2「あぁ、神様・・・」
翌日・・・ 11月・・・
時刻11時半・・・
東京 文京区 神社前・・・
電車に揺られ約一時間半ほど・・・
駅で合流し、電車に乗って来たのだが、会話などなかった。
「学校をサボって神社・・・」
私はそう呟いた。
別に学校に行ってもよかった。
でも、ただそんな気分じゃなかっただけだ。
ここ兄ぃの退院まではまだ少し時間がある。
それまでにただの気休めでも願掛けをしておこうと思ったのがきっかけだ。
「そうですね・・・悪いことをしている気分ですが今のような状態じゃ授業の内容も頭に入りません」
私の言葉に癒怒はそう話す。
彼女はお嬢様的家系というのもあり、こういうことには厳しいはずなのだが・・・
疲弊しきっているのか、案外あっさりと乗って来た。
それに、目は赤く腫れあがってるのを見ると、彼女の心の内を察するのは難しいことじゃなかった。
「静か・・・ですね・・・」
哀歌はそう話す。
目が見えない盲目の少女・・・
銀髪が綺麗に輝く彼女は、顔を上げながらそう呟いた。
「ま、平日だからね」
「サボりはよくないですが・・・少し特別な感じがします」
哀歌も、私と比べればいい生徒なのだ。
成績はいいはず。
よく勉強を教えてもらってるから知っている。
「でも、サボってでもリフレッシュをしなきゃ普通に過ごせない、だから私たちは集まったんでしょ?」
そう言いながら楽は少し前に歩く。
「誰も想像しなかった結末・・・でもおかしいな・・・ちっともワクワクしない」
楽はこちらに顔を向けずにそう話す。
「湿っぽくなる前に行きましょう。ここに立っていても仕方ありません」
そう言いながら癒怒は哀歌の手を取る。
大きな鳥居・・・左側にはここの神社の名前が刻まれた石の柱が立っている。
「行きますよ。兎静さん。犬神さんの車椅子をお願いします」
癒怒のその言葉に、楽は私の後ろに小走りで来て、車椅子を押す。
「大きい鳥居ですね」
そう言いながら癒怒は鳥居の前で一礼し、端を歩く。
「お邪魔します」
癒怒はそう静かに呟いて鳥居をくぐった。
私たちもそれを真似して鳥居をくぐった。
石畳の道を進む。
「何あれ・・・」
楽がそう呟いたのだ。
視界の左側・・・何本もの鳥居が立っている。
「千本鳥居的な奴かな・・・」
私はそう呟いたが、どう見ても千本もあるようには見えない。
千本鳥居は・・・本当に千本あったりするのだろうか?・・・まぁいいか
でも普段は見ない神秘的な光景に目を奪われた。
「正解です。綺麗ですね」
癒怒がそう言いながら近づいてくる。
「だね」
「・・・今の状況がなければ、こんなところに来ることはおそらくありませんでした。 きついですが・・・ポジティブに行きましょう」
哀歌と手をつなぎながら癒怒はそう話す。
「癒怒ちゃんは強いね」
私がそう話すと、癒怒は鳥居を見ながらため息を漏らす。
「そう見えるならうまくいってますね・・・」
「どういうこと?」
「ごまかしてるんですよ。私も辛いです。好きな人の記憶から綺麗さっぱりなくなって、どうすればいいのかわかりません。自身の無力さを理解してしまうと、心が持たない気がするんです・・・幻覚は治らない・・・でも、犬神さんや鳳山さん、兎静さんになら触れても影響がありません。 これは鳴海さんが教えてくれて、残してくれたものです。 鳴海さんは覚えていないかもしれませんが、私たちはしっかりと覚えています・・・あの人が残してくれたもの・・・あの人が気づかせてくれたものはしっかりと残っているんです。まだ全部消えたわけじゃありません・・・」
そう話す癒怒はどこか声が震えているように感じた。
直後、深いため息を吐いて歩きだした。
少し進むと、拝殿にたどり着き拝殿を眺める。
「すごい・・・」
煌びやかな装飾が太陽の光で輝く。
「お参りしますか・・・ここにはいろいろ・・・今の私たちに必要なのは・・・厄除け、除災招福、病気平癒、縁結び、心願成就・・・ですかね。すこし欲張りな気がしますが・・・きっとここなら大丈夫です」
そういいながら癒怒は自身の財布を取り出して哀歌とともに歩いていく。
礼儀正しく参拝する姿を眺め、それを真似するように参拝をする。
なぜか・・・神様の前ということもあり、少し緊張するのは慣れない・・・
目を瞑り、心の中で願いをつぶやく。
あぁ、神様・・・これ以上はもう・・・
何分祈り続けただろうか、目を開けたときには癒怒たちは隅の方で待っていた。
「おまたせ、悪いね、待たせて」
「いいですよ。大切なことです」
私の言葉に癒怒は優しく返す。
「では参拝も終わりましたし、帰りますか?」
「そうだね・・・ここ兄ぃってもう少しで退院だよね?」
「そのはずです」
そんな話をしながら神社を後にする。
しっかり願った。
きっと叶うはずだ、叶ってもらわなくては困る。
でないと私は・・・