表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/119

6「記憶の共有」

「やっとついた・・・」


 そう言いながら哀歌(あいか)の手を引き電車の出口まで近寄る。

 

「段差気をつけろよ」


 そう言って哀歌を電車から降ろす。

 誰の邪魔にもならない場所に哀歌を連れて行き、手を放した。


「ちょっと待ってて」


 そう言って結喜(ゆき)の車椅子を下ろすために小走りで近づく。


「どんな感じ?」


 俺の言葉に癒怒(ゆの)が頭を掻きながら首をかしげた。


「前輪が何かにかかってます」


「普通後ろからじゃね?」


 そう言いながら俺は癒怒と(らく)から車椅子を預かり、電車から結喜を下ろす。


「行くか・・・。癒怒、結喜頼む」


 そう言って哀歌のもとに向かい、手を取る。


「心さん?」


 哀歌は首を傾げた。

 あぁそうか、目が見えないから誰に手をつながれているのかわからないのか。

 誘拐とかに気が付けないのは怖いな。


「そうだ。エレベーターが近くにあるからそれで行くぞ」


 その言葉に哀歌はゆっくりと頷いた。


「ここ兄ぃ!!」


「こっちじゃない!!エレベーター行けよ!!」


 そう言いながら結喜たちに指示を出し、エレベーターに乗り込む。


 そうして・・・・


「久々に来たな・・・」


 俺のその呟きに全員が黙り込む。


 風が心地いい。

 冬の寒さが心にしみる。

 今なら心の弱さも、寂しさも寒さのせいにできる気がした。


 あまりに静かだ。

 いつも話している彼女らがこんなに静かだとは思わず、俺は横にいる哀歌と、後ろをついてくる結喜達に視線を送る。


 それは言葉にできないくらい暗く、悲しい表情をしていた。


 ・・・あぁ・・・そうか・・・机の上にあった写真、あそこには全員が映っていた。

 だとすると、少なくとも一回はここにきているということか・・・

 俺は赤色に染まりそうな空を見上げて考える。


 俺の知らない記憶をどう取り戻せばいいのか・・・

 リビングで話していた彼女たちの話を聞くと、放置していても戻るかもしれない・・・


 でも、戻らなかったら?

 時間がかかってしまうならどうだろう。

 その間も時間は待ってくれない・・・思い出せたものが戻せなくなるかもしれない。


「げっ」


 考え事をしていると、後ろから結喜の声が響く。

 俺は結喜に俺は振り返り、何に対してそんな言葉を出したのかを確認するため、視線の先を見る。

 それは先・・・つまりは俺の背後をじっと見ていた。

 

 俺はその視線を追うように正体を確かめる。

 そこには赤髪で長身の青年がいた。

 横にいるのは・・・妹だろうか?その子も赤髪で・・・まぁ似ている。


「あれ?鳴海?」


 赤髪の男は俺の名前を呼ぶ。

 その声に反応したのは、癒怒だった。


「こんにちは天見(あまみ)さん」


 その言葉に天見と呼ばれた男は驚いたような顔で俺を見る。

 天見・・・知らない名前だ。

 中学にいたか?


 いなかった気がするが・・・。


「・・・鳴海?」


「よう、天見。妹とお出かけか?」


 その言葉に天見が眉を歪める。


「・・・お前そんな感じだったか?もっとコミュ障っぽかった気がするんだけど・・・」


 天見はそう話した。

 なんだコイツ初対面で失礼すぎるだろう!!

