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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第四章 『この世界に』
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3「私の居場所を」

 ガラガラと音を立てながら職員室の扉を閉める。


「・・・これで収まるでしょうか?」


「さぁな・・・学校側が隠蔽しなければ、退学やら謹慎やら何かしらの対処はするだろ」


 俺はそう言って目の前の窓から見える街並みを眺める。


 もう夕日が出てきている時間だ。

 癒怒(ゆの)の手当てをして、いじめの証拠を職員室に持っていく。そこから質問攻めときてこんな時間になってしまった。


「結構遅くなったな・・・送るよ」


「いやいや!いいですよ!ここまでしていただいたのに申し訳ないです・・・」


 俺の提案に癒怒は首と手を大きく振りながら拒否の意志を見せた。


「いや、ここまで来たら付き合うよ。送らせてくれ」


 そういうと癒怒は少し考えた後にゆっくりと頭を下げた。


「では・・・お願いします」


 その言葉に俺はうなずき、歩き出した。


「じゃあ、帰ろうか」


 俺がそういうと癒怒はうなずいてパタパタと足早に俺の横についた。


 玄関に行き、靴に履き替える。

 癒怒の下駄箱に行くとまだ履き替えている姿が見えた。


 俺はスマホを取り出し時間を確認する。


「16時半か・・・」


 俺は結喜から届いていた通知を確認する。


 グループトークの招待だった。


「そういえば言ってたな・・・」


 俺は参加のボタンを押しトークに参加する。


「お待たせしてすいません」


 スマホを見ていると癒怒の声が響いた。


「待ってないよ」


 そう言って俺はスマホをポケットに押し込もうとする。

 直後、スマホが震えた。

 画面を確認するとグループトークに新規メッセージが入ったとの通知だ。


 俺はスマホのロックを解除して内容を確認する。


(チーズケーキにはチーズ入ってるけど、ショートケーキにはショート入ってないよ?)


(結喜ちゃん・・・あんた馬鹿でしょ?)


 そんな会話をしていた。

 途中から参加した俺は過去の会話を見れない、いったいどんな会話からこの会話に派生したのか気になるところだ・・・


 次あったときに聞いてみよう


 そう思いながら俺は呆れが100%のため息を漏らす。


「だ、大丈夫ですか?」


 その光景に心配した癒怒が声をかけてきた。


「あぁ、大丈夫だ。 知り合いの頭の悪さに呆れていただけ」


 そう言いながら俺はスマホをポケットに押し込んだ。


「じゃあ行こ」


「はい」


 そう言って俺と癒怒は校舎を出た。


 だが・・・中学生の女子と二人で帰るとは・・・

 会話が続かん・・・


 そうして俺は頭の中の記憶を探る、何があったか会話の種になるようなことはないのか・・・

 そんな時、一つだけ浮かんだものがある。


 俺はそれについて語ってみることにした。


「そういえば・・・」


「はい?」


 俺の言葉に癒怒がこちらを見る。

 綺麗な金髪が揺れ、綺麗な瞳は俺を見上げた。


「助けたとき・・・触らないで!って言ってたけど・・・あれはなんだ? 結局は保健室で問題なく触れられたし・・・」


 そういうと、癒怒は難しそうな顔をした。


「別に話したくないなら無理に話さなくてもいいぞ」


 そういうと彼女は頷き、黙ってしまう。


 まぁ・・・こうなると気まずいよなぁ・・・


 それから1分もしないうちに彼女は口を開いた。


「おかしな話かもしれません・・・きっと信じられないでしょう・・・」


 そんなことを言う彼女の声は震えていて、顔は強張っていた・・・


「俺は否定しないし、離れたりしない」


 気が付くとそう言っていた。

 彼女は驚いたように俺の顔を見つめた後、深呼吸をした。

 そしてゆっくりと話し始める。


「簡単に言えば・・・幻覚なんです。医者は心的ストレスによるものだろうって言ってました。原因は・・・」


「イジメか・・・」


「はい・・・多分そうなんだと思います」


 そう話す彼女は気持ちが落ち込んでいるのか目を伏せてしまう。

 それでも、彼女は話を続けた。


「いつからかは覚えていません・・・。すごく長く感じました・・・。 助けてくれる人はいなくて、誰にも言えなくて、居場所を見つけられなくて、いつからか周りから向けられる視線が怖くなりました」


