5「現す」
あれから数日たった休日・・・
「というわけで!!」
「どういうわけだ」
叫んだ結喜の言葉に俺はため息を漏らしながら答えた。
「文化祭が終わって私たちは公園にいます!!」
「なんで説明口調なんだ?周りの風景を見ればわかるだろ」
俺とのやり取りに横にいた癒怒が腕を組みながらため息を漏らした。
「犬神さんはどんな態度ですの?なんですかあれ」
「知らん・・・あ」
俺はそう答えながら思い出す。
「なんですか?」
癒怒が俺を見つめる。
「結喜!お前俺の部屋の漫画勝手に見ただろ!」
俺の言葉に結喜は顔をそらす。
「図星か・・・」
「図星ですね」
別に言ってみただけなんだが・・・まさか本当に入っていたとは・・・
俺はため息を漏らして地面に視線を落とす。
すると突然風が吹き、砂が目に入らないように風下に顔を向ける。
「・・・風強いな!」
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文化祭の日・・・
「あ、いた!」
哀歌と話していると視界の外から聞こえた結喜の声に反応する。
「あ?またサボりか」
俺はため息交じりにそう聞く。
「違うわ!!」
結喜は元気に叫ぶ。
「結喜さんはいつも元気だね」
哀歌は少し笑いながらそう話した。
「まぁね。で、何の話をしていたの?」
結喜がそう聞く。
その言葉に、哀歌は素直に答えた。
「心さんが喜ぶことは、別に心さんが喜ぶことをしなくてもいいという話です」
哀歌の言葉に結喜は首をかしげる。
「ど、どういうこと?」
結喜は問い返す、その言葉に俺はため息を漏らしながら話した。
「誰かの喜んでる姿を見ても、人は喜ぶことができる。そういう話だ」
「なるほど・・・それなら・・・」
そうして現在・・・公園にきている。
「回想シーンだった?でもチャンネルはそのままよろしく!!」
結喜はそう言いながら何もない空間を指さす。
「な、何をしているんですの?」
「あいつの脳内では何かが起きてる・・・すごく頭の悪いことがな」
そう言いながら俺は結喜に近づく。
「で、何をするんだ?全員が結喜に呼び出されてここにいる。そろそろ説明してくれてもいいんじゃないか?」
その言葉に結喜は自身の足を見つめた。
そのあとに俺の顔をまっすぐ見つめる。
「・・・一人で歩きたい」
そう話す結喜に俺は目を開き、癒怒、哀歌、楽も前のめりになる。
「何言って、一人では歩けなくても、俺が支える」
「違う!!」
俺の言葉を遮るように結喜は叫んだ。
「これは私の願い。私が確実に心から喜べる事・・・問題なく歩けるようになって、一緒にお出かけがしたい」
結喜はそう話した
「・・・本気か?」
俺は問う。
事故から数か月・・・
今は十月だから・・・六ヶ月・・・立ち直るのに二ヶ月か三ヶ月それしか経っていない。
義足をつけてからもしばらく歩けなかった・・・不安が、精神がそうさせなかった。
この要望は、早い気がした。
「私は本気」
それを聞いて俺は、楽を見る。
「どう思う?」
俺の言葉に楽は首を振る。
「・・・わからない」
そう言った楽の直後、口を開いたのは癒怒だった。
「いいんじゃないですか?」
その言葉に俺は首をかしげる。
「かなり難易度が高いんじゃないのか?結喜はまだ義足に慣れていない・・・自室でも壁や机に寄りかかって移動しているんだ」
その言葉に癒怒はゆっくりと頷く。
「そうですか」
癒怒はサラッとそう言った。
「でも、練習しなきゃできないですよね?いつまでも三輪をつけたまま自転車に乗れとは言えません。転んで、覚えて、扱えるようにするべきです」
「待て・・・結喜は普通とは違う!」
俺の言葉に癒怒はこちらを睨む。
「そうです・・・犬神さんは普通じゃありません」
そう言いながら、癒怒は結喜を見る。
直後に、まっすぐ俺を見つめた。
「でも、犬神さんは犬神さんです。 どんなことがあっても、私は私だと・・・そう教えてくれたのは鳴海さん・・・あなたでしょう?」
悲しそうな表情で俺を見つめる。
俺は気まずくなり、癒怒はから目を背けると、そこには結喜がいた。
結喜は俺を見つめてこぶしを握る。
その瞳からどれだけ彼女が本気か伝わってくる。
俺は深呼吸をする。
「・・・わかった。やってみよう、でも無理のない範囲だ、わかったな?」
その言葉に結喜と癒怒は頷いた。