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4「捉える」

 ベンチに座っている結喜(ゆき)が話す。


「結局なんの話だったの?」


 そう聞かれ、俺は癒怒(ゆの)の顔を見る。

 

「何の話だろうな?」


 俺は眉を上げながらそう話すと、癒怒は少し気まずそうな顔をしていた。

 そこに(らく)が割り込むように話し始める。


「で、感情・・・喜びは取り戻せたの?」


 そう話す楽に俺は視線を合わせて首を振る。


「わからん。ゲームみたいに何かを手に入れたような変化はないしな」


「・・・そっかぁ」


 そう話しながら楽は少し考えるそぶりをする。

 直後に楽は俺を見つめる。


「でも、共感はできる?」


「ま、多少は?」


 俺は楽の質問にそう答えた。


「前は完全にできなかった感じ?」


「あんまり覚えてないな。必死だったから」


 答えのない答えに楽はため息を漏らして結喜の顔を見る。

 見られた結喜は小さく頷いていた。


「そっかじゃあ一歩前進って感じだね」


「なんの話をしているんだ?」


 楽の言葉に俺は首をかしげながら問いかける。

 それを聞いて楽はクスクスと笑い始めた。


「なんでも?心君は気にしなくていいよ」


 そう話してから楽は俺の顔を見た。


「感情は一つじゃない、一つを完璧にするより、全部を思い出してから同時に徐々に思い出す方が効率がいいと思うの」


「・・・なるほど?俺の感情の回収はゲームじゃないけどな」


 そう話すと結喜が鼻で笑う。


「なんだよ」


「別にぃ~。ゲーム好きのここ兄ぃがゲームを否定する日が来るとは思わなかったってだけ」


 そう話しながら結喜はクスクスと笑う。

 さぞ楽しいのだろう。

 今まで見たことないような笑顔だ・・・おもに悪い笑顔をしているが・・・


「ゲームと現実は違うからな」


「うんうんそうだね~」


 俺の言葉にニヤニヤする結喜・・・

 なぜだろう。負けていないはずなのに負けている気がする。


「よし俺は帰る。そんな態度なら俺は帰ります。さようなら」


 そう言って俺はクルリと体を回し、公園の出口へ向かう。


「ちょいちょいちょい!」


 そう言いながら俺の腕をつかんだのは楽だった。


「なんだよ、俺は帰るんだ離せ・・・」


「怒らないでよ!!」


「怒っていない」


 そう。

 怒っていない。

 そもそも怒っているという感情が・・・・状況が分からないのだから。

 ふと、そこで気になったことがある。


「結喜、聞いていいか?」


 俺は結喜を見てそう話すと、彼女は首を傾けた。

 結喜はいつか言っていた。

 ここ兄ぃは昔はもっと笑っていた気がすると、そう話していた。

 そこで俺は思ったのだ。


「俺は昔、怒ったことがあるか?」


 その言葉に結喜は驚いた顔をして、直後にすごく優しく、悲しそうな顔をして頷いた。


「怒ったら怖かったよ・・・でも、それ以上に優しかった」


 その言葉に静寂が流れる。


「話してくれるか?何かヒントになるかもしれない」


 そう話すと結喜はゆっくりと頷いた。


「ここ兄ぃは結構しっかり怒るタイプだったね・・・」


 そう話す結喜の表情は悲しそうな、どこか遠い目をして過去を思い出し懐かしむ様子だった。


「でも、なんていうのかな。怒る理由はいつも私とか誰かを心配してた気がするなぁ」


 その言葉に癒怒、哀歌(あいか)、楽が俺を見つめる。

 哀歌は見ているとは言わないか・・・でも、心はこちらに向いているような気がした。


 そして全員が同時に一言・・・


「根本は変わらない・・・」


 その言葉に結喜は頷く。


「そう・・・根本は・・・根っこは変わってないんだ。昔からずっと優しかった、何か危ないことをすればしっかりと叱ってくれたし、悪いことは悪いとしっかり教えてくれた。怒るってのはそれくらいかな、基本は温厚で、あまり怒ることはなかったからこそ、異常に怖かったのを覚えてる」


 そう話す結喜は俺を見つめて優しく笑う。

 そんな時、楽が準備体操をするようにピョンピョンと横で跳ね始めた。

 感動の昔話をしていたのに。変な準備体操で台無しだ。


「何してるんだ?」


「取り戻さないと・・・」


 楽は真剣にそう話す。


「そうですね」

 

 次に答えたのは哀歌だった。

 その口元は少し笑っているようにも見える。

 まぁ目はサングラスのせいで見えないんだけど。


「怒りと言っても大事な思い出です。犬神(いぬがみ)さんは懐かしい過去を思い出す表情をしていました。それはとても大切で、取り戻したいからこそ、そう感じるはずなんです。恐怖もあるかもしれませんが、恐怖がすべてを支配しているわけではありません・・・叱られるとは、怒られるとは、しっかりとみられている証拠、それが悪いことをした時ならば、愛されている証明になるかもしれません」


 そう話す癒怒は何やら悲しそうな表情で結喜に語り掛けるように話していた。

 

 彼女はずっと一人・・・怒られるときはイジメで、それは罵詈雑言の嵐なのだろう。

 だから、きっと結喜を羨ましがっているのだと思う。

 それと同時に自分の怒りと、結喜や楽が感じる怒りに違いがあることに気が付いてしまった。


 悪い感情でしか向けられなかった怒りと・・・

 愛で満たされた怒りには同じ怒りでも天と地ほどの差があると気が付いてしまった。

 だから彼女は語り掛けるように言ったんだ。

 言葉にはできないが、それは大切な怒りで。

 自分は手に入れられなかった過去と重ねて・・・・


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