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6「求める者」

 あれから数日たった授業中。

 退屈な時間に包まれて眠気が迫る体に鞭を打つように腕の肉をつねる。


「・・・ねむい・・・」


 それでもやはり三大欲求には勝てないのか。

 自然とそんな言葉が漏れ出した。


 直後、頭に何かが当たり、机に落ちた。


「丸められた紙・・・」


 なんだろう。

 昭和の女子高生か・・・いや・・・平成の時代でもやったか。

 俺は紙が飛んできたであろう方向に視線を移す。

 視界に映ったのは天見(あまみ)だった。

 

 俺はため息を漏らしながら紙を広げると、驚くものが目に入ってきた。


「・・・何も書いてない」


 俺はそう呟く。

 これ系で何も書いてないことなんてあるんだな。

 むしろ何も書いてないならゴミを当てられたわけで、これはもういじめに近い何かなのかもしれない」


「なんか用か?」


 俺は小声で天見に話しかける。

 そうすると、天見も少し前かがみになり、俺に話しかけてきた。


「あれからどうなった?」


 あれから。

 天見は怒りの事を聞いているのだろうと、容易に想像ができた。

 その質問に俺は首を振る。


「どうもなってない。そんな簡単に戻るわけじゃないからな」


 そう話すと、何やら周りからクスクスと笑い声が聞こえる。

 俺は不思議に思って視線を戻すと教師がこちらを睨んでいた。


「天見、鳴海(なるみ)。授業中に話すな」


 教師からそう言われ、俺は天見を見る。

 天見は眉を上げて苦笑いしていた。


「すいません」


「すんません」


 そう話して、俺たちは黒板に視線を戻す。

 

 そうして放課後。

 生徒が帰る支度を進める中、俺も変わらず支度を進めていた。

 下がった視界に足が映る。

 俺は視線を上げると、天見が立っていた。


「なんか用か?」


「さっきと同じ発言。俺と話すのはそんなに嫌なのかい?」


 俺の言葉に天見は少し笑いながら話す。


「やっと帰れる!!って瞬間に、残業を命じられたら誰だって嫌だろ」

 

 俺がそう話すと天見は不思議そうな顔をする。


「働いたことないだろ?」


「うるせぇ。会話だってカロリーを消費するし、辛いことばかりだ。相対的に見れば交流は仕事と変わらん」


 そう話すと天見は目を細めて眉間に皺を寄せる。

 いわば・・・「え、何言ってんのコイツ」という表情だ。

 俺にはわかる。結喜(ゆき)がよくやる表情だからな。


「・・・まぁいい。で、何か用か?」


「怒りについて話したい」


 天見にそう話され、俺は首をかしげる。


「いや、何も変わってないっていうから何か問題に直面したのかなと思ってな」


 その言葉に俺は思う。

 天見はおそらく俺を助けようとしているか、または協力しようとしている。

 

「・・・いや問題はないが、怒りってのは簡単に出せるもんじゃないからな」


「あ~。確かに怒りって出そうと思って出すものじゃないもんな。必ず引き金が必要だし、喜怒哀楽の中では一番出しにくいかもなぁ」


 俺の言葉に天見は腕を組みながらそう話した。

 そう言われ、俺は頷く。


「怒るってのは他人に、事象にだ・・・そんなものばかりだから強制で待ちの体制にさせられる」


 そう話すと天見は小さく頷いた。


「怒りは諦めるのか?」


 天見が放ったその言葉に俺は眉を歪める。


「諦める?まさか、俺は変わるって言ったろ」


 そう話すと、天見が頭をかく。


「なんだよ」


「いや、方法がないならどうするのかなって思ってね」


 その言葉に俺は首を振る。


「さぁな。時が来るまでは待つしかない。その間は別の感情を取り戻すことに専念するかな」


「そうか・・・何かできることがあったら言ってくれ、できる範囲なら協力するよ」


 俺の言葉に天見は小さく頷き、そう話す。


「ないよ。あっても頼まない」


 そう話すと、天見は肩をすくめて苦笑いをした。


「まぁ、進展があったら教えてくれ」


「・・・気が向いたらな」


 なんかあったらと・・・そう言いながら廊下に向かう天見の背中にそう言って俺はカバンを背負う。

 瞬間天見は振り返り少し笑いながら俺に指をさした。


「それはなにも言わない奴の返答だ。ま、期待しないで待ってるよ」


 そう言って彼は姿を消した。


「あいつは何で協力したがるんだ」


 誰もいない教室で俺は外を眺めながらそう呟く。

 赤い夕日が顔を照らし目を細めた。

 ・・・なんで俺に構うんだ。


 自由だからか?

 俺の自由が羨ましいと言っていたな。

 そばにいれば周りと同じように感じることってあるもんな。

 俺のそばでなら自由を認識できるかもしれないと思ったのだろうか?

 例え偽物の自由でも・・・


「まぁ、何でもいいか」


 そう言って俺は教室を後にした。

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