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3「秘める」

 静かなリビングで、俺は淡々と話す。

 話す・・・と言うより、溢れる言葉を止めなかっただけかもしれない。

 

「俺はおそらく、育児放棄(ネグレクト)の人間だ」


 そう話すと、場が静かになる。


 俺は拳を握り、ため息を漏らす。

 今まで誰にも言わなかった。

 言えなかったんじゃない、言わなかったのだ。

 俺だけはいつまでも母親を信じていたかった。


「なんで今まで言ってくれなかったの?」


 結喜(ゆき)はそう言った。

 

「話したら、何か変わったのか・・・?」


 俺が漏らしたその言葉に、結喜は眉を歪める。


 そうだ、変わらない。変われない。何も動かない。今までそうだったんだ・・・今更なにかが変わるわけがない。


「それでも、伝えておくくらいはできたはずだ」


 天見(あまみ)がそう話した。

 彼の瞳には静かな怒りが込められ、歯止めが効かなくなってしまう言葉を必死に堪えているようにも見えた。


「そうだな。でも、どうだ、天見。お前が羨ましがった自由は、俺が持つ自由は、生ゴミと異臭に塗れた糞みたいなものもだ。まだ欲しいか?」


 その言葉に、天見が苦しそうな顔をして、全身から力を抜いた。

 

 人間は、他人の痛みを理解できない。

 優秀とか、心理学に精通しているとか、そんなものは関係ない。


 宣言していい。

 断言していい、確定していい。


「人間は、他人の痛みを理解することは出来ない」


「それは・・・」


 俺の言葉に、柳牛(やぎゅう)が何かを話そうとして、やめた。


 他人の痛み。

 俺はこう思う・・・

 人は皆、生まれた時のステータスは同じだ。

 攻撃力や、防御力、持っているものもそうだろう。


 だが、生きていくうえで通った道、培った知識や経験が不可視の武器となり、防具となる。


 だが、ゲームとはまた違う部分もある。

 それが、ステータスの伸び率だ。

 

 そうだな・・・

 年齢を一つ重ねることを、わかりやすくレベルアップと呼ぼう。


 学年が上がり、知識がつき、生活が変わる。

 生活が変われば、またそれに順応するために経験を積み、知識をつける。


 だが、周囲の環境や、家族の環境で人間のステータスってのは、大きく変動する。

 同じ武器を持っていて、同じ防具を着ていても、体力が多い剣士と、体力が少ない魔術師が同じ攻撃を受けたら、危険なのは魔術師だろう。


 今の人間は、それの理解が出来ない。

 自分ができるから誰でもできる。

 誰かができるから自分もできる。

 

 でも、状況はいつも同じじゃない。

 似たような境遇でも、生まれてから死ぬまで同じ人生を歩む人間なんて存在しない。


 だから、人は皆わかりあえない。

 理解できない。

 なら、どうすれば人に寄り添えるか・・・

 それは簡単だ。


 今まで得た武器と防具を駆使して、状況を想像すること。

 理解は出来なくても、気持ちの予想は出来るんだ。

 そして、それを可能とする人間がいるとしたら・・・


 直後、柳牛と目があう。

 彼は何かを覚悟したかのように、深呼吸をして、俺を睨んだ。

 そうして、ゆっくりと口を開く。

 

「育児放棄とは、少し違う気がする。いや、俺はさ、そんなの経験したことないし、きっとこれからも経験しないと思う。でもさ、育児放棄ってなんかこう・・・なんか、なぁ?もっとひどい状態になると思うんだよ」


 柳牛は身振り手振りで何かを必死に伝えようと話す。

 俺は緩みそうな頬に力を入れ、平静を保つ。


「具体的には?」


「何だろう・・・俺はさ、勘違いで父親を、お互いに家族を信じられなくなってた。もうだめだ、意味ないって。でもさ、まだ鳴海(なるみ)は母さんを信じてるんだろ?その心を信じてあげられないかな?」


