いきとかえりの通り道
「お帰りはこちらです。お楽しみいただけましたか?」
今日は文化祭、この教室ではお化け屋敷が行われていた。
順路から出口への帰り道、少年は最後の驚かせ役を努める。
「あと、こちらサービスのドリンクになります。いかがですか?」
順路を巡ってきた二人が飲みたいというと、少年は紙コップを差し出す。
「うわっ!なにこれ?」
「トマトとブラッドオレンジ、ストロベリージャムを混ぜてみました」
血液さながらにドロドロした液体の説明を、吸血鬼に扮した少年は説明する。
「うーし。初日はここまでにしよう。みんなお疲れー」
最後の最後で油断して、肝を冷やした二人組を見送ると実行委員の声がした。
それを合図に、皆が撤収準備に取り掛かる。
少年はクーラーボックスを開け、ドリンクの残量を確認した。
「ありゃ。ドリンク残り一杯か」
残りひとつのペットボトルを見て少年はつぶやき、左右を見る。
「余ったら捨てるって言っていたし、ここで飲んじゃおう」
最後だからか、どろりとした液体を少年は紙コップに注ぐと一気に飲む。
「あれ?息が――」
少年は膝から崩れ落ち、その場に倒れこんだ。
★
「あれ?ここは?僕は一体――」
少年が気がつき周囲を見渡すと真っ暗な部屋の中にいた。
「まったく……今回は大目に見てやろう。とっとと帰るがよい」
誰かの声が響くと後ろの扉が開き、光が差し込む。
その光に導かれ、少年は外に出る。
「うわっもう夜じゃん。暗いなあ」
街灯が照らす薄暗い道を少年は歩き始めた。
歩く。
歩く。
ただひたすらに、家を目指して道をたどる。
上る。
上る。
しっかりとした足取りで、傾斜のある道を。
出会う。
出会う。
すれ違う。
人が行く道帰り道、逢う人みんな青白い顔をしている。
☆
気がつくと少年は、自分の部屋のベッドの上で朝を迎えていた。
「文化祭二日目、気合い入れていくぞー!」
円陣を組み、実行委員とともに声を出して準備を開始する。
「ところでなんでこのお化け屋敷坂道なの?」
「黄泉平坂ってのをイメージしてるんだってさ」
えっちらおっちらクラスメイトが教室の順路に板を敷き詰めていく。
「ああそうだ。帰りの飲み物にこれをつけておいてくれるかい?」
実行委員は少年にスプーンストローを手渡す。
「せっかくだからちゃんと食べたいとか言われたん?」
「そ。ほらいうだろ?食べ物粗末にすると地獄に落ちるって」
食い物の恨みは恐ろしいからサボるなよ、と言って実行委員は暗幕を引く。
「そういえば昨日迷惑をかけちゃったね。ごめん」
「うん?何の話だい?」
昨日ドリンクを飲んで倒れた話をすると、実行委員の目が点になる。
「おいおい。昨日はちゃんと手伝って帰ったろ。怖い話はやめてくれよ」
少年が首をかしげたその隣で、姿見に映った吸血鬼の瞳が紅く光る。
電気とともに、その姿は闇に消えた。