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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第四章 『この世界に』
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2「罰を」

 俺は金髪の少女を立たせ、汚れた服をはたかせる。

 スカートや制服についた土が埃のように宙に舞い、彼女は咳き込んだ。


「大丈夫か? とりあえず保健室に行こう」


 俺はそう言って彼女の手を引いて歩き出す。


「結喜!」


 俺はそう言いながら歩き、車椅子に座っている黒髪の少女の名を呼ぶ。

 それに反応して全員が振り向いた。


「あ、ここ兄ぃ。どこ行ってたの?」


 そういう結喜を見つめ、俺は何も言わずに金髪の少女を見つめる。

 俺の視線を追うように結喜は彼女を見つめた。


「あれ・・・猫凪(ねこなぎ)さん?なんで?」


 猫凪。おそらく金髪の少女の名前なのだろう。


「まぁ。ちょっとトラブルに巻き込まれててな」


 俺がそう話すと結喜は俺を見てため息を漏らした。


「感情がなくなっても、根本まではかわらないか・・・」


「どういう意味だ?」


 俺は首をかしげながら問う。


「他人を見下して、あざ笑ってるように振舞うけど、お人よしというか・・・」


 結喜がそう話すと、後ろで哀歌が頷いていた。


「・・・よくわからん」


「わからなくていいよーだ」


 結喜はそう馬鹿にするようにいった。


「で、猫凪さんを連れてきたってことは、ここ兄ぃの中ではまだ終わってないわけだ」


 その言葉に俺は深くうなずく。

 結喜はやはり優秀な女の子だ。事故に合わなければもっといい人生を歩めたかもしれない。


「また意味のないこと考えてる・・・」


 結喜は唇を尖らせながらそう言った。


「そんなことはない」


 心が読まれているのだろうか。

 感情がうまく表に出せなくなった今も、やはり考えてしまう。

 幼馴染ならわかってしまうのだろうか。


「で、これからどうするの?」


 結喜は俺にそう話した。


「これから猫凪を保健室に連れて行って、そのあとは職員室に行く。 最悪保護者を呼び出すことになるかもしれん、そうなると時間がかかる。 全員で出かけるのは明日にしよう」


「そんなことだろうと思った」


「悪いな。風切、楽、結喜と哀歌を頼む」


 俺がそういうと二人はしっかりと頷いた。


「グループトークとかあるだろ?それに招待しといて、明日の日程を帰ったら決めよう。グループ通話なら哀歌も大丈夫だろ」


「でも、電話の画面押せるかな?」


 俺の提案に結喜はそう言った。


「哀歌、できそうか?」


「はい、大丈夫です。お母さんと電話するときもあるので。 慣れてます」


 哀歌ははっきりとそう答えた。

 なるほど・・・頼もしいな。


「最悪出れなくても、明日の朝10時には哀歌の家に迎えに行くよ」


「ありがとうございます」


 そんな話をした後、徐々に小さくなる結喜達の背中に手を振る。


「さて、行くか。保健室」


 俺は猫凪の顔を見ながらそう話した。

 その言葉に猫凪はゆっくり頷いた。


 俺たちは校舎に戻り、猫凪が上履きに履き替えるのを見つめる。

 彼女が頭を下げて靴を拾おうとする。

 肩にかかっていた金色の髪が垂れ、彼女の顔を隠した。


 本当にきれいな髪だ。

 俺はそう思いながら彼女を見つめる。


 しっかりと手入れされた髪、痛んでるようには見えず、毛先まで整っていて枝毛一つない。

 垂れている毛先を見ていると背景に膨らみが映る。


 胸・・・着やせするタイプか・・・

 前かがみになったとたん、彼女の胸部が強調された。


 俺はすぐに目をそらし、窓の外を見る。


「お待たせしました」


 そう声をかけられ、彼女に視線を移す。

 すると、彼女の唇から血が流れてるのが見える。


「おい、血がでてるぞ」


 俺がそういうと、彼女は持っていたカバンのファスナーを開け、何かを取り出そうとする。


 その光景に俺はため息を漏らし、彼女に歩み寄る。


「猫凪、こっちみろ」


「はい?」


 俺の呼びかけに猫凪はこちらを向く、色白の肌は血や内出血で少し変わっていた。

 

 少し姿勢を低くし、俺は自身の服の袖で彼女の血を拭く。


「なんで・・・汚いですよ・・・!」


「いいんだよ。洋服なんて着てれば汚れる」


 俺はそう言って立ちあがる。


「ほら、早くいくぞ」


 そう言って先に歩き出した俺を追うように、猫凪は早歩きでついてきた。


 そう話し保健室につく。


「失礼しまーす」


 ガラガラと扉を開けると白衣を着た女性が立っている。


「何かあったの?」


 窓の外を眺めていた白衣の女性はクルリと回りこちらを見た。


 だが、美しい顔は一瞬で青ざめた。


「え・・・猫凪さん何があったの!」


 あたふたとする白衣の女性に、俺は頭を抱える。


「先生、とりあえず手当からお願いしていいですか?」


 俺はそう話した。

 

