1「辿る」
翌日・・・
「ここ兄ぃ準備できた?」
部屋の外。
扉の向こうから聞こえる結喜の声に俺は視線を向ける。
「・・・できた!!」
そう言って俺は机にある小さな手鏡を手に取る。
そこに映ったのは知らない制服を着た俺だった。
「・・・よし」
そう言いながら俺は部屋を出る。
「お待たせ」
「まじで遅い。学校遅刻するよ?」
壁にもたれながら話す黒髪の少女、結喜。
彼女は俺を睨み、腕を組みながら口を開いた。
「いいね、見慣れてるけど。しっくりくるわ」
「見慣れてるね・・・?俺は着たの初めてだけどな」
初めて着た・・というのは半分正解で、半分間違えだ。
この制服を着て高校に通っていた記憶がない。
気が付いたら入学前からの記憶がなかったのだ。
少し前の俺は、これを着て高校に行っていたのだだろうが・・・今の俺は、中学に行った翌日から、急に高校に行けと言われたような物だった。
「いいから行くよ、みんな待ってるんだから」
そう言いながら結喜は階段を下りて、先に行ってしまう。
義足とは思えないほど歩くのがうまいな・・・
それについていくようにして外に出る。
外に出ると、結喜の言うとおり人が待っていた。
癒怒、哀歌、楽の姿をとらえる。
「おはようございます」
と話す金髪の少女、癒怒。
「あ、おはようございます」
と話す銀髪の少女、哀歌。
目が見えないためか、きょろきょろとしている。
「おはよう!!心君!!」
と話す青髪の少女、楽。
哀歌とつないだ手を高らかに上げて、哀歌が少し背伸び状態になっている。
楽は哀歌より、少しばかり身長が高いんだな。
「あぁおはよう」
俺は全員にそう返して、玄関をしめた。
少し歩き、俺は口を開く。
「全員こっちか?お前らだって学校だろ?」
そう言いながら話すと、俺が押している車椅子に座っている結喜が顔を上げた。
「とりあえず学校前までは一緒に行くよ、学校に遅刻するって電話はやってあるし」
そう言いながら結喜は俺の顔を見つめた。
「鳴海さんを学校まで届けてから、私たちは学校に向かいます」
そう話すのはゆっくりと歩く癒怒だった。
彼女は腕を組みながら、俺を見つめてため息を漏らす。
「みんな心配なんですよ、何かあれば今までの生活が変わってしまうかもしれませんから」
そう話す癒怒は前を見た。
「そうそう、また倒れたら大変だもんね」
そう話すのは楽だ。
彼女は哀歌と手を繋いでいるためか、こちらには一切視線を向けない。
「悪いな・・・」
俺は自身が想像していた以上に心配かけてることに気づき、気が付いたらそう話してた。
「別に謝ることじゃないと思います。困ったら助け合う・・・役に立てない私が言うのはおかしいですが・・・でも、心さんは私たちを助けてくれました」
そう話す哀歌・・・
彼女は声は弾むように明るく、少しばかりの元気がもらえる。
そうして・・・
高校校門前・・・
「じゃ、無事に送ったし、私らも学校行くわ」
そう言いながら手を振る結喜を見つめる。
ちょうど登校時間ということもあり、俺は通る学生から奇異の目を向けられる。
それは、そうだ。
中学生に送ってもらったと思ったら、校門前の真ん中で棒立ち・・・
俺は校舎に目を向ける。
綺麗な校舎・・・
俺は本当にここに通っていたのだろうか・・・
「・・・クラスが分からん」
そう言いながら俺はただ校舎を見つめることしかできなかった。
そんな時・・・
「あれ・・・鳴海か?」
横から声がした。
その声に視線を向けると、赤髪の男が立っている。
俺より少し高い身長・・・それは海浜公園で出会った人物だった。
「天見・・・」
天見は俺を見るなり首をかしげる。
「今日から復帰かい?」
「あぁ、とりあえずな・・・」
そういいながら天見の後ろにいる連中を見た。
彼らは俺に目もくれず、ただ話している。
彼らにとってはそれが日常なのだろう・・・
「どうした?入らないのかい?」
そう話す天見は何かに気が付いたように手を叩く。
そうしてゆっくり近づいて来た。
「大丈夫かい?記憶がないならクラスも分からないよね?」
小声で話す天見に、俺は頷く。
「あぁ、クラスが分からない・・・それ以前にここに通っていた実感がないというか・・・」
そう話すと、天見が肩を組んできた。
「なら俺についてきな」
そう言ってついて来た連中に混ざる。
俺は抵抗することもできず、半ば引きずられるように混ざった。
「あれぇ?鳴海と天見ってそんな仲良かったっけ??俺知らなかったわ~」
そんな中、グループの男がそう話す。
やけにテンションが高いな・・・陽キャってこんなものなのか?
身長は天見より少し低いが・・・ウェーブのかかった赤茶の髪・・・それにその髪が首くらいまでの長さがあると来たら・・・特徴はてんこ盛りで覚えるのに苦労はしなさそうな見た目をしている。
「あぁ、最近仲良くなったんだ、話してみると案外面白い人だよ」
天見はすかさずフォローをいれた。
「・・・誰だ?集合写真で見たことはあるが・・・」
俺がそう話すと、天見は眉を歪めた。
「集合写真・・・あぁ、海浜公園のやつか?確かに一緒の班だったかもね」
そう話す天見は何かを考え、口をひらいた。
「あ、そうだ。あまり話さないんだし、自己紹介でもしたら?」
天見は男を見ると、なぜかソイツは気まずそうにする。
「俺ってそんなに存在感薄い感じ?悲しいわぁ~」
そう言いながらシクシクと泣きまねをする。
あ、気まずいんじゃなくて、名前も覚えられてなかったのかと少し悲しんでいるだけだった。
「でも、そんなときもあるよな」
そう言いながらその男は俺に近づいて右手を出した。
その手は意外と筋肉質で、服の上からでは分からない筋肉が浮き出ていた。
「・・・結構鍛えてるんだな」
俺の言葉に、男は少し笑う。
「まぁ、男だからね!!」
そう話して、歯を見せながら満面の笑みをした。
「俺の名前は柳牛 忠刻、柳牛って呼んじゃって!!」
そう言いながら柳牛は半ば無理やり俺の手を取り、上下にぶんぶんと振りまわす。
「よ、よろしく」
そう言いながら俺はため息を漏らした。