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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第一章 『たった1人の』
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2 「普通」

 大型のショッピングモールに入る。

 店からはキャンペーンやポイントカードの放送が鳴り響き、店員の声や子供の声で賑わっていた。


「涼しいぃ」


 結喜が目を瞑りながらそう言った。


「クーラーが付いてるんだろ。最初はどこ行く?」


「なんか冷たくなぁい?」


 結喜は車椅子に座ったまま首を後ろに向けて話す。


「冷たくない。ここ兄ぃは炎天下の中歩きまくって疲れた」


「まくってって、30分程度じゃん」


「夏だぞ。30分でとろける」


 そういうと、結喜は目を細めてうぇーとつぶやいた。


「なんだその反応」


「ここ兄ぃあれでしょ。「友達という関係はめんどくさい」とか言って、要らない理由を探す人だ」


「よく知ってるな。だが違うぞ結喜。人間は1人で大丈夫だ。この世界に何人独身がいると思ってる」


 そう話すと、結喜は少し考えた後に、何か思いついたように口を開いた。


「独身どうこう以前に、友達いないじゃん。騙されるところだった。 独身の人でも、友達いるよ。ここ兄ぃは『心』って名前なのに、心がないね。感情の起伏も微妙だし」


「感情の起伏が微妙? はっ! 違うな。落ち着いてるんだ・・・大人びてるとも言うな。 ギャーギャー騒ぐよりマシだろ」


「それは大人びてるんじゃなくて、騒いでる人たちを冷やかして見下してるだけじゃないの? それか嫉妬」


 そう言われてしまう。

 俺は少しムッとした顔をしたのかもしれない。

 それは図星で、多分、俺が気にしていた部分だ。


「ここ兄ぃ変な顔してる、図星?」


「さぁな。ここ兄ぃ感情の起伏がないから表情変わらないなぁ〜」


 そう言いながら顔を見られないように天井のライトを見つめる。


「ここ兄ぃ! ゲームセンター行きたい!」


「いや、車椅子じゃ少しきついだろ」


 結喜が提案したことを軽く否定する。

 もちろん、車椅子や義足でもできるゲームはある。

 だが、少しばかりキツイのは本当だ。


「いいの! ここ兄ぃがゲームしてるの見てるから」


 結喜はそう話した。

 なるほど。確かにそれなら車椅子だろうが関係ない。

 だが、リズムゲーム。いわゆる音ゲーや銃を撃つガンゲーム。踊ったり、動きが必要な物はプレイしている人間しか楽しめない。


 メダルゲームは座れる場合が多いが、消費のスピードや、楽しめるかどうかは本人に委ねられることが大きい。


 だとすると・・・


「UFOキャッチャーやるか」


 これしかない。

 操作している人間の反応。

 動くアームの挙動に一喜一憂し、喜怒哀楽全てを引き出し共に楽しめるものはそれしかない。


「いいじゃん!」


 結喜は笑いながらそう言った。

 

 ゲームセンターに向かう。

 エレベーターで3階に上がり、ゲームセンター前に着く。


 メダルゲームの音や、子ども達の笑い声、ゲームそのもの、放送の音が鳴り響き、騒がしさに耳を塞ぐ。


「ありゃ、そういえばここ兄ぃ大きな音嫌いだったね」


「別に、好きじゃないってだけだ。 全人類は大きな音が嫌いだろ。近くで叫ばれるのを好むやつはいない」


「ゲームセンターは近くで叫ばれるのとは全然違うけどね。鼓膜壊れないじゃん」


 結喜は冷たい顔でそう言った。

 なんだこいつ。このやろう。

 兄貴が言ってるのに、否定するなよな。実兄じゃないけど


「それでも嫌だね。カラオケの後みたいになるじゃん」


「ここ兄ぃ友達いないのにカラオケ行くの?あぁ!1人か!」


 結喜はさぞ楽しそうにそう話す。


「別になんだっていいだろ。ヒトカラやってる人全員が友達いないわけじゃない。失礼だろ」


「ヒトカラ?何それ、唐揚げ?」


「ちげぇよ」


 そう答えたあと、結喜はふーんと鼻を鳴らし、つまらなそうに視線を俺からゲームセンターに向ける。


 適当な台を見つけ、お金を投入する。


「何そのぬいぐるみ、ここ兄ぃぬいぐるみとか好きだっけ」


「いや、知らんな。だが、取りやすそうだ」


「あぁ。取りやすいから取るのね、茨の道じゃなく、楽な道を歩むわけだ」


 なぜUFOキャッチャーやるだけでここまで罵倒されなくてはいけないのか、許せない。

 

