではない・・・じゃあ一体何なんだ?


 そう話していると、髪の色が派手な女子たち二人ほど集まってきた。


(かすみ)ー。急にどうしたの・・・?」


 そう話す女子は熊懐の事を霞と呼んだ。


「いや・・・ちょっと・・・」


 そう言いながら熊懐は女子と俺を交互に見る。


「いいよ・・・行ってこい」


「いや、そんなんじゃ・・・」


 俺の言葉に何かを言おうとした熊懐にシッシと手を振り、行かせる。

 俺から離れていく熊懐の姿は少しばかり落ち込んでいるようにも見えた・・・


「俺と熊懐って仲がいいのか?」


 俺がそう話すと、天見も柳牛も首を振る。


「知らない・・・てか・・・鳴海と話してるの初めて見たかも?」


 天見はそう話しながら肩をすくめた。


「確かに・・・委員会とかではあるかもしれないけど・・・こんなに・・・てか自分から話しかけてるの見たの初かもしれない・・・」


 柳牛はそう話しながら首を傾げた。


 いったい何なんだ・・・

 ・・・記憶が消えているからか・・・

 俺の生活がどんな風になっていたのか、一つも分からない・・・


 そんな時始業のチャイムが響く。

 それにまぎれるように、俺はため息を漏らした。

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