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3「持ってくるもの」

 コーヒーを机に置く。


「・・・集中できないんだけど」


 俺はそう言って目の前にいる結喜と楽に声をかける。


「別にいいじゃん」


「仕事しろよ」


 そういうと彼女たちは頬を膨らます。

 俺、変なこと言ってないよな?


「俺も相席していいかな?」


 視界の外から声をかけてきたのは天見だった。


「いいと思うのか?」


 俺は彼から見て心底嫌な顔をしていたに違いない。

 俺の顔を見て、天見は少し驚いた顔をして、直後優しく笑った。


「ありがとう。じゃっ失礼して・・・」


 そう言って天見は俺の横にある椅子に座った。


「あれ?嫌だって意味なんだけど。 え、なに、日本人じゃないの?」


 俺の言葉に天見はこちらを見る。


「まさか、しっかりわかってるよ」


「ならなんで」


「鳴海はそれでも断らない」


 しっかりとそう言われ、俺は黙る。

 こいつはわかっている。

 俺は頼まれると断れない。


「あ、俺もコーヒーもらえるかなカフェラテで」


 天見は笑いながらそう話す。

 ムスっとした顔で楽がバックヤードに消えていく。


「なんでメニュー知ってるんだよ?」


 俺が天見を睨みながら話す。


「え? 廊下にメニュー表出されてたじゃないか」


 そう言われ俺は眉を歪める。

 そして結喜をに視線を送った。


「わ、私は知らない・・・」


 無理やり連れてこられ、すぐに教室に押し込まれたせいでそんなのは知らなかった。


「お待たせしました」


 楽が来て机にコンッと置く。

 俺の時より心なしか強く置いた気がする。


 天見は楽のその行動に苦笑いしながらカフェラテをすする。

 コトッと机に優しくカップを置き、口を開く。


「鳴海は今何かしているのかい?」


「なんだ、急に」


 そう話すと、天見は少しため息を漏らす。


「君の周りには人がいなかった」


 そう言いながら天見は結喜や楽に視線を送る。


「でも、水族館の時に気が付いた。鳴海の周りに人が必ずいることを・・・」


「それがどうした?」


 俺は眉を歪めながらそう話す。


「俺は鳴海を友達と思っているから話す」


「驚いたな、いつから友達になったんだ?」


 俺の言葉に天見は少し笑った。


「知ってるか?入学式の日、学校の前で事故があったんだ」


 天見の言葉に俺は眉を歪める。

 あぁ・・・知っている。

 その話に関しては、ここにいる誰より詳しく知っている自信があった。


「それがどうした?」


 俺は知らないというように聞き返す。


「それから少しの間、鳴海は学校に顔を出さなくなった」


「よく知ってるな、もしかして天見は俺をずっと見てたとか?」


 俺は冗談交じりにそう呟いた。

 だがいつまで待っても反論の言葉はない。


「・・・そうだよ」


「・・・どうして?」


 天見の言葉に驚きつつも俺は聞き返す。


「羨ましかったんだ」


「何が?」


 俺は首をかしげながら聞き返す。

 その問いに、天見はため息交じりに話し始めた。


「俺は何をするときも誰かがそばにいる」


「なんだよ、中学まで来て自慢話か?喧嘩するか?お?」


 俺のその反応を見て天見は両手を上げながら笑う。


「俺が見た鳴海は、誰にも縛られない自由な人間だと、そう思っていた」


「それは勝手な想像だったわけだ残念だな」


 俺は切り捨てるようにそう話す。

 だが、天見の顔は真剣なままだった。


「そうだ、そこに関しては俺の落ち度だ、理想を押し付けていた。でも・・・おかしいと思ったんだ」


 そう話す天見は俺をしっかりと見つめる。


「何がおかしい?」


 俺はそう問う。


「周りに人がいないときに何にも興味を示さないのはわかる。でも、鳴海はそうじゃなかった。周りに人が増えれば何か変わると、そう思っていた。なのに、結果は真逆だ」


 何かを考えるように天見が話す。


「結局は何が言いたい?」


「・・・鳴海、君は何を隠してる?正直普通じゃない、人間が持っていて当たり前のものを鳴海は持ち合わせていない気がする」


 その言葉に俺は目を見開く。


「はい、ロットが大事だから出て出て」


 会話を打ち切るように結喜が声を出す。


「ロット?」


「そう客はここ兄ぃだけじゃないからね」


 そう言われ半ば無理やり教室を出される。


「俺何かしちゃったかな」


 天見が少し落ち込んだ風に話す。


「さあな、知らん」


 そう言いながら俺は歩き出した。


「鳴海!」


 人込みの中俺は振り返る。


「鳴海自身、何が変わったのかわかるのか?」


「・・・人間はいつか変わる・・・今回は天見、お前の見立てが外れただけだ」


 そう話すと天見は苦い顔をした。

 まるで、求めていた答えとは違うといいたそうだ。


「鳴海にとって、あの子たちは何なんだ・・・」


 おそらく、天見は結喜達が何かをしたと思っているのかもしれない。

 でも今は彼女たちは味方だ。

 今は彼女達を・・・・


「信じるしかないと思ってる」


 その言葉に天見は唇をかむ。


「俺は・・・(そら)が見たい!!」


 天見は確かにそう話す。


「自由だからか?」


「・・・そうだ、俺は自由な鳴海が羨ましい」


 その言葉に俺はしっかりと返す。


「今の俺を自由とみるなら・・・もう少し目を鍛えるんだな」


 そう言いながら俺は歩く。

 天見が何をしたいのか、何を求めているのはわからない。

 だが、俺には関係ない。


「そういえば・・・哀歌を見てないな」


 俺は小さくつぶやきながら、もう一人の少女を探すことにした。




 

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