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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛と炎に寄り添われて

作者: ヨダカ

私の知り合いに、光という人物がおりました。今死にかけている人物です。

こう、と読むのですが、これが大変な変人でして。

どう変なのかというと、炎を愛しているのです。それも異常な程に。

好きになったきっかけは覚えていないと本人は申しておりました。ただ、大分幼い頃から心を掴まれていた事は確かです。

私達が知り合ったのは高校生の頃でした。

その頃から彼は、炎に恋い焦がれていました。

彼はいつも教室の隅に隠れていましたが、私がそう感じただけでしょうか、不思議な魅力を持っていました。

彼の話は、どうも引き込まれるのです。

それに目にも。

私は性に関しては普通のはずなのですが、それでもまともに目も合わせられないほど、彼の目は澄んでいました。

何度か、彼の家に遊びに行ったことがあります。

その時は決まって、彼は火遊びをするのです。

勿論それを始めてみたときは、危ないぞ、と心配して注意しました。

危ないから面白いんじゃないか、と返されたときは心底驚きましたよ。こんな人間がこの世に存在するのか、とね。

彼の腕は火傷だらけでした。

夏なんかになると、それはそれは痛々しい火傷が見えました。

なぁ、そんなことをしていると、そのうち死んでしまうぞと言いました。

構わない、と。

一言で返されましたよ。

もう駄目だな、と分からされました。この世には、我々のような凡人には理解できない世界が少なからず存在するのです。

高校を卒業してからは、あまり会わなくなりました。

こいつと関わると、何か良くないことが起こる。私はそう確信していました。

私は非日常に怯えたのです。

それからは平穏な大学生活を送り、卒業。

社会人になりました。

それから何年も社会にいると、やがて疲れてきました。

社会は、私の想像以上に厳しかったのです。

荒波の中で、私は安らぎを求めました。

家族です。

中学生の頃、よく親が喧嘩をしているのを見ました。

こんな悲しいことをするくらいなら、家族なんていらないと思っておりましたが、今はそうは思いません。

孤独のほうが、よっぽど私にとっては耐え難いものでした。

家族が欲しい。

しかし社会人になった私に、最早行動する気力は残っていませんでした。

あ、と思い出しました。

彼の存在です。

家族も良いが、友達も同じくらい良いものだ。そう思ったのです。

私は早速彼の家に行ってみました。会社帰りのついでです。

その日は早く帰れたので、少し家を見てみようと思ったのです。

驚愕しました。

家が、真っ黒く焦げていたのです。

彼は庭で水をやっていました。

おい、と声をかけると、彼は気づいたようで微笑みました。

この家は一体どうしたんだと聞くと、躊躇いもなく彼は、燃やしたんだ、と言い放ちました。

私は絶望しました。

狂人だ。

捕まったか、と聞くと、捕まった。と言われました。

なんと酷い会話なのでしょう。

私は彼が心配になりました。

もう火は辞めたのかと聞くと、そんなわけあるか、と言われました。

私は諦めました。

精神病棟に入れたほうが良いのではないか、と思いました。

彼の火好きは増々勢いを増し、周りに危害を加えるほどに成長していたのです。

もうやめないか、その火遊びを。

何故だ。

君にとっては良いかもしれないが、他人に迷惑をかけちゃいかんだろう。

確かにそうだ。そうであることは間違いないのだが、それでも辞められないんだ。

そもそもなんでそんなに火が好きなんだ。

それはわからない。いつの間にか好きになっていた。

私はそこで決心しました。

この男をなんとかせねば。

私は、彼のことが哀れに思えたのです。

先ずは精神科の先生に連絡しなければ、と思っていると、彼はそうだ、と言いました。

俺の家に入ってくれ。見せたいものがあるのだ。

何だ、と思いながら、彼の家に入りました。

中は予想に反し荒れておらず、ものが整理されていました。

何を見せる気だと聞くと、焦るな、今から準備をする。

そう言われました。

何故か彼の顔は上気していました。興奮しているようでした。

彼は玄関の扉に鍵をかけ、カーテンを閉めました。

薄暗い家の中で、カタカタと音がなっていました。

次の瞬間、バッと家に明かりが灯りました。

一瞬何が起こったのかわかりませんでしたが、気が付きました。

彼は、自分の身体に火を付けたのです。

ガソリンの匂いがしました。

炎は瞬く間に彼の身体中を舐め尽くし、彼は部屋を踊り狂うのです。

私は何も考えられませんでした。

白昼夢のようなこの絶望から逃げ出さねば。私の気が狂ってしまう。

私は半狂乱で、何かをしました。


気付いたときには、私達は風呂場におりました。

私は彼をこれ以上ダメージを負わないよう、大事に抱え込んでおりました。

シャワーをかけたのだ。

彼はニタニタと笑いながら、真っ黒な顔で私を見つめていました。

彼は何かを喋ろうとしていましたが、喋れないようでした。

今、救急車を呼ぶからな。

私は急いで携帯電話を取り出し、連絡しました。


それから長い時間が経ったように思われます。

私は病院の椅子に座っていました。

医者は私に駆け寄ってきました。

意識はありますが、もう無理かも知れません。

そう言われました。

あと、貴方に伝えてくれとこう言われました。

俺は幸せだ。と。

私は呆気にとられました。

幸せ。

確かに、よく考えてみればそうかもしれない。

生涯を貫いて愛した女を、抱きながら死にゆくのだ。

少し、羨ましいかもしれない。

私は立ち上がりました。

あいつが死ぬ前に、言っておきたい言葉があったのです。

私は病室へ駆け出しました。


…そこから先は言えません。話した言葉も言えません。少し、恥ずかしいので。

彼?彼は幸せそうに微笑んでいましたよ。

余りの痛みに頭がおかしくなったのではと恐ろしくなりましたが、そういった感じの微笑みではないのです。

やっと一つになれた、と彼は言いました。

迷惑な話です。

何故私にわざわざ見せたんだ、と少し怒りながら言いますと、誰かにこの愛を見せたかったんだ、と言われましてね。

…見たくありませんでしたよ、正直。

生きる気力も、なんだか朧気になりましたよ。一瞬ね。

あの顔が脳に張り付くんです。真っ黒い顔が。

思い出すたびに、鼓動が少し早まる。

ただね。

私も愛する人を見つけたい。

これは強く思いましたよ。

…もしかしたら、私も彼と同じく狂人なのかも知れませんね。こんなことを思うなんて。

だって、孤独死なんかよりも安らかに、嬉しげに彼は死ぬんです。


愛と炎に寄り添われて。






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