 その声に白衣の女性は冷静さを取り戻し動き出す。


「じゃあ、猫凪さんこっちに座って」


 そう言われた猫凪は指示通りに椅子に座る。


 俺は視線を目巡らせ、部屋の隅にあるソファを見つけて腰掛ける。


  少しの間、猫凪が手当てを受けてる場面を見つめる。

 その時校内放送が響く。


「これからミーティングを始めます。職員は職員室にお願いします」


 その後、俺は白衣の女性を見つめる。

 呼び出しがあり、行かなくてはならない。 だが、目の前の生徒を放置してはいけない。


 そんな表情をしながらきょろきょろとしていた。

 そしてその焦りは消える・・・


 俺を見つけたからだ。


「君・・・」


「いやです」


「いや・・・でも・・・」


 そう言いながら困り顔になる白衣の女性を見つめる。


 猫凪を見ると大体の処置は終わっていた。

 あとは出血してる小さな傷を処置すれば終わるだろう。


 銀色の滑車に血を拭いたガーゼがいくつも積まれているのを見る。


 ・・・仕方ない。


 できることはこっちで、猫凪を助けたのも、ここに連れてきたのも俺だ。

 最後まで付き合う責任がある・・・。


「わかりました。どうぞ・・・」


 俺はそう言いながらソファから立ち上がる。


「ありがとう! 道具は自由に使っていいから、後で片しておくからそのままでいいよ!」


 そう言って白衣の女性は保健室を後にした。


 俺は猫凪の前にある椅子に座り、ガーゼに消毒液をつける。

 そしてそれを顔の切り傷にあてた。


「いっ・・・」


「大丈夫か?」


 猫凪が目をつむり痛みを訴える。

 それに俺は確認をした。


「すいません・・・」


「なんで謝る。悪いことしてないだろ」


 そういうと、猫凪は俺の顔を見つめた。


「なんだ」


「怒らないんですか?」


 その言葉に俺は首をかしげる。


「なんで怒る必要がある?」


「こんな怪我をして、あなたを巻き込んでしまいました」


 変なことを言っているように聞こえた。


「・・・? よくわからん。怪我なんて誰でもするし、別に悪いことじゃないだろ」


「そうですか?」


「まぁ、自分の体を大事にしないでわざと怪我をしたなら怒るかもな。 でも基本はない。心配することはあっても、怒るのはない」


 そう話すと、猫凪は少し嬉しそうだった。


「でも、うざくないですか?迷惑じゃないですか?」


 猫凪はそう話す。


 またそれか。

 哀歌もよく口にする単語だ。


「迷惑だったら最初から首を突っ込んでない。安心しろ」


「そう・・・ですね」


 そう言った猫凪は穏やかな顔をする。


「ほら、頬にまだ血がついてる・・・拭くぞ」


 そういって顔の血を拭きとる。

 その時、胸元に血がついてるのを見つけてしまった。


「ワイシャツにも血がついてるじゃないか」


 これはなかなか落ちないぞ・・・

 なんで服についた血は洗濯でも落ちずらいのか・・・


「今からブレザー脱ぐんで、お願いしてもいいですか?」


 猫凪は確かにそういった。


 ん?

 なんだ。なんか変な感じだ・・・


 そんなことを考えている間に彼女はブレザーを脱ぎワイシャツの姿になっていた。


「お願いします」


 そう言って胸を突きだす。


「・・・いや・・・」


 流石にまずい・・・事案だ!犯罪になってしまう。

 乳を揉んだとかいうエグイ理由で朝のニュースに出たくない!!!


 そんなことを考えていると、猫凪が俺の腕をつかみ引く。


 そして、俺の腕は豊満な胸に触れてしまった。


「血が落ちなくなるので、早めにお願いします」


 猫凪は表情を変えずにそう言った。


 俺は内心諦め、目をそらして腕を動かす。


 下着のうえ、服の上ということもあり、柔らかさというのはあまり感じないが、その中にも沈み込む感覚や重量感は伝わってくる。


「そうそう・・・ありが・・・」


 猫凪は言葉を途中で止め、俺の腕をつかんだ。


「す、あ、ごめんなさい!!!」


 顔を赤らめながら猫凪は大声を上げた。


「あ、あのあの! いつもしてもらってるから・・・その感覚で!!」


 リンゴのように赤くなる猫凪をみて俺は呆然とする。


「とりあえず落ち着け・・・」


「お、落ち着く!? でもでも、、、男の人におおお・・・おっぱ・・・おっぱ・・胸を触らせてしまった・・・!」


 猫凪・・・そんなに焦るな・・・

 俺は、もう覚悟をしている。 痴漢でもセクハラでも覚悟はできてるぞ・・・


 いつも?


