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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第三章 『この世界は』
12/116

1 「うるさい」

 〜海浜公園~


 あれから数日が経ち、俺はリュックを背負い外にいる。


 それは学校の授業、校外学習と言うやつだ。

 そして・・・横には


「ここ兄ぃ、しけたツラして何?文句ある?」


「あぁ。あるさ、でもお前にじゃなく、学校にだ」


 俺は車椅子に座る黒髪の少女、結喜を見つめながらそう呟く。


「ま、ここ兄ぃは外嫌いだもんね」


「それもあるが・・・試験的な運用も兼ねて選ばれたのが、お前の学校と、俺の学校だ」


 そう。俺の地域では普通はありえないだろう、中学と高校の合同校外学習を行うことになった。

 8月中盤。異例の行事に選ばれたのは、結喜や哀歌、風切が通う中学と、俺の通う高校だった。


「では!中学校で事前に決めてある班を作って、お兄さんとお姉さんについて行ってね!」


 そう言って俺の教師、地神が元気に手を振る。


「でも、中学と高校の合同なんてありえないよねー」


 結喜は地神の声を聞きながらそう話した。


「まぁな。だが、理には叶っている。少子化が進み、若者の意見が重要視される中、中学生と高校生の知識量や、見たものに対する印象の受け方や感情のギャップを調べる。 昔とはやり方が変わるってことだ」


「それは役に立つのかな」


「さぁな。それは、教師と国の仕事で、俺には関係ない」


 そんなことを話していると、俺と結喜の近くには数人、俺たち含め8人が集まる。


 そう、今回の合同は、中学生4人、高校生4人からなる1班で行動する。


「で、中学生側は、結喜、哀歌、風切・・・と・・・」


 俺は彼らを見つめ、近くで制服を着た少女を見つめる。名前の知らない少女、髪を少し染めているのか、青みがかっているような気がする。

 身長は150弱くらいだろうか、髪はポニーテールに結んであり、肩までの長さしかない。


 だが、気になったのはそこではなく、制服の上に着たフード付きのパーカーと、彼女が外さないようにしているヘッドホンだった。


「君の名前は?」


 だが、反応はない。


 ヘッドホンをしているからか、声が聞こえてないのか?

 だが、ヘッドホンというには少し妙な形状をしているようにも見えた。


 俺は少し近づき、肩を叩くと彼女はビクッと身体を震わせて、俺を睨む。


「名前、教えてもらっていいか?」


 そういうと、彼女はヘッドホンを外し、ゆっくりと口を開いた。


兎静 楽(とじょう らく)


 兎静と名乗った彼女はもう一度ヘッドホンを付け直そうとする。


「楽って呼んでいいか?兎静の方がいい?」


「別に、どっちでもいい・・・」


「なら、楽って呼ぶわ」


 そういうと、楽は小さく頷いてヘッドホンを付け直す。だが、まだこちらを見つめていた。

 微かに青く光る瞳は澄んでいてすごく綺麗だった。


「で、そのヘッドホンは何?」


「ヘッドホンじゃない・・・イヤーマフ。大きな音、嫌だから・・・」


 楽はそう淡々と話し、イヤーマフを再度付け直す。


 すると、結喜が話し出す。


「楽ちゃんはね、聴覚過敏なんだよ」


「聴覚過敏?」


 俺は聞いたことのない名前に、スマホを取り出す。

 ブラウザを開き、聴覚過敏を検索にかけた


「聴覚過敏は感覚過敏の一つで、日常で発生する音に不快感やストレスを感じる・・・。一般の人間が気にしない音でもストレスになってしまうことがある・・・。専門家でも定義が異なり、完全には分かっていない症状・・・」


 俺はスマホの画面を見ながら小さく呟く。

 

 そして、再度楽を見つめる。


「なら、静かに行こう」


 駅から歩き、数分した所に水族館がある。

 そこに入るのが楽だろう。


 あそこならエレベーターもあるし、スロープだってある。

 車椅子の結喜は困らない・・・問題は・・・


「哀歌、水族館に行こうと思うんだが、お前は・・・その」


「見えないから楽しくないかもしれない?ですか?見ることだけが娯楽じゃありませんから、聴いて、感じて、私は今までそうしてきました、そしてこれからも・・・」


「そうか」


 いらない心配だったようだ。

 それなら、問題はない、静かで、車椅子も通れる。


「なら、行くか・・・。お前らもそれでいいだろ?」


 そう言って、俺は同じ班の高校生連中に話しかける。


「鳴海がいいっていうならいいんじゃないか?俺は賛成だよ」


 そう話したのは赤髪で長身。俺よりイケメンで他人に気が遣えて人気のある男、天見 空(あまみ そら)がそう話した。


「天見がいるなら安心できるしな」


「ここ兄ぃって友達いないんじゃなかった?」


 俺が天見に関心があることに驚いたのか、結喜は冷たくそう話す。


「そうだ。友達じゃない。俺より成績はいいし、運動能力だって高い完璧超人だ。 頭髪の見た目とは裏腹に、誰に対しても優しい。だから今のところは

信用はできる。・・・好きじゃないけどな」


 そう話しながら俺は天見を見つめる。

 彼は他のクラスメイトと話しながら、こちらを見た。


「で、鳴海?水族館で決定かい?」


「あぁ。だが、あそこは暗いし、人も多い、鳳山はこっちでみる。 犬神は風切が見れるから、お前らはあまり気にしなくていい」


「鳳山?犬神?風切?」


「鳳山は銀髪の子、犬神は車椅子、風切は男の子だ。兎静はお前らのそばに居させてやってくれ」


 そう話すと、天見はゆっくりと頷いて俺を見つめる。


「わかった。迷子になったりしたら、かなり大事だもんな、なるべく目を離さないようにしよう」


「頼む」


「で、鳴海は鳳山さんを預かって、どうするんだ?あれ、白杖だろ?」


 そう言いながら、天見は哀歌の持つ白杖を見つめる。


「ゆっくり歩くわ。補助が必要だろうし、あの子自身も知らない人に補助をされるのは少し怖いだろう・・・それより」


 俺はそう話し、楽を見つめる


「あの子は耳が良いらしい、騒がしかったりするとストレスになるみたいだから、周りに注意してあげてくれ」


「わかった」


 俺の言葉に天見が頷く。

 その時だった。


 元気な子供達が叫びながら横を通る。

 

「待ちなさい!」


 母親の声がひびき、去っていく。


 俺はその姿を見送った後に、思い出したように楽に視線を写す。


「そうだ、楽!」


 見つめた先には、しゃがみ込んでいる少女が映る。

 イヤーマフを抑え、耳を塞ぐようにしていた


 俺は駆け寄り、目線の高さを合わせる。

 

「大丈夫か?」


 だが、返答はない。

 よく見ると、激しく身体が震えていた。

 呼吸が荒い。


「過呼吸・・・こんな簡単になる場合もあるのかよ・・・」


 俺は彼女の背中に手を当て、撫でる。


「深呼吸しろ、大丈夫。もう大丈夫だから」


 俺の指示に従うように、楽は無理やり深呼吸をしようと試みるが、咳き込んでしまう。


「天見、水買ってきてくれ金なら後で返す」


「わかった、すぐ戻る」


 そう話し、天見は近くの自販機に走って行った。

 その間も、俺は手を止めずに大丈夫と言い聞かせる。


 心配そうな表情をする、結喜や風切。

 彼らの表情とは裏腹に、天気は凄くいい


「暑いな・・・」


 俺は小さく呟き、ため息を漏らした。

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