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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第五章 『俺と私達の』
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3「裏側」

 哀歌の手を引きながらゆっくりと歩く。


「とりあえず、どこかのファミレスにでも入るか?」


「そうね、どこかに行く予定もないしそうしよ」


 俺の言葉に結喜が返した。


「ここから近いところだと・・・あそこでいいか」


 俺はそう話しながら脳内の地図を展開して道を辿る。


 やはり哀歌がいるからか少し歩きにくい。

 別に歩きにくい分には問題ないのだが、時間がかかるわけで・・・

 そうなると自然と話題もなくなってくる。


 左側に哀歌。右側に癒怒。前に結喜と車椅子を押している楽。


 そして結喜と楽は楽しそうに話すが、俺の横にいる二人は違った。


「大丈夫か?」


「「はい」」


 俺の言葉に同時に返事をする。

 もちろん俺もどちらか特定の人間に質問を投げたわけではない。

 どちらか答えればいいと、そう思っての発言だった。


 だが、困っているのも事実だ。

 話題はなく。

 ひどく気まずい。


「そういえば・・・」


 俺は何かを話そうとしてそこで止まる。

 何かあるだろうか。

 なんとなくでも簡単に話せる話題は。


「・・・両親との話し合いはどうだった?」


 いろいろ考えたがこれ以外には出てこなかった。

 なんとなくで話すには重い話題だ。

 でも、これしかない・・・遅かれ早かれどうせ聞くんだ。


 俺の言葉に癒怒は少し考えて話す。


「話し合いといっても、今の私がどんな状況なのか、学校ではどんな状態か、そして鳴海さんたちはどんな人か、何者なのか、そんな話です」


「えらくザックリだな」


 もう少し詳細なところまで話すかと思っていた。

 どんな話をして、どんな結論が出るのか、そんなところまで話すのかと思っていたが・・・


「興味があっても話したくないなら強要はしない、鳴海さんが言ってましたよね」


「確かにな」


 俺は少し笑いながら歩く。


「これでも助けられたと感謝しているんですよ?」


「別に、道を作っただけだ。 癒怒の意志でその道を進んだ・・・この結果は癒怒自身が手に入れた結果だろ?俺は何もしていない」


 そう話すと癒怒は優しい笑顔を俺に向けた。


「なんだよ?」


「いえ、ただ・・・損をしてしまいそうなくらいに優しいんですね」


 癒怒の言葉に俺は首をかしげる。


「そうですね」


 一瞬の静寂の直後、哀歌がそう話した。

 

「ですよね?」


 癒怒が上品に笑いながら哀歌と話す。


「自分に全く関係ないことに首を突っ込むところとか」


 と癒怒が話す。


「何も言わずに手を引いてくれるところとか」


 と哀歌が話す。


「どんな手段を使ってでも助けるところとか」


 再度癒怒。


「なんだかんだ良く見ていて、みんなを心配しているところとか」


 再度哀歌。


「ですねー」


「ですよねー」


 そう話しながら笑う二人、でもすぐに癒怒の表情は硬くなった。


「でも・・・」


 そう呟いては俺の顔を見上げる。


「鳴海さんの行動は『誰か』のため。 全部そうなんです。だからこそ、誰かのためじゃないと動かないからこそ、何を考えているかわからない」


 俺は癒怒を見つめる。


「誰かを助けることに何か理由がいるのか?」


「違います」


 俺の質問にそう答え、癒怒は結喜と楽を見つめる。


「誰かを助けること自体は問題ないんです。それは大儀で、正義だから。ただ、行動原理が、行動理由が問題なんです」


 その言葉に俺は首をかしげる。


「なにが問題なんだ?」


「自分の意志がそこにはないんです。誰かが傷つくから、誰かが泣いているから、誰かが困っているから、誰かが・・・なんて言うんでしょう・・・自身の心を見ていないような・・・真似をしているような感じもします。異世界から来た何かが、人間の感情を学ぼうとしてコミュニケーションを図っているような違和感さえあります」


 癒怒はそう話す。

 なぜ・・・昨日会って・・・そこまでわかるのか・・・

 どんな観察眼だよ・・・


「だから、全部誰かのためだから、自分の気持ちがないから、何を考えてるか、何を思ってるかわからないんです。こんな話をしている今も鳴海さんは眉一つ動いていないじゃないですか」


 そう話す癒怒。

 それに俺自身気が付いていなかった。

 感情・・・心を失ってから感じたことのない・・・

 確かにそうだ。怪しまれないように、悟られないように、誰かの真似をする必要があった。

 忘れたものは簡単には思い出せなかったし、それの重要性さえも分からない。


 俺は・・・


「でも、もし俺が自分のために動いていたとしたら、考えていることが分かったのか?」


 俺は癒怒にそう話す。


「わかりません。所詮は他人が考えていることですから。でも、予想はできます。こんなことを考えているかもしれない、もしかしたらこう思っているのかも・・・でも、鳴海さんを見ても、それすら思い浮かばないんです」


