表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/117

1「見つめる」

 夕方、中学校前にて・・・


「やっと来たか」


「待たせて悪いわね」


 俺がため息交じりに漏らした小言に、結喜(ゆき)が少し怒りながら話す。


「一言で怒りすぎだろ」


「怒るようなこと言うからでしょ?」


 ああ言えばこう言う。

 中学生になり昔より語彙が増えたせいか、対向してくることが増えたような。

 嬉しいような・・・いや、嬉しくはないか。

 素直な方が可愛いに決まっている。


「何考えてるかはわからないけど、失礼なことを考えてるのはよくわかるよ」


 俺の顔を見ながら車椅子の少女はため息を漏らす。

 歩けるようになったとはいっても、なれていないし長時間は無理だ。

 だから基本は座って話すのだが・・・なんで座ったままでもこれほどまでの威圧をできるのかはわからない。


「俺が何を考えてるか知りたいか?」


「いや、別にいいや」


 俺の言葉に心底興味なさそうに結喜は返す。

 そのやり取りに銀髪の盲目な少女、哀歌(あいか)が笑いだす。


「お疲れさん。哀歌」


「こんにちは、心さん。やっぱり仲がいいですね」


 そう話しながら(らく)の腕につかまっている。


「そうか?幼馴染なんてこんなもんだろ」


「どこの幼馴染でも、こんなに支え合ってないと思いますけど」


 哀歌は小さく笑いながらそう話した。

 その言葉に楽と癒怒(ゆの)は頷く。


「本当に結喜ちゃんは羨ましいよ。私も心君みたいな男性が近くに欲しいよ」


「本当に羨ましいです。鳴海(なるみ)さんほどしっかり近くにいてくれる人はなかなかいませんよ?」


 そう話す癒怒の声はいつも以上に優しく、空間そのものを包み込むような気がした。

 癒怒は他人のぬくもりが一番欲しい時期に近くに人がいなかった。

 俺では頼りないかもしれないが、本当に助けが欲しい人間はその人間が頼れるかどうかなどは気にする余裕などない。

 

「・・・・わかってるよ」


 癒怒の言葉に結喜はハッキリと言って俺の顔を見る。


「なんだよ」


「・・・別に」


 俺は結喜の顔を見てはっきりと話す。

 直後、恥ずかしくなったのか否定しながらそっぽを向いてしまった。

 耳は少し赤くなっているが・・・・俺は何も言ってないよな?


「で、怒りの件はどうしますか?まだ解決してませんよね?」


 俺の顔を見て癒怒がはっきりと話す。

 その言葉に俺は頷き、肩をすくめながら話した。


「話した通り、怒りの感情については保留だな。アクションを起こされないとこっちからは動けないからな」


 俺がそう話すと、癒怒は頷いた。


「ではどうします?それまでの間は」


 癒怒のその言葉に俺は哀歌を見つめる。


「哀歌、頼めるか?」


「哀しみですか?」


 そう話した哀歌に俺は頷く。

 だが哀歌はキョロキョロと頭を動かして首を傾げた。

 ・・・目が見えなかったわ。


「・・・そうだ」


「頑張ります」


 俺の言葉に哀歌はしっかりと頷く。


「哀歌、向いてる方向が少しずれてるな」


「あ、あれ?」


 その姿に俺は目を抑える。

 結喜はその光景を見ながらやさしく笑う。

 癒怒は俺の横で小さくため息を漏らす。

 楽は腕を組みながら鼻で笑った。


「それで、最初は何からしましょうか?」


 哀歌がそう話した。

 俺は首をかしげて、結喜達を見る。


「なにからする?」


 俺の問いに全員が首を傾げた。


「わからない」


「だよな」


 俺がそう話すと、楽から提案の声が漏れ出す。


「感動する映画を見るとか?」


 楽の提案に俺は首をかしげた。


「感動と哀しみになんの共通点がある?」


 俺の言葉に癒怒と楽が苦い顔をする。


「・・・感動と哀しみは共通点があるんじゃないですか?」


 最初にそう話したのは癒怒だ。

 

「例えばどんな?」


「人が亡くなったシーンなどは感動しますし、喪失感で悲しいじゃないですか」


 癒怒はそう話す。

 その言葉に俺は首をかしげて口を開いた。


「人が死んだシーンが悲しいのはそう作られているからだろ。それに、悲しいのは俺らじゃなくて登場人物だ。俺たちが感動するっていうのは、悲しいからじゃなくて、ただの共感だ。それは感動ではあっても哀しみじゃないだろ」


 俺のその言葉に癒怒は顔を見る。


「とりあえずやってみればいいんじゃない?」


 そう話したのは楽だ。


「映画鑑賞をか?」


 俺の言葉に楽は眉を上げながら話す。


「そうだよ。意味はないかもだけど、価値はあるかも」


「・・・ならやってみるか?」


 俺の言葉に全員が頷く。

 ポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。


 すでに16時過ぎ・・・


「次の休みの日にしよう。今日はだめだ、帰るのが遅くなる」


 その日はそう言って結喜を連れて解散した。


ーーーー土曜日


 朝早くにインターホンが鳴る。

 その音でまぶたを持ち上げた。


「・・・あー・・・約束してたっけ・・・」


 俺は頭を搔きながら階段を降りる。


「はい・・・」


 寝起きでガラガラな喉を鳴らしながらインターホンのモニターに話しかける。


「ここ兄ぃ? あれ寝起き?」


 そんな声が漏れ出す。

 頭部しか映っていない画面を凝視しながら俺はあくびをした。


「結喜か・・・全員集まったのか?」


「え? うん皆いるよ」


 俺の話に結喜はそう返した。


「・・・今開ける。ちょっと待て」


 寝起きでフワフワとしている頭のまま玄関に歩く。

 そうして重い扉を開ける。


「・・・おはよ」


 扉が開いて太陽の光が瞳に刺さる。

 目を細め、かすんだ視界が徐々に鮮明になっていくのを感じながら視界に映る彼女たちを見つめる。


「はい、おはよう」


 と結喜


「おはようございます。鳴海さん」


 と癒怒


「心さん、おはようございます。というかこんにちはですかね?」


 と哀歌


「おはよー心君」


 と楽が話した。


「こんにちは?今何時だ」


 哀歌の話した言葉が気になり、俺は疑問を投げる。


「結喜さんから聞いた感じだと、もうそろそろ12時になるころかなと」


 哀歌はどこか申し訳ない感じを出しつつ話し始めた。


「・・・まじか、すまん」


 俺が謝ると、結喜が首を振る。


「いいのいいの。別に期待してなかったから。それよりも寒いから早く入れて」


 結喜がそう話すと、哀歌が苦笑いをした。

 まだ寒い時期ではないはずなのだが・・・早めに冬が来たのか確かに少し肌寒いような感じがする。


「・・・どうぞ」


 そう言いながら俺は彼女たちを招き入れた。

 目的は・・・哀しみの復活。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