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4「繰り返す」

 俺は手を拭きながらキッチンを離れる。


「で、何の話をしてるんだ?」


 そう話しながら目の前にいる黒髪の少女結喜(ゆき)と、銀髪の少女哀歌(あいか)、青髪の少女(らく)に声をかける。

 その声に彼女たちは振り向いて俺を見た。


「さっきの映画の話!!」


 そう言ってニコッと結喜は笑う。

 こんな笑顔を見たのは久しぶりな気がする。

 結喜は俺が感情を失くしてから、いろいろと我慢をさせているような気がしていた。


 きっとその予想は当たっていて、この子たちに出会ったことで何かが変わったのかもしれない。

 それは俺も同じで、結喜も含めて彼女らに会っていなかったら、全てをあきらめて怠惰な生活を送っていたに違いない。


 その笑顔は嬉しいような・・・

 俺が変えようと思って変えられなかったものがあっさりと変えられてしまったのは少し悔しいような気もした。

 

「・・・この感情は消えてないのか・・・」


 悔しいという感情は消えていない。

 自分の醜さに小さく呟き、あざ笑う。


「なんか言った?」


「いいや? 何でもない」


 俺はそう話しながら笑うが、結喜は俺の心情に何かを悟ったらしい。

 義足で立ち上がり、ふらつきながらも俺の近くに寄ってくる。


「大丈夫?ここ兄ぃ」


 そう言った結喜の顔は心配の色が簡単に読み取れた。

 俺の顔に触れ、何かを覗き込むように瞳を見つめる。

 そうして一言。


「ここ兄ぃがどんな事を思っていても、私は信じてるし、大好きだよ?」


「・・・そうか」


 何も言われてはいないが、何か核心を覗かれたような言葉に俺は気まずくなる。

 それは結喜から視線を逸らすには十分な理由だった。


「ここ兄ぃ・・・」


 俺の視線が外されたのが気に入らなかったのか、結喜は少し悲しそうな顔をしながらうつむく。

 それは違和感とともに心を締め付けた。


「・・・悪い。俺もお前を・・・結喜を信じている」


 俺はすぐに何か言おうをしてそんな言葉を話していた。

 これは咄嗟で、俺自身もその真意はわからない。


「ここ兄ぃ・・・」


 先ほどと同じ言葉・・・

 だが含まれている心情は天と地ほどの差があり、言葉の抑揚からは嬉しさがにじみ出ていた。


「はいそこ・・・イチャイチャしないでね」


 そう話しながら俺と結喜を引き離したのは楽だった。


「・・・・別にイチャイチャしてないぞ」


 俺がそう話すと、楽はムスっと頬を膨らませ、結喜は頬を赤らめた。


 それを見ていた癒怒(ゆの)がため息をもらして話を進める。


「映画の感想を話すのは構いませんが・・・優先すべきは感情が戻るかどうか・・・変化はあったのかどうかです」


 そう話す癒怒を俺は見る。


 そうは言っているが・・・あなたもさっきまで話してたからね?映画の感想について話し合ってたからね?

 俺はそう思ったが何かを言うのはやめた。


「でも、勘違い、錯覚でもいいって話はしたじゃん」


 そう話したのは結喜だ。

 いつもテンションが高くよく話すイメージだが、意外と話をしっかりと聞いているのは昔から変わらない。


「そうですが、このままではいけません。次の一手を考えるべきです」


 そう話す癒怒の背中を俺は見つめる。


「具体的には?」


 癒怒の言葉にそう返したのは楽だ。

 組んだ腕には双丘が乗り、強調される。

 俺はその光景をただぼーっと見ていた。


「ここ兄ぃ?」


「あ、あぁなんだ?」


 視線に気がついた結喜が俺を睨む。


「目つぶししていい?」


「なんで!?」


「・・・興味があるから?」


 そう話す結喜に俺はゾッと背筋が凍り、目を覆う。

 こいつならやりかねない・・・

 怒りと屁理屈に関しては右に出る者はいない・・・

 いや、屁理屈だけならまだ勝ってるか!!


「いやいや流石にしないから!!なんで目を覆うの!?」


 そう言いながら話す結喜を指の隙間から見つめる。


「本当か?」


「信じないの!?」


 その言葉に俺はゆっくりと手をはがし、結喜の顔をしっかりと見る。

 それはもうしっかりと。

 その行動に、結喜は眉を歪めながらも顔を徐々に赤く染める。


「いいか?結喜・・・」


 俺の言葉に結喜は頷く。

 どんな言葉が来るのか、何を言われるのかを警戒している様子だった。

 だから俺はハッキリという。

 包み隠さずに・・・


「信じているから怖いんだ・・・・」


「・・・どういうこと?」


「お前なら俺の眼球をつぶしかねないってことだ」


 その言葉に結喜は俺につかまりつつも精一杯に叩く。


「痛い!!痛い!!」


「私はそんなに乱暴じゃない!!」


 結喜は俺の体を叩きながらそう話す。


 なんだって!?

 世間一般的には他人を何回も叩く人間でも、乱暴じゃない分類なのか。

 知らなかったよ・・・そんな常識。

 

 俺は体の痛みに耐え、そんなことを考えながら叩かれ続けていると。

 しびれを切らしたのか、楽が俺と結喜を引き離す。

 なんでさっきと同じ展開なんや!!


「はいはい、ラブラブしないー」


 その光景を見て、癒怒はため息を漏らし、哀歌は苦笑いをする。

 

「だからしてない!!」


「してないっての!!」


 俺と結喜はほぼ同時にそう叫ぶ。

 それを見て、癒怒は口を開く。


「イチャイチャするのは構いませんが、それは感情が戻ってからにしてくださいね。私もしたいので」


 癒怒は顔色を変えずにそう話す。

 その言葉に俺を含めてこの場にいる全員が驚いた。


「癒怒・・・おまえ・・・」


 俺は聞き間違えかなとも思いつつ聞き返そうとする。

 だが・・・声が出なかった。

 ポロッと出た言葉にしてはあまりにもまっすぐな目をしていた。


「なんですか?なにかありましたか?それより、哀しみを繰り返し感じる方法を探してはいかがですか?」


 そう早口で話す癒怒を見る。


「あれ・・・」


 俺は癒怒を見てあることを発見する。

 

 耳が赤くなってるぞ!

 確信犯だ!!照れてるぞコイツ!!

 と思ったがいうのはやめた。


「なんですか?」


 俺の声が聞こえていたのか、癒怒は俺を言つめて話す。


「いや、何でもない」


 そう言って俺は咳払いをした。

 

「そうですか・・・」


 癒怒はそう話しながら俺から視線を逸らす。


「では・・・もっと作戦を考えましょう。具体的な案を出し、より早くの解決を目指して・・・」


 その言葉に全員が頷く。

 俺は仕切っている癒怒を見つめる。

 癒怒も俺を見ていたのか、目が合った。

 

「やりましょう」


 癒怒が小さく呟いたその言葉に、俺はただ、ゆっくりと頷いた。

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