 柳牛が必死に絞り出した言葉は幻想で、稚拙だった。

 だが、それと同時に、目を瞑りたくなるほどの眩しい希望に溢れていた。


「世の中そんなうまくは出来てない」


 俺がそう話すと、彼は何かを考える。

 眉間に皺を寄せ、何かを生み出そうとしていた。

 そうして話し出す。


「俺から見たら、鳴海は普通だった。悩みなんてないぜって、いつも誰かを心配して、いつもグループの先頭に立ってた。何も知らないのに、まるで何でも知ってるような姿勢だったんだよ。きっと、一人の時間が多かったから、考える時間が沢山あったから、答えを知っているんだ。でも、本当に切羽詰まってたら出来ない・・・」


 そう話す柳牛の言葉は正しい。

 本当に崖っぷちに立つ人間は、考える暇もないのだろう。

 だが、それが、その意見が、お前は辛くないと言われているようで少しばかり腹が立った。


 だが、そんな心境に柳牛は気がついたのか、すぐに訂正をする。


「もちろん! もちろん、鳴海が辛くないって言ってるわけじゃない。でも、環境はあった。ギリギリじゃなかったのも事実だろ?見捨てたはずの母親は、どこかで何かをしながら鳴海の事を気にかけてたはずだ」


「見舞いに来なかったのに?」


「それは何か理由があったんじゃないのかな。戻れない理由が、そうじゃないと謝ったりしないはずだ」


 そう話すと柳牛の表情は真剣だった。


「どうだろうな。少しでも罪悪感をなくしたいのかも、それか、何かしらの嘘をついているか・・・」


 俺がそう話すと、柳牛は首を振る。


「それはないんじゃないかな。聞いた話だと、鳴海のお母さんはプライドが高そうだ。なら、嘘を吐かれるを嫌うはず。自分でも嘘を吐かないはずだ」


「ならどうして何も言わなかった?」


「言えなかった。言ったら鳴海の身に何か不幸があるのかもしれない。俺達には知り得ない不幸が。だから頻繁には顔を出せず、なかなか帰らない。帰ってもすぐに家を出てた?」


 柳牛にそう言われ、俺は少し考える。

 確かに、一週間はいた事がないかもしれない。


「すぐに家を出てた」


 俺の言葉に、天見が口を開いた。


「・・・一つの場所に留まれないんだ。何かしらの条件付きで家に帰れたのかも・・・それか」


 リビングが静まり返る。

 数年間、そんな生活をしていた。

 天見の止まった言葉に、俺は続きを待った。


「それか?」


「それか・・・何かしら目指してるものがあって、それには時間が必要なのかも」


 俺はその言葉に、首を傾げる。

 そうして、過去の思考に潜り込んだ。


 何か、何かあったはずだ。

 おかしなもの、帰ってきたときに母親がなにかしてたはずだ。


 あるはずだ。

 人間にはルーティンがある、絶対に・・・なにか。


 俺はそのまま、さらに深く、暗い闇に沈んだ。

こんにちは、こんばんは!鬼子です!

気がついたら累計PVが一万を突破していました!

ありがとうございます( ; ; )


皆様の中でも勘づいている方がいるかもしれませんが、この小説も終わりに近づいてきました。


え?もっと読みたい?

考えておきます。


この物語は、人間がもつ葛藤などを描きたいがために執筆しました。

ですが私の作品は、現実を見せたい作品なんです。

予定調和の幸せなどはありません。死んでほしくないキャラクターは死にますし、力量など関係ない作品なんです。


だから、この作品も読んでいて辛いシーンがあったと思います。

安心してください、私も辛いですよ!


この作品の人物たちの物語はまだ終わっていません。

今、終わりに向かっています。

どんな思いで、どんな結末を迎えるのか、是非楽しみにしていただけると嬉しいです。


感想など頂けると、今後の創作の糧になります。

是非、よろしくお願いいたします。


では、また!

鬼子でした(^^)

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