4「誰かに」
ポケットに入ってるスマホを取り出し、時間を確認すると昼近くになっていた。
右手には冷め切った焼きそばが・・・・
「どこかで食べられる場所無いかな」
俺はそうひとり呟いてキョロキョロと見渡す。
校内は人であふれかえり、教室では屋台が開かれ落ち着いて食べられる場所はない。
「となると・・・外か?」
そう呟きながら窓の外を見る。
もちろん何もない・・・
と思ったが緑が見える。
「こんな近くに葉っぱ?」
そうして覗き込むように俺は下を見た。
庭だ・・・いや、庭というか広場か?
ベンチも見える。
「・・・行ってみるか」
俺はそう言って歩き出した。
玄関から外に出て裏に回る。
直上にある太陽が照り付け、涼しい風が吹いているというのに暑さを感じる。
太陽の眩しさに目を細め、太陽を見ないように視線を下げながら木の陰に隠れる。
「ここなら眩しくないな・・・」
そう呟きながら視線を上げる。
視界に入るベンチ。
そこには探していた銀髪の少女が座っていた。
吹く風に揺れる銀髪。
葉の隙間から漏れる太陽の光が綺麗な髪を輝かせる。
俺は歩き出し、少女の間に立つ。
銀髪の少女は少しだけ顔を上げて口を開く。
「心さん?」
俺は少女から発せられた言葉に驚く。
「よくわかったな、哀歌」
そう、哀歌という少女は盲目だ。
足音だけで判断したのか。
だが、たびたび本当は目が見えているんじゃないかと思ってしまうくらい的確に見抜いてくることがある。
「やっぱり!」
笑いながらそう話す哀歌はどこか嬉しそうだった。
「横座っていいか?」
「はい、どうぞ」
俺の言葉に静かに返事をして少し横にずれる。
空いたスペースにすわり、焼きそばふたを開ける。
割りばしを割り、焼きそばをすする。
「おいしいですか?」
突然の質問に俺は咀嚼を忘れて飲み込む。
「・・・まぁまぁ」
俺の言葉に哀歌は少し笑う。
ま、焼きそばを買って1時間程度経ってる、冷めてしまってあまりおいしくないのは明白だった。
「もう冷たくなってしまっているからですか?」
哀歌はこちらに顔を向けながらそうはなした 。
あぁ・・・またこれだ。
この子にはいったい何が見えているというのだろう。
目に頼らないから、心が読めるとでもいうのだろうか?
「よくわかったな・・・」
「匂いがしませんでしたから。 匂いがしないので、流石にどんなものを食べているかはわかりません」
この言葉は・・・最後の方は俺が今どんな反応をしているかまで予測した発言だろうか。
この子は・・・
俺はそう考えながら冷め切った焼きそばをすする。
「何もできない・・・」
「ん?」
哀歌の突然の言葉に俺は首をかしげる。
「私は目が見えないからいらないと、戦力外通告です」
「あぁ、だからクラスにいなかったわけだ」
そう話しながら焼きそばを口に運ぶ。
「でも悪いことじゃない」
俺はそう言った。
「・・・そうですか?」
「そうだ、誰でも得手不得手がある。できないなら誰かがやればいい、誰かができないなら俺たちがやればいい」
「・・・私は、努力はするべきだと思います」
その言葉に俺はごくりと、口に入っていた焼きそばを飲み込む。
「そうだな努力は大事だ。でも、どうしてもできないことってのはある。いくら切りつめても、突き詰めても無理なもんは無理だ」
「それは目が見えない私には無理と、そう言うことですか?」
その言葉に俺は眉を歪めながら焼きそばを流し込み、空になったパックを置く。
「半分正解で、半分違う」
「・・・ならどういう」
「そもそも土俵が違うんだよ」
そう言いながら俺は立ち上がる。
「剣士は同時攻撃はできない。魔法使いは範囲攻撃で何体も倒せる。 魔物を倒した数で数えるなら、どっちが有利だ?」
「そ、それは魔法使い・・・」
俺はうなずきながら続けて口を開く。
「剣士は速い、魔法使いは遅い、攻撃スピードが速いのはどっちだ?」
「・・・剣士」
哀歌が小さく答える。
「何が変わった?」
「・・・はい?」
「正解は土俵だ。評価基準だ。剣士は討伐数じゃどれだけ頑張っても魔法使いには勝てない、逆もそうだ。だから、土俵を変えて戦うんだよ」
そういうと哀歌は顔を上げる。
「でもそれは・・・」
「逃げてるってか?」
その言葉が図星だったのか、哀歌は黙り込む。
「そうだな、人によっては逃げてるっていうかもな。でも俺はそうは思わない。人間って部分が一緒なだけだ、やり方は違うし、求めてるものは違う。だから、土俵を変えて戦うんだよ。戦力外なのはこの場だけ、別の場所に行けば1位かもしれないな」
その言葉に哀歌は少し目を背け、口を開く。
「土俵を変えるにしても、私は一人でそれができません」
「なら誰かを頼ればいい」
そう話すと哀歌はこちらを見る。
「頼らなかった人がそれを話すんですね」
哀歌は上品に口元を隠しながら静かに笑う。
その言葉に俺は眉を歪めた。
「心さんのことに関しても、私は戦力外のようです」
「・・・そんなことは」
「私は・・・誰かと一緒にいないと行動ができません、それはどんなこともそうです」
その言葉に俺は何も言えずに黙る。
「今の学校生活が楽しいと思えてるのも風切さんのおかげで、結喜・・・」
何かを考えるように哀歌は言葉を止めて少し止まる。
「私たちが持ってくればいい?」
「何の話だ」
「喜びってのは、基本は人と共有するものだと思うんです」
哀歌の言葉に俺は首をかしげる
「だからなんだ・・・?今までも俺を手伝ってくれただろ、それとどう違う?」
「最初は心さんが興味があって、喜べそうなものを探してましたが、別にそうじゃなくてもいいんですよね」
俺は首をかしげる。
「というと」
「私たちが楽しめるものでもいいと思うんです、この点で重要なのは共有・・・」
哀歌はそう話した。
「でも、それは俺がお前らと同じものを楽しめるのが前提だろ?」
そういうと哀歌は頷く。
「できますよ、誰かのためにしか動けない心さんは、人の心を読むことに長けています。ならこれも・・・」
木漏れ日が彼女の髪を輝かせる正午。
柔らかい風が、そう呟いた声を包みこんだ。