2「思い知らせる」
千葉 遊園地
「・・・・混んでる」
人込みを見てそう呟く俺、それに楽は腕を組んだまま前に出た。
「そうだね混んでる!!でも少し混んでるか、すごい混んでるかの違いしかないから」
「それはほぼ一緒だろうが」
俺はため息を漏らしながらそう呟いたが、前に伸びる大通り、鮮やかな出店を目を輝かせながら見ている結喜の姿を見ると何も言えなくなってしまう。
「まぁいいや・・・行くか」
そう言って哀歌の手を引きながらゆっくりと歩く。
「で、目的は? 家を出る前に宣言したあれがあるってことは何かしらの考えがあるんだろ?」
俺がそう話すと、先を歩いていた楽は振り向いて話し始める。
「怒りも哀しみも全部が全部、対称になる感情をが必要だと思ったんだ」
「だから楽しもうってか」
そう話すと、楽はパチンと指を鳴らした。
「正解!!一人が好きな人間は一人の寂しさを知らない・・・絶望しか知らない人間は希望から絶望する気持ちがわからない。だから、誰かと一緒にいる楽しさを知らなくちゃ、一人になったときの寂しさは知りえないってわけ~」
そう話しながら歩く楽の顔を見て俺は頷く。
「確かに一理あるかもな・・・」
そう呟いて、結喜の方を見る。
癒怒が車椅子を押し、結喜の方を優しい笑顔で見つめていた。
「・・・お母さんかな?」
俺はそう言って前に視線を戻す。
「・・・それにしても混んでるな・・・よくチケットとれたな」
そう話すと、楽が癒怒を見た。
俺はその視線に気が付き、癒怒に視線を送る。
「なんだ?チケットと癒怒に何の関係が・・・」
その時、癒怒の立場を思い出す。
「あ!!結構なお嬢様だったわ・・・」
「チケットを手配してもらいました。兎静さんがそれはもうすごい勢いで懇願を・・・」
そう話す癒怒の笑顔は引き攣っていた。
俺はその表情から目を背ける。
だが、せっかく珍しい場所に来たのに妙な空気は避けたい・・・そう思い、俺は口を開く。
「でも、こんなに人がいるとアトラクションにはなかなか乗れないかもな・・・」
「それはファストパスも同時に手配してもらったので大丈夫です」
俺の言葉に少し食い気味に癒怒は話した。
その言葉に瞬時に楽に視線を向ける、それと同時に楽は視線を俺から外した。
「楽さんや?」
「私は知らないし!!」
どこに向かって言っているのか。
返答は返ってくるが、顔はこちらに向けられない。
そんな時、哀歌が笑いだす。
「仲いいですね」
「そうか?こんなもんだし、仲の良さで言うなら哀歌とも仲がいいと思うぞ?」
哀歌の言葉にそう返すと、彼女は頬を赤らめ、さらに体を密着させる。
「なんか近くない?」
楽がそう話すと、哀歌は首を小さく振った。
「え?そうかなぁ?いつもこんな感じだよ?」
そう話す哀歌に俺は首をかしげる。
そうしてこう思った。
え?そうかなぁ?いつもそんな感じじゃないと思うなぁ・・・
ま、言わないんだけどね。
別にどっちでもいいし。
「で、どのアトラクションから乗るか決めてるのか?」
俺はムスっとする楽を見ながらそう話した。
「決まってるよ!!」
そう話しながら楽はスマホでパーク内の地図を開き見せてきた。
「最初はジェットコースター!!」
そう言って楽はにっこりと笑った。
ジェットコースター・・・
結喜のような義足・・・
哀歌のような盲目の子は乗れるのか?
楽はそんなこと気にしていないみたいだし、行った方がいいだろうか?
そう思ったが、軽快なリズムを刻みながら笑顔で進む楽を見ているといえなかった。
そうして目当てのアトラクションの前まで来てしまう。
「・・・小さい・・・」
俺は小さくそう呟いた。。
ジェットコースターというからてっきり大きなものだと思っていたが、そうか・・・子供用もあるのか・・・
そんな時、癒怒が俺の横に立つ。
「心配しましたか?安心してください」
「・・・何のことだ?」
癒怒の言葉に俺はわざとらしく首をかしげる。
だが、癒怒は笑った。
「犬神さんや、鳳山さんが乗れるか不安になっていたんじゃないですか?先ほどの表情で大体はわかります」
癒怒にそう言われ、俺は気まずくなり頬を掻いた。
そうして俺は何も答えない。
というか、図星過ぎて答えられなかった。
「大丈夫ですよ。事前に兎静さんが電話で確認していますし、ガイドラインなどにもお母様と一緒に目を通しています。 私の方でも確認して載せても問題ないことを事前に知ったうえでこの遊園地を選んでますから」
「そんなことまでしていたのか」
そう話すと、癒怒は笑った。
「兎静さんは思っているよりずっと優しいです」
そう話す。
友達のためにそこまで・・・
辛いことばかりを経験しているためか、考えることが中学生とは思えない・・・
そう言われ、先を歩く楽の表情を見る。
そこには大きく口を開けて笑い、たまに子供の声に嫌な子をしている女の子のがいた。
「あれが?」
「はい」
癒怒には視線を向けないままそう呟くと、小さな返事が返ってきた。
直後に優しい声が響く。
「心は誰にもわかりません外見だけでは心情は図れない。だから言葉を交わすんです。刃にもなる言葉をやさしさのために振りかざせるなら、きっとそれはいいことなのでしょう」
「深いな・・・」
「そうですか?」
俺の言葉にクスクスと小さく笑う。
その顔は以前とは別人のように綺麗だった。
そうして並ばずにコースターに乗る。
流石ファストパス。
早い・・・早すぎるくらいに早い・・・でもコースターは遅かった。
そうしながらいくつかのアトラクションを体験し、数時間・・・
「遊園地なんて久しぶりだよ!!」
そう話したのは結喜だ。
それはあの日から失っていた笑顔を思い出させる。
キラキラとした瞳、涙を流していたといいっても誰も信じないような笑顔だ。
よかった・・・
それは自然に思ったことだった。
今思えば、俺はさみしかったのかもしれない、そうして、怒っていた。
何もできない自分に怒り、結喜を泣かしている原因に怒り、それと同時に自身の周りには誰もいないことに寂しさを抱いていたのかもしれない。
俺はきっと結喜を助けたかった。
でもそれをしたところで俺は救われない、そのギャップにおびえ、何もできない・・・違うな、何もしなかった。
人々を助けるのはヒーローだが、ヒーローの事は誰が助ければいい?
最も、俺はヒーローじゃないが・・・
「どう?心君」
突然、楽が顔を覗き込みながらそう話す。
「何が?」
あまりに急な質問に俺は首を傾げた。
「感情よ。ゲームでは無理でも、頭ではわからなくても、体がそれを覚えているから、きっとこの一発で取り戻せるはず」
そう言いた楽の表情は真剣だ。
通常・・・心因性の病気はすぐには治らない。
癒怒がいい例だろう。
でも、例外は必ずある・・・
おそらく俺は・・・もうわかってる。取り戻している。
「多分戻ったかも」
「ならよかった」
俺の言葉に楽はそう話す。
そう、きっとそこにあったんだ。
気づく前から・・・そうしてみないふりをしていた。
表には出せない、出したら終わってしまうものがたくさん詰まっているから。