「楽な道だが、景品は地獄だ。足して割ったら普通だろ・・・?ん?違うか? てか、なんだこのぬいぐるみ、ブサイクすぎるだろ」


「何ぶつぶつ言ってるの?」


 どうやら結喜には聞こえなかったらしい。

 ゆっくりとアームが降り、人形をしっかりと掴む。

 そして・・・・ガコンッと音がなり、受け取り口に落ちた。


「ぬいぐるみからする音じゃないだろ」


 俺はぬいぐるみを取り、顔を見る。

 なんだろう。

 おじさんとブルドッグを混ぜたような表情をしたぬいぐるみだ。


 これが可愛いと言うやつとは価値観が合わないだろう。

 髭が生えていたらマスコットとして良い感じだったかもしれないが、髭がない。

 異様さも兼ね備えた気味の悪さを持っている。


「大人の考えることはわからない」


 そう呟きながら台の壁に貼ってあるラインナップを見つめる。

 似たようなぬいぐるみだが、色が違う。


 紫色や桃色、青や赤まである。


「この景品を開発した人間はぶっ飛んでるな」


「その人たちは友達いるけどね、人間との交流が少ないここ兄ぃだから、可愛さがわからないんじゃない?」


「ほう? なら結喜はわかるわけか」


 そういうと、結喜は首を振った。

 なんだよ、ちょっと傷ついたぞ。


 そんな話をしていると、母親の手を引き、メダルゲームの前で小さく跳ねる子供を見つける。


「子どもは元気だな」


 その呟きに結喜からの答えは返ってこない。

 返答はなく、俺は結喜の頭を見つめ、不思議に思う。


「普通だね」


 結喜はそう呟いた。


「まぁな。子どもならあれくらい元気だろ」


 そう返したが、返答はない。

 再度結喜を確認すると、黒いワンピースの裾を握りしめていた。


「シワになるぞ」


「別に良いもん」


 やはり、少し羨ましいのだろう。

 普通に歩けることが。


 感情を消してしまえたら、こんな気持ちにはならなかっただろうと、すこし同情してしまう。


 あの事故が無ければきっと、今も歩いて過ごせていたはずだ。

 あの事故が・・・


「良いなぁ・・・」


「結喜は普通じゃないからか?」


「世間では、足の無い人を普通とは言わないよ」


 そう返事した結喜の言葉に、俺は少しだけ気持ちが揺らいでしまった。

 車椅子のタイヤにロックをかけ、ゆっくりと結喜の前に回る。


 しゃがみ込み、目線を合わせる。


「そんな事いうな」


「事実じゃん」


 そう言って俺から視線を外した。

 確かにそうだ。

 間違ってはない。


「結喜、お前だって普通だ」


「なに?どこが普通なの、足がないのが普通?」


「足がないことが普通なんて言ってない。主観で物事を捉えるな。 今の結喜は普通じゃないかもしれない。 だが、別の場所に言って、そんな人間ばかりの中にいたら当たり前、普通なんだよ」


 そう言うと、結喜は俺を睨む。


「それは誤魔化しじゃん。事実を覆すくらいの理屈にはならない」


「なら普通ってなんだ?」


 俺の言葉に結喜は少し考える


「普通に生まれて、何事もなく終わる。これが普通じゃない?」


「違う。それは理想だ。 追い求める完全、完璧だ。 人間は完璧じゃない。 わかるか?『人間』は完璧じゃない、最初から何か欠けてる、心身かもしれない、才能かもしれない、完璧な人間はいない、何も欠けてない人間はいないんだよ」


 すると結喜はそらしていた視線を俺に戻す。


「完璧な人間・・・」


「そうだな・・・結喜の言葉を借りるなら、不完全な人間こそ、普通の人間と言えるかもしれない、不完全、欠点があることは、恥じるべきじゃない。普通だからな」


 そう話すと、結喜はゆっくり頷いた

 俺はため息を漏らし、再度子連れの親を見る。


 頭ではわかっていても、受け入れるには時間がかかる。

 我々は不完全だから・・・

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