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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第四章 『この世界に』
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1「私はいらない」

 この世界はきっと、私を必要としていない。


 この世界には私はいらない。


 なぜかって?

 この惨状を見ても、まだそう言えるあなたがうらやましい。


 私が何をしたの?

 私に何をしてほしいの?

 なんでこんなことをするの?

 どうして楽しそうなの?

 痛いよ・・・


 苦しい、なんで目をそらすの?

 そうして気づいているのに誰も助けてくれないの?


 なんで、心配の声すらないの?


 そんなに自分が大事なの?

 そうだよね・・・


 きっと、私が間違ってるんだ。


 全部私のせい。

 きっとそう。


 罵詈雑言は聞き飽きた。

 服の下は傷が多い。

 心はきっと砕けている。


 だって、もう何も感じないんだもの。


 だから、もう何も求めない。

 どうでもいい。

 痛みも今は心地がいい気がした。


 でも、周りの人間は死を許さない。

 助けようともせず、安全地帯から逃げるなとつぶやくだけ。

 命を救った気でいる偽善者。有象無象。


 逃げるな?

 ならあなたがここにきてよ、私の痛みを全部肩代わりしてよ。

 弱くて怒れない私の代わりに怒ってよ。


「私を助けてよ・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「大丈夫か?」


 授業終わり、俺は金髪の美少女に話しかける。


 その子は泣いていて、目の周りが赤く腫れていたから心配になったのだ。


 それに・・・「私を助けて」なんて呟いてるのを見ると心配でたまらなかった。


「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 金髪の少女は力強くそう話して足早に教室を出て行ってしまう。


「なんなんだ・・・」


 俺はその背中を見ながらそう漏らす。


「ここ兄ぃ~何してんの、早く帰ろうよ」


 カラカラと音を立てながら現れたのは車椅子に座る黒髪の少女、結喜だった。


「どこ見てんの?」


 金髪の彼女を目で追う俺に結喜はそう話した。


「いや、何でもない。 行こうか」


 そう話すと結喜は頷く。


 直後に盲目の銀髪少女、哀歌と、イヤーマフをかけている青髪の少女、楽、それと風切も合流した。


「じゃあ一回帰って着替えてからもう一回集まろうか。その間にどこに行くか考えておこう」


 俺がそう話すと全員がうなずく。

 それを確認して、ともに玄関に向かう。


 結喜の下駄箱から風切が靴を取り出し、車椅子の足をのせる場所に置く。

 そこからは自分で履き替え、風切が上履きを戻していた。


 哀歌の方は見えていないとはわからないほどスムーズに履き替えていた。


「なるほど・・・」


 練習、繰り返しが生み出した技術だろうか。


「じゃあ、行くか」


 そう言いながら哀歌の手を引き、校門を目指す。

 車椅子はいつも通り風切が押している。


「帰って昼飯は食べてから集まるか?」


 俺の問いに全員が考え始める。


「できれば外で食べたいかなぁ、あまり機会ないし」


 そう呟いたのは結喜だった。

 あまり機会がない・・・


 少し前に大型ショッピングモールでアイスを食べたような気がするのだが気のせいだろうか・・・

 まぁいいか・・・


「なら外でもいいが、あまり高いものは食えないぞ。財布に2千円しかない」


「お腹いっぱい食べれないじゃん。 誰も養えないよ」


 俺の言葉の結喜がきつく返してくる。

 そもそもなんでコイツは人の金で腹を満たそうとしているのだろう。


 恋人や家族ならまだわかるが・・・


「うるせぇ、二千円あればカップラが10個は買える」


「不健康ルートまっしぐらじゃん」


 俺の言葉に半ばかぶせるように結喜が話す。

 なんでコイツはこんなに生意気なんだろう・・・

 昔はもう少し素直だった記憶が・・・あれ?ない?


 はじめから生意気だったかもしれん。


「じゃあ、家で食べてから集合でいいんじゃない?」


 そう楽が話す。


「そうするか」


 楽の提案に乗るように答えると、全員が「はーい」と声を上げた。


「あ、そういえば」


 そう話を始めようとする結喜に視線を向けると、変なものが視界に映り込む。

 それは結喜の遥か後ろにいる金髪の少女だった。


 同じ制服をきた誰かに腕をつかまれて校舎の陰に姿を消す。


「・・・なんだ?」


「いやだから・・・」


「ちょっと待ってて」


 何かを話そうとしていた結喜の話を遮り、俺はそう呟く。


「楽、哀歌の手、頼むわ」


「え、心君!?」


 半ば強引に楽に哀歌を預け小走りで後を追う。


 こんな白昼堂々、それに保護者もウロウロしているときにまさかいじめなんてするはずない。

 まさかな・・・


 近くまで行き速度を緩める。

 