 あぁ・・・そうか・・・初対面じゃないんだよな・・・

 俺はそんなことを考え、無意識にため息を漏らす。


「・・・俺は余計だったかな?」


 そう言ってぎこちなく笑う天見。


「・・・違う。ただ、少し考えることが多かっただけだ」


「なるほど、確かにね」


 俺の言葉に天見は首を縦に振る。

 こいつは俺の何かを知っているのだろうか。

 だが、外で声をかけてくるということは仲が良かったのだろうか・・・


「てか・・・体はもう大丈夫なのか?」


 そう言われ俺は首をかしげる。


「あれ?入院してたんじゃないの?」


「誰から聞いた?」


 俺の言葉に天見は再度眉を歪めた。


地神(ちがみ)先生からだけど・・・?あれ、これ内緒のやつだった?」


 ・・・地神だと・

 誰だソイツ。

 でも先生・・・天見は高校の同級生か・・・


 やっと俺と天見の関係が分かって来たぞ。


「いや・・・もう知ってるならいいんだ。どこまで知ってる?」


「え?入院して少しの間休むって話くらいかな?ほかに何かある?」


 俺の質問に天見はそう答えた。

 その言葉に俺は首を振る。


「でさ」


 と、天見は何かを話そうとしたが、結喜たちや妹を見てやめる。


「あぁ・・・あっちで話さないかい?」


 そう言って少し遠い石製のベンチを指さした。


「・・・まぁいいけど」


 そう言って俺は頷き、天見の後をついていく。

 石製のベンチに腰を落とす。


 そして数秒。

 俺たちは結喜と天見の妹が話しているのを見ていた。

 話せているとはいうが、あまりたのしそうではない。

 

「単刀直入に聞くけどさ」


「なんだよ」


「感情は取り戻せたのか?」


 俺はその言葉に天見を見る。


「なんでそんな驚くんだ?鳴海が決めたことじゃないのかい?」


 天見はそう話す。

 

 俺が決めたこと?

 俺は感情がなかったのか?記憶が抜けている時期ではそんなことをしていたのか? 

 まったく思い出せない・・・


「・・・なんだよ。その反応・・・まるで覚えてないみたいな・・・」


「いや・・・覚えてる。大丈夫だ」


 俺の言葉に天見は顎に手を当てて、少し考える。

 直後、口を開いた。


「・・・地神先生の性別は?」


 そんな質問だ。

 俺は戸惑う。

 地神なんて知らない・・・高校に行ったことだってないんだぞ。


「・・・女」


「正解」


 俺はその言葉にホッと胸をなでおろす。

 直後、さらに天見が口を開いた。


「入学式の日のあれ、やばかったよな」


「・・・あれ?」


 俺は天見の言ってることが分からず、聞き返してしまう。

 その光景に天見は少しため息を漏らした。


「あれを思い出せないのか?ニュースにもなったし、学校も大騒ぎだったろ」


「・・・何の話だ・・・」


 それに関しては素直に質問を返す。

 これは大事な要素だと、本能が、直感がそう叫んだ。


「知らないのか?女子中学生が巻き込まれた事故が校門の前で起こったんだよ」


 そう聞いた瞬間、どこからともなくクラクションのような音が響く。

 視界が赤くチカチカと光り、サイレンが響く。


「・・・るみ?鳴海!!」


 その声が響き、俺の意識は呼び戻される。


「すごい汗だ・・・大丈夫か?」


 そう話す天見を見て俺は額に手を置く、手がヌルりと滑り汗をかいていたのだと実感する。

 冬なのに・・・こんなに汗が出るなんて・・・


「・・・鳴海・・・何があった?」


 その声に俺は天見を見つめる。

 天見の表情は心配の色を醸し出す。

 それは真実で偽りのないものだとすぐにわかった。


 だが話してもいい内容か・・・

 重くないだろうか・・・


 でも、こんなに心配しているなら、本当に仲が良かったのかもしれない・・・


「無理には話さなくていいぞ?」


 そう話す天見を見て俺は決断をする。


「・・・実はな・・・」


 冬を感じる季節。

 偶然の遭遇。

 神は超えられない試練を与えないと言う・・・

 ならこれは試練なのかもしれない。

 少なくとも、神はいないが・・・


 そう考えつつも信じることにした。

 それは神ではなく、天見を・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