 二人の足音が響く。

 空は夕日に照らされオレンジいろに光り輝く。

 その空はすごく綺麗に思えた・・・

 だが、今の彼女にはそれを感じることはできない・・・ この子はまだ前を向けない・・・


「まるで汚いものを見るような目・・・。世界中の人間から必要とされていないとわからされる・・・不安と・・・孤独感で壊れそうになったんです。 そんな時です・・・不安と孤独感を連れ去るように私の体から黒い粒子みたいなのが現れたんです。 それは私が触れるものに移り、包み、私を覆いました」


 その話を聞いて俺は何といえばいいかわからなかった。


「変ですよね・・・」


 そう言ってこぶしを握る彼女を見て俺はすぐに口を開いた。


「変じゃない・・・! 誰だって孤独を感じる。変じゃない・・・。孤独を好む人間はいても、孤独に耐えられる人間はいない・・・ だから・・・変じゃない」


 そう話す俺を彼女はしっかりと正面から見つめ、綺麗な瞳から大粒の涙をこぼす。


「誰にも言えなくて・・・」


 誰にも言えない・・・ そうだ。 誰かに言っても馬鹿にされるか、頑張れ、世界はそんなもんだと言われて終わる。 

 何の解決策も見つけられず、誰も頼れない。

 どんなに辛くても、死にたいと願うくらい苦しんでも、他人にとっては『その程度』で済まされてしまう。


 そして崩れ、医者にかかるくらいまでになったときには・・・もう遅い・・・


 そうして突き放し、その程度で済ませたそいつらは決まってこう話す

 『どうしてそんなになる前に相談してくれなかった?』


 しただろう。

 助けてのサインは出しただろう?

 どうして? 

 出していた、もう限界だって言ったろう?


 見て見ぬふりして、突き放して、話も聞かず、あざ笑って・・・最後に出てくる言葉がそれか・・・


「あの・・・」


「あ、悪い」


 考え事をしていたせいか癒怒の声に気づけなかったらしい


「なんだ?」


「家・・・着きました・・・」


 そういう彼女の背後には綺麗なマンションがそびえたっていた。


「あ、あぁ・・・」


 全然気づかなかった。


「あの、お茶でもどうですか? 送ってもらって何もしないのも気が引けます・・・」


 癒怒はチラチラとこちらの反応を伺いながらそう話す。


「いや・・・」


 断ろうとして言いかけた言葉を飲み込む。

 ここで断って大丈夫だろうか・・・

 先ほどは故意ではないとはいえ、考え事のせいで無視をしていたかもしれない。

 ここで断ってしまえば、変な話をしたから避けられている・・・そう感じるかもしれない。


 考えすぎか?


 でも・・・


「いただきます」


 そう言って癒怒とともに歩きエレベーターで上に行き、玄関の扉を開ける。


「ただいま」


 そう言って癒怒は家に入るが・・・真っ暗な家から「おかえりなさい」の声はなかった。

 静かで暗い廊下を一人で進む彼女の背中はひどく寂しそうに見えた。


「お邪魔します」


 そう言って靴を脱いで俺は彼女の後に続いてリビングに入る。


「鳴海さん、適当にソファに腰かけちゃってください」


 癒怒はそう話しながら冷蔵庫を開けてお茶を取り出す。


「ご両親は?」


「帰ってくるのは深夜になります・・・いつも遅いんです」


 癒怒は寂しそうにそう言いながらグラスにお茶を注ぐ。


 誰にも相談できない・・・

 両親は仕事で帰ってくるのが遅いから一人なのか・・・


 学校ではいじめられて、家では一人・・・耐えられるわけがない・・・


「すいませんお待たせしました」


 そう言って癒怒はグラスを俺に手渡す・・・


「ありがとう」


 受け取ろうとした途端、視界に透明な何かが降ってくる。


「え・・・」


 俺はわけがわからずに見上げると癒怒はボロボロと泣いていた。


「え・・・ど、どうした。 何かあったか!?」


 俺は焦りを隠せずに立ち上がり、グラスを受け取る。

 

 俺はきょろきょろと周りを見渡し、近くにあるテーブルにグラスを置いて再度近寄る。


「大丈夫か・・・?」


「すいません・・・すいま・・・うぅ・・・ごめんなさい」


 そう言いながら大声で泣きだしてしまう。


 気が付かなった。

 もう、限界だったんだ。 張りつめていた糸が切れたんだ。

 なんで・・・何かしてしまったか?