 癒怒は真剣な表情で、声で言った。


「でも助けられてはいるだろ?」


「そうですね、現状は・・・」


 その言葉に俺はため息交じりに首を傾げた。


「どういうことだ?」


「人間ていうのは欲望の塊です、次から次にほしいものが増えていく。独りが寂しいなら人数を、それでも足りないなら体温を、まだ足りないなら心の通じる何かを・・・そうして行きつく場所は心が絶対に必要になってきます、他人に寄り添うことは心がなくてはいけません。 今のままだと、本当に助けたい何かを助けられなくなる可能性が高いですよ」


 その言葉に俺は少し考える。

 

 本当に助けたいもの・・・

 視界に映るのは結喜と癒怒、哀歌、楽だ。

 正直に話すと、居心地がいい。

 きっと守るとしたらこの空間だ。


「ついたー!」


 俺の思考を吹き飛ばすように結喜の声が耳に入る。


「ここ兄ぃ、ここでいいんでしょ?」


「あぁ・・・そうだな」


 そう話してファミレスに入る。

 店員に案内され、全員が席に着く。


「ドリンクバー行ってくるけど、何がいい?」


 楽がそう話す。

 その耳にはイヤーマフがかかっていて俺はあることを思い出す。


「そういえば、楽。ファミレスで大丈夫だったのか?」


 言葉足らずな質問だが、楽はしっかりと意図を理解したのか話し始める。


「大丈夫だよ、今はあんまりうるさくないし、ファミレス自体あまりうるさくないしね」


 そう話して飲み物を取りにどこかに行ってしまう。


「私も行ってきますね」


 そう話して癒怒も行ってしまう。


「さっきは何話してたの?」


 結喜が話す。


「さっき?」


「そう、さっき。癒怒ちゃんと真剣な顔しながら話してたじゃん」


 俺はそう聞かれ、少し考える。


「なぁ」


「何?」


「俺の事、どこまで知ってる?」


 俺の質問に結喜は眉をゆがめる。


「・・・何言ってるの?」


「そのままの意味だ」


 そう話すと結喜は割と真剣に考える。

 数秒考えた後に、口を開いた。


「知っているつもりだったね、数か月前までは・・・」


「・・・どういうことだ?」


 俺が聞き返すと、結喜は一瞬だけ哀歌を見て話を続ける。


「事故の日・・・ううん、それから少したってからかな・・・感情が読み取れないっていうか・・・私の記憶ではもっと笑って、怒って、しっかりしてた記憶があるんだよね」


 そう話す結喜は懐かしい過去を振り返るような顔をしていた。


「何の話してるの?」


 コンっとグラスをテーブルに置きながら楽が話す。


「いやね、ここ兄ぃの今と昔がかなり変わったなぁって話」


「生きていれば人は変わるでしょ」


「違うよ、心がないーみたいな、昔とは違う気がするんだよねぇ」


 楽の話に結喜はそう返す。

 直後、楽はうなずいた。


「やっぱりそうなんだぁ」


 楽は俺を見つめてそういう


「楽ちゃんも気が付いてたの?」


「うん初めからね。解き方を知っていれば答えを知っている風に振舞えるけど、解き方を知らないなら真似をすることだってできない」


 楽は結喜の言葉にそう答えながら席に座る。


「でも・・・」


「そ・・・」


 何かを話そうとした結喜と楽の言葉を遮るように癒怒がグラスを置く。


「感情があるのかどうかわからない?」


 そう話しながら癒怒は座る。


「哀歌さん、失礼します」


 そう話して哀歌の横に座った癒怒は俺を見つめて口を開いた。


「感情を取り戻したいのか、そうではないのか、そこが大事になると思います」


「俺は・・・わからない」


 俺を見つめて癒怒が言った言葉に、俺は首を振りながら話す。


「でも人の真似をするってことは少なくとも嫌ではないってことでしょ?・・・マズ・・・何入れたの?」


 結喜は話しながら楽の持ってきた飲み物に口をつけて眉をゆがめた。


「いろいろミックス。聞き忘れたから」


「だからってなんで混ぜるの・・?」


 そう話す楽と結喜を見つめながら俺は少し考える。

 直後、左袖を引かれた。

 視線を向けると袖をつかんでいたのは哀歌だった。


「どうした?」


「私も・・・そう感じました。どこか心がないような・・・ずっと思っていました・・・」


 哀歌もそう話す。


「なんだよ・・・みんな思ってたのか?」


 その言葉に全員が頷く。


「でも、感情がないです。って、だったらどうする?」


 結喜は話す。

 全員が考え、脳を働かす。

 結喜以外は甘い飲料で糖を取り、頭を動かす。

 結喜は劇薬のような飲料を飲み眉をゆがめていた。


「でも、個人的な感情なんですが・・・」


 そう話す哀歌に視線が集まる。


「心さんのいろんな場面を見てみたいとは思います・・・私は目が見えないので心を、感情を大事にします・・・ですが心さんは感情に形がないような気がします」


 哀歌はそう話す。


 確かに俺自身は現在の状況に不便を感じてはいない。

 だが、彼女たちはどうだろう。

 これから先も関わっていくうえで何かしらの不便を感じるかもしれない。


「・・・わかった。やるだけやってみよう」


 俺はため息交じりにそう話す。

 俺は彼女たちが気づいていたことに気が付かなかった。

 そして、彼女たちも俺のことを理解していない。


 理解するには・・・俺の感情が大事になる。

 やるだけ・・・失敗したらどうなるのだろう。

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