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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第二十二章『聖なる日の』
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4「叫び」

 歩き出して数分・・・

 結喜(ゆき)がつぶやいた。


「ここ兄ぃはさ・・・今は楽しい?」


 車椅子の音が響く中、結喜は俺の方に顔も向けずにそう呟いた。


「なんだよ、急に」


 俺はそう言いながら上がった息を整えるように深呼吸をして耳を傾ける。

 何か・・・彼女なりに思うことがあったのだろうか。

 俺の態度が・・・どこか楽しめてないように感じたのだろうか・・・


「いやさ、最初は感情の欠如・・・というか起伏が乏しいみたいな・・・感情がないというより、喜怒哀楽を感じずらくなってるってそんなんだったじゃん」


「そうだな・・・かなり苦労は掛けたし、まぁいろいろあった気はするな・・・」


 俺は過去を思い出しながらそう答える。


「それで、次は記憶が飛んだ。それは私たちにはすごく悲しいことで、怖かった」


「あの時は本当に世話になった。まさか解離性健忘なんてな・・・話では聞いたことがあるから、名前くらいは知っていたが・・・今思えば俺がなるなんて全く思わなかった」


 俺がそう答えると、結喜はクスッと笑い、頷いた。


「私たちの人生には、その『思わなかった』がたくさん詰まってる。この八か月間でそれを身をもって実感した」


「確かにそうだな」


 俺は今までの事を思い出す。

 八か月前・・・結喜が事故に巻き込まれた。

 得たのは不自由な生活のみ・・・両足の欠損。


 それから数か月・・・おそらく三ヶ月くらいが立ったある日、哀歌(あいか)と出会った。


 日本人か疑ってしまうくらい綺麗な銀髪に、銀色の睫毛・・・そして色素の薄い碧目・・・彼女は盲目・・・全盲だった。

 話を聞けば光の有無くらいはわかるとのことだが・・・やはり視界が開けていないと生活は怖いらしい。

 いつも俺を掴む手には力が入っていた。それでもしっかりと掴んで付いてきてくれたことには、今では感謝している。


 そうしてそれから一週間もしないうちに(らく)と出会った。

 青に黒を混ぜたような暗い青髪に、深い碧目・・・常にイヤーマフを身に着けたクールな女の子・・・

 彼女は聴覚過敏を患っていた。

 聞く音がストレスになり、すべての音に過敏になる。

 耳を塞ぎたくてもそれは許されない・・・いくら耳を塞いでも、完全に塞ぎきれない音は耳を貫き、心を刺激した。


 過呼吸になるなんてこともあったな。

 きっとあの子も日常生活でかなり苦労したタイプだろう。


 いつも耳を塞いでいたが、次第に外の音に慣れてきたのか普通に話すことが増えた。

 もちろん・・・たまに般若のような顔にはなっていたが、耳を塞ぐ回数が減ったのは大きな一歩だと信じたい。


 そうしてそれから・・・癒怒(ゆの)に出会った。

 自分の感情を素直に表に出せなくて、うまく怒れないでいた。

 誰にも見せなかった服の下には無数の痣があり、心だって泣いていた。

 それでも、身近な人間にさえ相談できず、心を壊しかけていた。

 あの時、偶然俺が彼女を見つけられなかったら・・・そんなことは考えたくない。


 そこから・・・おそらく物語は動き出した。

 それぞれが目指すものや、叶えたい物に歩き出し、何かを掴むために必死になっていた。

 失ったものを一つ一つ取り戻すように必死だった。


 そして今・・・その物語が終わりに向かっている。


「色々あったな。たった一年・・・いや、一年も経ってないもんな。ありすぎるくらいだ。些細な事に対する記憶が薄れてしまうくらい、でかいことばかり起きた」


「それでも、私たちは折れなかった。小さな体で、未熟な経験で、足りない頭で策を弄して、何とかここまで繋いだ」


 そう言いながら結喜は少しため息を漏らす。


「楽しかった。辛かったけど・・・生きてるって感じがした。ただの惰性じゃなくて・・・何かのため、誰かのために生きている実感があった。きっと、一人でも欠けたらこのエンディングは見れなかった」