「どうした・・・? 癒怒?」


 俺がそう聞くとと彼女は床に座り込んでしまう。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい! 嫌ぁ・・・嫌ぁ・・・一人になりたくない・・・強くなるから! もう泣かないから一人にしな・・・」


「しない!」


 泣きながら叫ぶ彼女の言葉を聞いていると、自然と無意識にそんな言葉が出ていた。


「見捨てない!一人にしない! だから・・・泣いていい!弱くてもいい!だから・・・大丈夫だ・・・」


 俺はそう叫んでいた。

 どこか、似ていた。


 事故にあった後の結喜に、心をなくして行く先が分からなくなった俺に似ている気がした。


 だから言いたかったのだ。

 それは癒怒に言うと同時にきっと、自分にも言い聞かせていたのだ。


 泣いていい、我慢しなくていい、怒っていい、みんなにやさしくなくていい、怖がらなくていい


 きっと、俺が癒怒に言った言葉は、あの時俺がいってほしかった 言葉なんだ。そんな気がした


 癒怒は涙で濡れた瞳で俺を見つめる。


「鳴海さん・・・助けて・・・」


「わかった・・・」


 癒怒の要求に俺は即答した。

 昔の自分を助けられる気がした。


 その言葉を聞いた癒怒はうずくまり泣きじゃくる。

 俺はその背中を撫でていた。


 十数分後、落ち着いた癒怒とソファに座りお茶を飲んでる。


「ごめんなさい・・・」


 そう呟いた癒怒を横目で見る。


「謝るな。・・・そんなときもある」


 それ以外に何も言えなかった。

 どこか気まずい時間が流れる。そんななか逃げるように俺は時間を確かめようとスマホを取り出した途端にある案が頭び浮かぶ。


「癒怒、スマホある?」


「え?はい」


 俺の質問にそう答えては彼女はスカートのポケットからスマホを取り出す。


「連絡先交換しよ」


「え、え?」


 オドオドしている癒怒のスマホを奪い取り、勝手に連絡先を交換して操作をする。


「ほい、グループトーク招待するから入って」


「え、ええぇ?」


「ほら早く」


 そう話すとグループトークに癒怒の名前が入る。


(誰かグループ通話付けて)


 そう送信すると結喜がグループ通話を開始する。


 それに参加すると、結喜の声が響く。


「ここ兄ぃまだ帰ってないの?」


「まぁな・・・癒怒を招待したから仲良くしろよ」


 俺はそう言って癒怒の顔を見る。

 彼女は俺の意図をくみ取り頷く。


「猫凪癒怒です。よろしくお願いします」


「あ、猫凪さんいるの? え、ここ兄ぃ今どこ!?」


 俺の電話から癒怒の声が聞こえたからか結喜が騒ぐ。


「うるさいうるさい」


「はいー!美少女に向かってうるさいって言ったから、アイス買ってきてね~」


「なんでだよ」


 そんな会話をしている横では癒怒が小さく笑っていた。

 

 そんな彼女の肩をたたく。

 こちらを見た彼女に、猫凪癒怒に言ってやるのだ。


「よかったな、ここが居場所になる。寂しさは少しくらいは薄れるはずだ・・・」


 そう話すと癒怒は大きく目を開き涙を浮かべる。


「泣くな泣くな」


「え? ここ兄ぃ猫凪さん泣かしてるの!?」


 どうやら癒怒に言った言葉が結喜に聞こえていたらしい。

 直後、通知が現れる


(ここ兄ぃが女の子泣かせた)


 その直後、楽と哀歌が通話に参加してきた。


「心君が女の子泣かせたって聞いて来た」


「え、心さん女の子泣かせたんですか!?」


 あぁ、そうか哀歌はたまたま入ってきたのか。

 文字が見えないから内容はわからない・・・


 つまり、グループ通話に参加した瞬間に俺が女の子を泣かせたことになっているわけだ。

 めんどくさくなったなぁ


 そう思いながら腕を組み考える。

 すると肩を小さくつつかれる、視線動かすと癒怒がこちらを見ながら笑っていた。


「ありがとうございます」


 そう話す癒怒の声はどこかすっきりとしていて、この状況を楽しんでいるのか声が弾んでいるようにも思えた。

 でもそんな姿を見たら目の前の問題は今はいいと思えた


 ・・・・・・まぁいいか。


 そして俺はガヤガヤと騒がしくにぎやかに会話が飛ぶスマホに視線を戻した。

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