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4「願い」

 鈴の音と共に街が鮮やかに彩られる。

 十二月下旬・・・本格的な寒さが迫り、服はだんだんと厚くなっていった。


「もうすぐでクリスマスだね」


「そうだな・・・もうすぐってか、明後日だろ?」


 結喜(ゆき)の言葉に俺はそう返答しながら、彼女の車椅子を押す。


「で、なんだっけ、マフラーが欲しいんだっけ?」


「まぁ、靴下とか?」


 結喜はそう言いながら前を見ていた。


「大型ショッピングモールが近いからか、こんなところから装飾してるんだな。去年のクリスマスあたりは外出しなかったから知らなかったな」


「まぁ・・・ここ兄ぃは彼女いないもんね」


「うるせー。今年もいねぇよ」


 俺の返答に彼女は小さく笑った。


「ってかなんで靴下?サンタさんにもの入れさせるのには少し小さいだろ。汗水たらして小さな靴下にゲーム機押し込んでるおじさんとか見たくないんだけど」


 俺がそう話すと、結喜は頭を上げる。


「学校終わりだから文句が止まらないの?それに、サンタに何か頼まないし、ましてやゲームは頼まないよ」


「おい、サンタ()()だろ。ちゃんと呼べよ、朝から晩まで働いて、下手したら晩から朝までも働いてんだぞ。残業代もないだろうに、トナカイだって二足歩行で日本語話すレベルだぞ」


 俺がそう話すと、結喜はため息を漏らしながら口を開いた。


「サンタもトナカイも海外産だよ」


「トナカイだけは日本からの輸入の可能性も捨てきれないぞ」


 その言葉に、結喜はだめだこりゃ・・・と言いたげに首を振った。


 そんなくだらない話をしながら俺たちはショッピングモールに入った。


「で、何買うんだっけ?マフラー?」


「ここ兄ぃは冬になったら買う物一つしかないの?靴下だって」


「マフラーだけあれば全身隠せるだろ」


「死んじゃうよ・・・社会的に」


 俺の言葉にしっかりと返してくる結喜を見つめながら、俺は車椅子を押す。


 そうしてエレベーターに乗って、目的の階のボタンを押した。


「そういえば、義足の方はどうなんだ?」


「悪くはないけど、まだ違和感がね・・・」


 俺はそれを聞き。彼女のスカートの下に隠れているであろう義足に目を向ける。

 まぁ、実際は見えないから、スカートを凝視する変な人になるんだけど。


「違和感ね・・・家の中だけならまだしもな・・・外ってなるとまた感覚も変わりそうだもんな」


「靴の有無でかなり変わるかも。常に段差と戦ってる感じ」


 結喜はそう話したが、正直何を言っているのかわからなかった。


 チーンと音が鳴り、エレベーターの扉が開く。

 俺は車椅子を押しながら、衣服が売っているコーナーに向かった。


「みんなクリスマスとか予定あるのかな?」


「さぁな・・・熊懐(くまだき)はバイトがあるって言ってたな」


「ここ兄ぃの学校ってバイト禁止じゃなかったっけ?」


「進学校だしな・・・でも、金がないからメイク道具が買えないんだと。女子は大変だな」


 俺がそう話すと、何かを理解したように、結喜は頷いていた。


柳牛(やぎゅう)は父親と過ごすってさ。ケーキを大量に食わせて、父親を殺すって息巻いてたな。寺の息子ってケーキ食べていいのかな」


「そんなこと計画してたんだあの人」


「学校行ったら結果聞いてみよ」


 俺はそう言いながら歩く。


「ほかの人は?」


天見(あまみ)も家族と過ごすってな・・・妹の誕生日も近いから、なんたらーって言ってたわ。化粧品会社の件もうまくいっているみたいだしな。熊懐をモデルにすればいい感じにならないのかな」


「みんな予定があるんだね」


 俺の言葉に、結喜はそう話した。


「そっちの中学生組は?お泊り会とかしないのか?」


 俺の言葉に、結喜は首を振る。


「癒怒ちゃんは家族と過ごすってさ。ほら、誕生日の時とか色々あったし、家族が時間を大切にしたいとか何とかで。哀ちゃんはおとなしくするってさ。盲目の中で人込みに突っ込めないから、危ないし。楽ちゃんも大体同じ、ガヤガヤはうるさい・・・ってさ」


 俺はそれを聞いて、まぁ全部納得の理由だなと感じた。


「ここ兄ぃは?」


「俺は学校が終わったら直帰で返ってゲームだな。クリスマスのイベントがあるかもしれん」


「用事ないの?」


「あれ?ひとのはなし聞いてる?」


 俺の話は一切聞かず、結喜はうーんと悩む。

 そんな話をしている間に、衣類品が売っているコーナーに到着した。


「さてと・・・黒系の服とか?いつも黒じゃん。たまに白も着るけど」


「うーん」


 俺の問いに彼女は少しばかり頭をひねった。

 かなり悩んでいるご様子・・・何も決めていなかったのか。

 さっきの靴下がなんたらの会話は何だったんだ。


 俺がそんなことを考えていると、結喜はゆっくりと口をひらいた。


「白の服買おうかな。聖夜だし」


「いや、聖夜は二日後だし、中学生組はみんな予定があるんだろ?なんで服なんか・・・」


 俺はそういいながら一つの心当たりを思い出す。


風切(かざきり)か?もしかして風切とデートか?確かに、あいついつもお前の事気にかけてたもんな」


 俺がそう話すと、結喜は小さくため息を漏らした。


「なんだよ、あんまり仲良くないとか?」


「仲はいいよ・・・たまに話す」


「たまに話す奴は世間一般的に仲がいいとは言わねぇよ」


 俺のその言葉に、結喜はクスッと笑った。


「そうだね、でも、誘いたい人はいるかな・・・」


 結喜は顔を少し赤らめながらそう話した。


「なんだと・・・最近の中学生は進んでるんだな・・・俺の時なんてな・・・」


 俺はその続きが出なかった。

 好きな奴どころか友達いなかったわ。


「・・・まぁ色々あったんだ」


「むしろ何もなかったの間違いじゃないの?」


 俺の心を見透かしたように、結喜はそう話した。


「うるせぇ。毎日がサプライズだったら感動が薄れるだろ・・・何もなくて、たまにドカントでかいのが入るくらいがちょうどいいんだよ」


「それはわかるけど・・・まぁいっか。早く服決めよ。温かいものがいいなぁ」


 俺はその声を聴きながら車椅子を押す。

 ゆっくりと・・・狭い通路を歩いている。


 まるで、たった一本しかない正解の道を歩かされているように

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