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1「感じるために」

 10月半ば・・・

 

「秋じゃないのか? アッツ」


 俺は天気のいい空の下で頬を流れる汗をぬぐいながらつぶやいた。


 秋というのに異常な暑さ、詳しいことはわからないが地球温暖化かどうとか、ニュースでやっていた気がする。

 まぁ俺にはあまり関係ないか。


 そう思いながらただ歩く。

 時刻は朝10時。目的の場所が見えてきた。


「こちらで受付お願いします~」


 まだ何も見えないがそんな声が聞こえてきた。

 俺は声を頼りに受付の場所を探す。

 

「こちらです」


 校門に着き、元気な声に誘われるように受付に向かう。

 俺がいるのは学校。

 だが俺の学校ではない・・・そう、結喜たちの学校だ。


 土曜日・・・彼女たちの学校は文化祭があるのだ。


 受付をすませ、校内を歩く。


 階段を上がって探す。


「焼きそばありますよ~」


「たこ焼きあります、いかがですか!」


 廊下にはそんな声が上がり、俺は首をかしげる。


 あれ?

 文化祭ってこんなだっけ?

 てか、俺が中学行ってた時は文化祭なんてなかったけどな。


 時代の変化か・・・

 祭りというだけあってか、店舗が屋台みたいになってるのは気のせいか?


 俺は校内をただ徘徊していると、突然肩をつつかれた。


 俺はゆっくりと振り返り、姿を確認する。

 結喜か癒怒か、哀歌か・・・楽か。

 正体を確かめると、そこにはよく知っている人物が立っていた。


「おはようございます。鳴海君」


「・・・地神(ちがみ)先生・・・?」


 地神先生。

 地神 絵梨(ちがみ えり)。俺が通う高校の教師だ。


「挨拶が聞こえませんね」


「あ、おはようございます」


「よろしい」


 地神に挨拶をした後、静寂が流れる。

 なんで教師とばったり会うとこんなに気まずいのだろう。


「先生は何でここに?」


「先生は学校にいちゃいけないってことですか?」


「いやそんなことは・・・」


 グイッと顔が近づき、俺は少し下がる。


「冗談ですよ」


「心臓に悪いんでやめてくださいよ。俺じゃなかったら問題になってますよ」


「私だって人くらい選びますよ」


 そう言いながら地神は俺の肩を叩く。


「で、結局何しに来たんですか?」


「偵察ですよ」


 地神はそう話しながら歩き、焼きそばの屋台をしているクラスに入った。


「偵察?」


「はい。あ、焼きそばください。鳴海君も食べますか?」


「・・・いただきます」


 そう話すと、会計係の生徒に現金を渡して焼きそばを購入する。

 

「少々お待ちください」


 生徒にそう言われ、会計横の狭い空間に移動した。


「で、偵察って何ですか?」


「未来を担う若者がここから出て、私のいる高校に来るかもしれません、どんな子がいるのかを把握する責任があります。だから」


「・・・偵察」


 俺の質問に地神はそう返して焼きそばを受け取る。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


 まだ温かいままの焼きそばを持ちながら歩く。


「そんなことも先生の仕事なんですか?」


「どうなんでしょう・・・私は若いですからね、駆け出しには手ごろなクエストかもしれませんね」


「若いって・・・そんなですか?結構頑張っている感じしますけどね」


 そう話すと前を歩いている地神が眉を歪めたまま俺の顔を見る。


「なんですか!先生は若いです! 今の言い方じゃ若作り頑張ってますね(笑)みたいになりますよ!先生は25です!」


「いや、流石の俺でも年齢のことは言わないですよ!てか25なんですか!?」


 やけに若いな。 でもそんな年齢でしっかり教師をして、すごいな

 俺は前を歩く地神がその瞬間からすごく遠い存在になったような気がした。


「すごいですね」


 俺はそう呟いていた。

 その声に地神が振り返る


「何がですか?」


「しっかりしてるというか・・・」


「あぁそんなことですか」


 地神はそう話しながら窓の外を見る。

 

「すごいって何ですか?」


「・・・え?」


「人間は主に2種類でそれを使います」


 地神は俺の顔を見る。


「鳴海君のすごいは羨ましいってことですか?何でもできて、何でも持っていて、自分より優れているから」


 そう話す地神は優しい顔を向ける。


「そういう意味で言うなら、私も鳴海君はすごいとおもいますし、羨ましいです」


「それってどういう・・・」


「今も何かしているんですよね?」


 それを聞いて俺は目を見開く。


「あたりですか?」


「・・・なんで」


 そういうと地神は自身の瞳を指さす。


「ここには自信があるんです」


 静寂が流れる。

 この人は初めからどこか見透かしているような事を話す。

 それはいつも合っていて、頼りにしていた。

 それと同時に、少し嫌ってもいたかもしれない、自分の中まで全部見られている気がしたからだ。

 だから隠すのは不可能なのかもしれない


「感情を・・・」


「取り戻すため?」


 俺の言葉を遮って、地神が話した。


「事故の時から変わったと思っていましたが・・・そうだったんですね?」


「まぁ・・・」


 俺の顔を見ながら地神は小さくため息をついた。


「感情を取り戻すために動いてると・・・狂気の世界で戦っているんですね」


「・・・どうですかね」


 何も言えなかった。


「でも諦めずに進もうとするのはいいことです。何もしないまま立ち止まるのは誰でもできますからね」


 何も言えないままの俺を見つめて地神は笑う。

 そして口を開いた。

 

「なら先生からアドバイスです」


「アドバイス?」


「持論ではありますが。感情は完全には消せません。ただ鈍感になっているだけです、いつか必ず取り戻せますよ」


 その言葉に俺は少し笑いながら話す


「そんな無責任な・・・」


「はい、無責任です。でも鳴海君は今笑いました。 私の勝ちですね、感情は何も喜怒哀楽だけではありません、期待してますよ」


 地神はそう話しながら俺の後ろに視線を送る。


「・・・お迎えが来ましたよ」


 俺はその言葉に振り返ると、車椅子に座った女の子、結喜がこちらに向かっていた。

 

「頑張ってください。いい結果、お待ちしています」


 その言葉に俺は振り返ると、地神の姿はもう消えていた。


「ここ兄ぃ来てたならクラス見に来なよ」


「・・・悪い」


 そう言いながら結喜を見る。


「どうしたの?」


「いや・・・何でもない」


 そういって俺は歩き出した。

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