3 「見えないものだらけ」
水槽をただ見つめる楽。
暗闇の中で俺は楽だけを見つめていた。
「それはどういう・・・」
「自分でわかってるくせに、息遣いに焦りが混ざってる。 ・・・理由は聞かないけど・・・何も感じないんじゃないの?」
楽は水槽を見つめながらそう話す。
落ち着いた声色。表情は変わらず、淡々としていた。
「俺に、感情がないって言いたいのか?」
「・・・そうだよ。さっき助けてくれたのには感謝してる・・・でも、違和感があった。何も込められてない声ってのは案外わかるんだよ」
楽はそう言って、水槽から俺に視線を写し、すぐに外し歩き出した。
「どこいくんだ」
「戻るの。心配してるんでしょ? 早く」
そう言って徐々に小さくなっていく楽の背中を見つめため息を漏らす。
俺は再度見つめた後、足早に歩き出した。
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ペンギンの生態エリアに戻ってきた俺と楽は、天見たちに合流した。
「・・・何かあったか?」
天見は俺と楽を交互に見ながら心配そうに話す。
「いや、何もない」
「別に」
俺と楽は同時にそう答えると、楽は俺を睨みため息を漏らす。
「・・・ははは」
その光景を見つめ、天見が苦笑いをする。
「・・・行こう」
そう話し、俺たちは歩き出した。
だが、楽だけはその場に留まり、俺たちを見つめていた。
「楽・・・どうした?」
俺がそう言うと、楽は俺たちを順番に見る。
まるで品定めをするように目を動かし、状況を読み取ろうとしているようにも見えた。
「・・・ごめんなさい」
突如、楽がその言葉を発した。
迷子になったことに対してか、この状況を作ったことか・・・
「いやいや!気にしないで!
「そうだよ!気にしない!」
「別に気にしなくていいんじゃない?」
「大丈夫大丈夫!迷子になってもすぐに見つけるから!」
「私は目が見えませんが、力になれるようには努力します!」
俺以外の全員が答える。
どうやら遅れてしまったらしい・・・
楽は俺を見る。
お前は何も言わないのか?と、そう言いたそうな表情だ。
「・・・まぁ・・・あれだ。気にすんな。よくあることだ・・・」
そう、よくある事だ。だから別に驚かなかった。
中学生なんてそんなもんだろ
「・・・それだけ?」
「・・・それだけだ・・・他に何がある?」
楽の質問に俺はそう答え、その答えに楽は細かくうなづいていた。
「まぁいいや」
そう言って彼女はゆっくりと歩き出し、俺の手を握る。
「・・・なんだ」
「この中では、内も外もあなたが一番静かで落ち着く。だから、そばにいてあげる」
「そうか・・・自由にしろ」
俺はその言動にため息を漏らし、歩幅を合わせて歩き始める。
それからは何事もなく水族館を回る。
レストラン付近で楽が耳を押さえ少し嫌がっていたが。まぁ、発作が起きたりはなく、案外あっさりと抜けられたのは感謝するべき点だろう。
「これからどうする?」
水族館を出たあたりで、先を歩いていた天見が振り返ってそう話した。
「今昼どきだろ。飯でも食うか」
「でも兎静さんが・・・」
俺の提案を聞いた天見は心配そうな顔をしながら楽を見つめる。
「別にレストランじゃない。駅の下にファストフード店あるし、コンビニだってある。今ならスマホでメニューも見れるから、買いに行く組と待機組に別れればいい」
俺がそう話すと、天見はなるほどな・・・と呟き、スマホを取り出した。
「少し離れてるから、調べながら歩こう」
「賛成だ。飯食ってから、次を考えよう」
そう話し、全員歩き出す。
次は・・・あぁ。海でも見に行こうか・・・