 いじめだろうか。

 いや、このタイミングでするのはリスクがある・・・


 いやぁ、でもいじめをする連中は大抵頭が回らん。

 どっちかな・・・


 砂を蹴る音ともに俺はゆっくりと進んでいく。


「お前キモイんだよ!男子にちやほやされてるからって調子乗んな!」


 そんな声が響いてきた。


 俺はバレないようにゆっくりと顔を出して状況の把握をする。


 いじめ側は三人・・・いじめを受けてるのは・・・泣いてた金髪の少女か・・・


 罵詈雑言の嵐、死ねだの殺すだの大変だ。

 極めつけは暴行。


 いじめなんて軽い言葉で言っているが、犯罪のオンパレード。

 暴行罪、侮辱罪、相手が自殺した場合って殺人罪になったりすんのかな。


「とりあえず動画撮るか」


 俺はそう呟き、スマホのカメラを起動する。


「動画、動画っと・・・」


 ボタンを押すとポンッと音が鳴る。


「やべ」


 音でまずいかと思ったが、案外バレないもんやな。

 俺はたった20秒ほどの動画を撮り、俺はため息を漏らす。


 そうして一歩、踏み出した。


「誰?」


 俺の足音に気づき、全員がこっちを見る。


「いじめなんてやめようぜ」


「あんたには関係ないじゃん」


そう言いながら彼女らは俺をにらむ。


「そもそもコイツが!」


 そう言いながら主犯格と思われる女子が金髪の少女の腹部に蹴りを一発入れた。


 少女は痛みで咳き込み、その場にうずくまる。


「被害者面すんな!」


 そうして女子がこぶしを振り上げた


「ちょっと待った!」


 俺はそう叫び、スマホを掲げる。


「いじめの現場、さっきこっそり録画してあるから、それ以上するなら学校と警察に言うぞ」


「はぁ?いえば? 盗撮でしょ、それ。 逆に訴えるから」


 女子の一人が煽るようにそう話す。

 仕方ない。ここは大人の・・・悪知恵を働かせた戦い方で・・・


「馬鹿だなぁ、知らないのか? 証拠を収めた盗撮は盗撮として処理できないんだよ」


 俺はにやりと笑いながらそう言った。

 まぁ知らないけどね。

 そんな時、いじめをしていた中の一人が口を開く。


「私知ってる。 痴漢冤罪とか暴力行為とか、証拠になりえるもののために行った盗撮なら罪に問われないって聞いたことある・・・」


 おい、まじかよ。

 そうなのか? 知らんかった、俺に教えてくれ。


 女子の一人がそういうと、一瞬で場の空気が変わる。


 なんかよくわからんがラッキー!


「そうだよ、よく知ってんじゃん。どうする?まだやる? 今やめるなら許してやってもいいけど?」


 そう話すと女子たちは俺の横を走り抜けて姿を消す。


 俺は小さくため息を漏らし、少女に近づく。


「大丈夫か?」


 俺がそう声をかけると、彼女は俺を見上げる。


「どうして・・・」


「どうしてもこうしても、理由もない。 ただ、気になっただけだ。 立てるか?」


 そう話しながら俺は手を伸ばす。


「触らないで!!」


 彼女の大きな声に俺は動きが止まる。


「・・・あ、ごめんなさい・・・。でも大丈夫ですから。 私に触ると汚れる・・・」


 そういう彼女を見つめる。


 確かに服は汚れているし、顔には痣がある。

 口を切っているのか、血がついていた。


 だが、汚れたとしても洗えば落ちるものばかりだ。


「いや、俺は大丈夫」


「だめ!」


 再度手を伸ばそうとすると拒絶される。


 彼女は自身の震えるからだを抱く。


「私に触れてはいけません・・・。この汚れは落ちないんです・・・お風呂に入っても、皮膚がはがれて血が流れるまで擦っても落ちないんです。 なのに、触れたものはすべて汚れてしまう」


 彼女はそう言った。

 そういうお年頃なのか? でも噓を言っているようには見えなかった。


「お前、何が見えてる?」


「私は・・・この世界に存在してはいけないんです・・・。 こんなに汚いのに・・・こんな世界に・・・」


 そう話す彼女の声は震えていて、おびえているようにも聞こえた。


 それでも俺は・・・


「だから何だ。人間自体が汚いんだから、汚いものが汚いものを生み出したって別に普通だろ」


 そう言いながら俺は彼女の腕をつかむ。


「だめっ・・・」


「知らん、そんなとこにいる方が汚れる」


 俺はそう話す。

 でも彼女は俺がつかんだ腕と俺を交互に見ていた。


「なんだ。面白いことでも起きてるのか?」


「なんで・・・汚れが移らないの? な、なんで・・・」


 そう言いながら彼女は俺を見つめる。


「さぁ?なんでだろうな? でも、少しは話を聞く気になったか?」


 俺はそう言いながら笑った。

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