「まて・・・いつもってなんだ?」


「ふぇ? あ、ごはん中などに洋服にソースなどが付いた場合は拭いてもらってるんです。小さいころから」


 猫凪はそう話す。


「・・・お母さんに?」


「お母様?いいえ違います。 私の家に仕えてる者にです」


「え、猫凪ってお嬢様?」


 そう話すと猫凪は首を傾げた。


「なるほどな・・・お前がいじめられてる理由が何となくわかったわ」


 そういうと、猫凪は苦しそうな顔をした。


「それは、なんですか?」


 猫凪は消えてしまいそうなほど小さな声でそう言った。


「ま、胸の血を自分で拭きながら聞けよ」


 そう言って俺は猫凪にガーゼを手渡す。

 そして話し始めた。


「簡単に言えば、お前が羨ましいんだよ」


「羨ましいから、いじめるんですか?」


 そういう猫凪の顔は少しおびえているようにも見えた。


「ちがう。いじめる理由は勝てないからだ」


「はい?」


「お前に勝てないから、全部持ってるお前に勝つ術がないから、せめて自分の手で負けを認めさせて優位に立ってると思い込みたかった。 その間だけは猫凪・・・お前に勝ってると思えたから」


 そういうと猫凪は涙を溜めながら俺を見る。


「そんな・・・そんな勝手な理由で・・・!」


「そうだよ。いじめってのは基本自分勝手な理由で始まる。気に食わないから・・・猫凪・・・お前は悪くないんだよ」


 そういうと大粒の涙がこぼれる。


「でも、いじめられる側にも原因があるって・・・」


 辛そうな顔をしながら話す猫凪を見て、俺は歯を鳴らす。


「そんなことはない。よく聞く話だ、最初はいじめグループにいたが、何とか改心していじめグループから抜け出した。 そしたら次は自分が標的になったとかな・・・ はじめから嫌いならわからなくはない、でも仲良かったやつを急にいじめるか? 理由はある・・・自分に反抗するやつが憎いとかな・・・」


 そう話すと、彼女は苦痛に顔を歪め、顔を伏せる。


「でも・・・理由があるならやっぱり・・・」


「あのな、理由と原因はイコールじゃない。 いじめをする理由があっても、原因にはならないんだよ。で、理由があっても、していいことにはならん」


 俺はそう言った。


「前に・・・友人に言ったんだが・・・俺たちは強化ガラスなんだよ」


「強化・・・ガラス?」


「そう『心』っていう値段のつけられない宝石を守るためのな」


 その話をすると、興味がわいたのか猫凪は顔を上げる。


「強化ガラスは特殊な方法を使わないと破壊できない。知識が必要だ。 いじめにも・・・そいつにどれだけの苦痛を与えられるか知識が必要だ」


「・・・はい」


「普通の人間は・・・展示されてるものがどんなに美しくても手は出さない。でもいじめる奴らは違う。奪い、破壊する。 羨ましくて、憎いから。 自身の弱さを隠したい・・・でも正面からは絶対に勝てない、だから、努力をあきらめて他人を蹴落とす方法にシフトする。 そうでもしないと勝てないからな」


 俺は話しながらもため息を漏らす。


「そんな理由で・・・」


「全員がそうじゃないと思うけどな・・・でも、真に、心から成長したいと思う人間は上を目指して、戦うはずだ」


 俺はそう言って立ち上がる。


「暗い話になったな。大体拭き終わったろ。行くぞ」


「行くってどこに?」


「最後の戦場・・・職員室だよ」


 そういうと猫凪は勢いよく立ち上がる。


「え・・・さっきは許すって・・・今すぐやめれば許すって・・・」


「何言ってんだ・・・?許すわけないだろ。いじめなんて軽い言葉で片付いてるが、犯罪だ。 猫凪、痣はいくつだ?血は殴られたときに出たろう? 立派な傷害罪だ。許すわけがないだろう、最悪お前が自殺していたら? そうじゃなくても、学校にこれなくなったら?人間不信で誰にも頼れずに人生が崩れたら?。 これは俺の言い分だが・・・他人の人生を破壊するつもりなら・・・そいつらの人生もかけてもらわなきゃ割に合わないだろう?」


 そう話すと、猫凪は驚いた表情をする。


「立ち上がるのは自分だ、歩き出すのも自分だ。 でも、座り込んで動けなくなるようなことがそもそも起こらなければ、人生は変わっていたかもしれない。 だからやるんだ、徹底的に、人を殴るなら殴られる覚悟を、人生を潰すなら潰される覚悟を、人を殺すなら殺される覚悟を・・・それに見合う罰を、代償を払ってもらうしかない」


 そういうと、猫凪はゆっくりと頷いた。


「わかりました・・・行きましょう・・・えっと・・・」


 あぁ、まだ名前を言ってなかったか


鳴海 心(なるみ こころ)だ」


「鳴海さん。 私は猫凪ゆの。 癒す怒りと書いて猫凪 癒怒(ねこなぎ ゆの)です」


 珍しい名前だ。

 癒怒は怒るのが苦手らしい・・・だから代わりに俺が・・・


「よろしく」


「よろしくお願いします」


 そう言って俺たちは保健室を後にした。

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