 そう言いながら結喜は少し顔を傾け、片目だけで俺を見つめて口を開いた。


「ありがとうね・・・心お兄ちゃん・・・ううん。ありがとう・・・心」


「なんだそれ・・・生意気だな結喜」


 そう話していると、大型のショッピングモールが見える。

 異常とも呼べるくらい大きなクリスマスツリーが視界に入った。


「大きいね」


「だな。眩しい。キラキラ光ってる」


「それはそうだよ。年に一回の大きなイベントだもん・・・イルミネーションにも力入れるよ」


 俺はその言葉を聞きながらツリーの前で立ち止まる。


「ここ兄ぃ?」


「俺は・・・」


 そこで言葉が止まってしまう。

 このキラキラとした光景を目の前にして、過去を悔やんでしまう。過去に思いを馳せ、正解を探してしまう。

 平和は、俺の心を蝕むと同時に癒した。

 周りの人間と・・・健常に混ざり『普通』になった実感が心にしみる。


「ゆっくりでいいよ・・・ここ兄ぃ」


 結喜の言葉に俺は心を落ち着けて口を開く。


「俺はうまくできてたか?助けられたか?まだ足りない気がするんだ・・・俺の周りに・・・人間はいるか?」


 そう話すと、結喜の車椅子が動き出し、俺の手を離れる。

 結喜は車椅子を操作して振り返り、俺の顔を見つめた。

 イルミネーションを後ろに、煌びやかに光る世界が逆光して、彼女の表情を隠す。

 だが、彼女の声はひどく優しく、すべてを包んでしまうような気がした。


「どうだろうね・・・まだ足りないかな・・・?でも、それはここ兄ぃの頑張りが足りないからじゃない。それだけは・・・これだけは、ここ兄ぃが自分を許してあげないと救ってあげられない」


 その言葉に、俺は少しばかり考えた。

 だが、それを気にもしていないように結喜は話を続ける。


「でも、もう十分じゃないかな・・・。ここ兄ぃの周りにはもうたくさんの人がいる・・・願いはかなったでしょ?全部一人で背負って傷つく必要はないんだよ」


「でも・・・俺は・・・」


 俺は・・・きっと望まれなかった存在だ。母親は俺を置いて出て行った。結果的には解決した話ではあるが・・・いまだに真意はつかめていない・・・傷つく・・・そんなことで俺の価値が証明できるだろうか?」


 瞬間、キャップを外した結喜の輪郭を、何かが伝う。

 イルミネーションで輝くそれは、流れるとともに結喜の声を震わした。


「もういいんだよ。認めてあげてよ・・・。沢山助けたじゃん・・・感情を失くしたじゃん・・・記憶を失くしたじゃん!!これ以上失わなくていいんだよ・・・わかってよ!!もう一人じゃないってわかってよ!!ここ兄ぃが傷つくことを嫌がる人間がいるってわかってよ!!なんで自分の事なんて後回しで、誰かを助けようとするの?なんで一人で背負っちゃうの?私がいるじゃん・・・私たちがいるじゃん!!」


「結喜・・・」


「やっと重荷を降ろしたの・・・私たちの事も・・・天見(あまみ)さんや、柳牛(やぎゅう)さん・・・熊懐(くまだき)さんの事も片付いた。感情も取り戻したし、記憶は帰ってきた。もちろん・・・これからの事はわからないし、これからもっと辛いことがあるかもしれない・・・でも、もう認めてあげてよ・・・頑張ったって・・・もう疲れたって・・・少しくらい休んでよ!!」


 俺は何も答えられず、そこに立ち尽くしたままだった。


「すまん・・・」


 鼻をすすりながら謝罪の言葉を口にした結喜のシルエットを見て、俺は歯を食いしばる。


「ここ兄ぃ・・・なんて顔してんのよ。今日は楽しい日にしよ・・・せっかくのクリスマスなんだから」


 そう言いながら結喜は深呼吸をしてキャップを深くかぶる。

 

 歩き出した俺たちの間には優しい静寂が流れる。

 白い息と。啜り声・・・枯れた声と・・・笑い声・・・。


 好意も、愛も・・・喧嘩も・・・心配も・・・相手が生きているからできることだ。

 俺はその意味を聖夜にハッキリ感じた気がした。

こんにちはこんばんは鬼子でございます。

完結がかなり近づいてきましたね・・・私も少し悲しいです。


で、全然関係のない話なんですが・・・

この小説のタイトルの変更を考えています。

メスガキという単語を入れて、中身はかなりシリアスな物というギャップが好きだったのですが・・・

読み手側からするとどうなんだろ?という疑問が芽生え、完結まじかで考えている次第でございます。


もしかしたら完結前に変化することもあるかもしれませんし、変わらないかもしれません。

もし変更があった場合、、読者様が探せないと大変ですので、この場を借りてお伝えさせていただきました。


今後とも、鬼子をよろしくお願いします。


では・・・

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