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非モテの俺がメスガキの世話をするようになった話  作者: 鬼子
第二章 『暗闇の中で』
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4 「導くもの」

 その日の午後・・・

 今日の午前中は哀歌を守るために理論を展開した。

 それは子供騙しにしかならないが、彼らにはひどく効果的だったろう。


 俺はソファでテレビを見ながらあくびをする。


「ふぁ・・・今何時だ?」


 そう呟きつつ近くにあったスマホの電源をつけて時間を確認する。


「・・・14時半・・・なんかお菓子とか食うかなぁ」


 そういいながら腰を持ち上げ、お菓子がしまってあるであろう棚に向かう。


 キッチンに向かい、上にある棚に手を伸ばすとインターホンがなった。


「・・・なんだ」


 俺は呟き、頭をかきながらインターホンについているカメラを起動する。


「・・・何か用か」


 カメラに映っていたのは車椅子の少女、結喜だった。


「よく私ってわかったね」


「そりゃな。頭部しか映ってない。お前の頭を何回見たと思ってるんだ」


「あけてよ!あーけーてー!」


 俺の話は聞かずに叫び出した結喜にため息を漏らし、俺は玄関に歩き出す。


「あのな、俺の家は暇つぶしのゲームセンター的ポジじゃないんだよ・・・だからおかえりくださ・・・」


 話しながら玄関を開けると、結喜のほかに見覚えのある人間が2人ほど見えた。


「哀歌と・・・風切・・・」


「あ、こんにちは・・・!」


 俺のことは気にせずに哀歌が元気に挨拶をした。


「・・・はぁ。取り敢えず入れ、菓子とかも出すから。制服姿なんだし、暗くなる前に帰れよ」


 そういって結喜、哀歌、風切の3人を家に入れた。


「車椅子から降りろ、家の中では歩けるだろ」


「そうなのか!」


 俺の言葉に驚いていたのは風切だった。


「そうだよ。義足はファッションじゃない」


 俺はそう話しながら車椅子を畳み、哀歌の腕を引いて先程まで座っていたソファに座らせる。


「で、お前らは一体何をしにきたんだ?」


 俺はそう言いながらお菓子を探し、皿に盛り付ける。

 哀歌のは別皿を用意した。


「今日の朝の事・・・お礼と、いくつか引っかかってる部分を聞きたくて・・・」


「ふーん」


 風切の質問に俺はそう答えて皿をテーブルに置く。


「で、その質問ってのは?」


 俺がそう問うと、風切は俺の目をまっすぐ見つめながら口を開く。


「いじめられる側に原因はないってのは本当ですか?」


「・・・本当だ。でも、理由はある。理由はあるが、原因とは呼べない」


 そう話すと、風切は首を傾げた


「どう違うんですか?」


「・・・例えば、あの干してあるシャツ、柄が死ぬほどダサいだろ」


 そう言いながら隣人宅に干してあるシャツを指差す。


「あれはダサいという事実があるだけで、ダサいからいじめる、貶めていい理由にはならない。 それに、いじめられる側には少なくとも友達がいる。誰かが許容している時点で理由であれど原因にはならない」


 まだ・・・風切は首を傾げていた。


「・・・俺は説明が下手なんだよ・・・。シュレディンガーじゃないが、原因があるからいじめが起こるんじゃない。いじめが最初で、原因は後からついてくるんだ」


「なるほど・・・それを・・・分かりやすく説く為にはどうしたらいいんですか?」


 俺の言葉に、風切は真剣な表情で話す。


「・・・強化ガラス」


「はい?」


「俺たちは強化ガラスだ。どんな攻撃もどんな衝撃にも耐える、だが、万能じゃない。あることをすれば破壊できる」


 風切はこちらを見つめ、話をしっかりと頭に入れようと全てを聞くつもりだと、すぐにわかった。


「強化ガラスってのは面の攻撃には強い、ハンマーとか、ボウリングの球でも破壊できないらしい。でも、点の攻撃には弱いんだ。 釘を立て、少し叩けば崩れる。 じゃあ考えてみよう」


「はい・・・」


「強化ガラスの中に宝石があるとする、それを奪おうと強盗が破壊した。 だが強盗は「ガラスが脆い、宝石がある方が悪い」と話す。 強盗が入った原因は、宝石を展示していたやつか?」


 そう話すと、風切が首を振った。


「違う、強盗が悪いはずです」


「正解。強盗が入った理由は、宝石を奪いにきたから、でも、ガラスが壊れた原因はガラスが弱いからじゃなく、ガラスに対してそこそこの知識を持っている人間が破壊する道具を持ってきたことだ。 いじめる理由はあったんだろうが、それもいじめる側の気分だ。 普通の人間は、展示されてる物を盗もうとはしないからな」


 そう話すと、風切は頷いた。


「つまり、いじめをする側の人間が作り出す理由や原因は、する側のご都合的な意見でしかないんだよ。現に、いじめがしやすく、やり返されないとわかっている奴ばかりを中心に狙うしな」


「確かにそうですね・・・でも、本当に原因はないんですかね・・・」


 少し考え、悔しそうに言った風切を見ながら俺はお菓子を口に放り込む。


「完全にないわけじゃない、俺の知らない事象もあるだろう。だから、絶対じゃない。 でも、もし、いじめの対象にされる原因があるとするならば・・・『弱点を知られた事』だな」


 そう言って俺は水を飲み干す。


「もう準備しろ、帰る時間だろう。まだ1時間くらいしか経ってないけど、帰れ。俺はゲームがしたい」


「最後にいいですか!」


 俺がお菓子を食べながら立ち上がると、風切が同じように立ち上がり、声を上げた。


「なんでそんな事を思いつくんですか・・・」


「考える時間はたくさんあった。でもな、俺は説明が下手なんだ。例えだって的外れな事ばかりだ、だから、理解してくれる奴は少なかった。 考えろ、間違ってると思うなら正解が出るまで考えろ。出した正解が少しでも間違ってると思ったら計算しなおせ、誰かを助けるために考え、考え抜いて出した屁理屈は、小さな世界を救い、人を導くはずだ」


「小さな世界?」


「自分の周りの人間だよ。 身近な人間くらいは、助けたいだろ?」


 俺ははっきりと、小さな英雄にそう言った。

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