銀貨5枚ってとこね
「さて、ブラックゴブリンから素材も取れたことだし、さっさと確認しましょう」
「おう」
マオは手早くブラックゴブリンの素材を確認し始めた。
しばらくすると、マオは大きなため息をつく。
「今回は空振りっぽいわね」
「目的のブラックゴブリンの棍棒はなかったのか」
「ええ。出るまで狩るしかないわ」
俺は考えるだけでため息をつきたくなるような道のりに頭を抱えた。
マオはその他の素材を確認し終わると、こう言った。
「今回の討伐で取れた素材は街で売りましょう。そこそこの値段にはなると思うから」
「いくらになりそうなんだ?」
「銀貨5枚ってとこよ」
俺はその言葉を聞いて落胆した。
命がけの討伐だったのに、割りにあわない。
昔はもっと効率良く素材を集めて、稼げたのになあ。
「たったふたりでブラックゴブリンを倒したのよ。それに命あっての物種なんだから!」
マオは俺の背をバンバンと叩いて、喝を入れる。
「さっさと街へ戻るわよ」
※ ※ ※
工芸の街オーウェル。
俺たちが今拠点として利用している街だ。
オーウェルは国の中心部に位置し、ハンターたちに人気の街だ。
俺はオーウェルに入った途端、いやな空気を感じ取った。
マオも同様に感じ取ったようだ。
「なんか街の人、みんなピリピリしてない? 何かあったのかしら」
俺たちは足早に素材屋へ向かった。
コンコン
マオが慣れた様子で、ドアを叩く。
「いらっしゃい。おお、アインとマオ嬢じゃないか」
人の良さそうな青年が俺たちを出迎えた。
「今日は何を持ってきてくれたんだい?」
「この袋に入っているわ」
青年は丁寧に袋を受け取ると、素材を鑑定し始める。
「どう? この素材を集めるのけっこう苦労したのよ」
マオは青年に圧をかけ始めた。
「おお、マオ嬢。そんな圧かけないでくれ……。うーん、銀貨4枚」
「ええ、店主信じらんない! これは銀貨6枚はいいところよ」
さっき銀貨5枚と言っていなかっただろうか?
マオは少しでも高く買わせようとしているらしい。
人の良さそうに見える店主もただでは負けない。
この店主とマオの価格交渉は、しばらく続きそうだ。
俺はメモを残して、店を後にする。
俺は素材屋を出ると、とある一角に街の人達が集まっているのを見つけた。
あそこは掲示板がある場所だ。
何か新しい情報が集まったのか?
俺は情報を確認しに掲示板へ向かった。
すると、掲示板の情報を見ていた街の人の噂話が聞こえてきた。
「なあ、聞いたかい。魔王軍が北の壁に進軍してきているようだ」
「勇者の魔王討伐はどうなったんだ?」
「どうも失敗したんじゃないかって噂だぞ」
「あの勇者様、どうも弱っちそうだったからな」
その言葉を聞いた瞬間、俺は頭が真っ白になる。
違う、あいつは強い奴なんだ。
そう伝えようとしても、口から言葉が出てこない。
「俺ら、どうなっちまうんだ」
街の人達が不安を隠しきれない様子に俺は居たたまれなくなり、その場を立ち去った。
俺は噂話から逃げるように走って、宿屋の部屋に戻るとベッドにダイブした。
慣れないパーティーでの戦闘と噂話に疲れていたのだろう。
瞼が重たくなってきて、だんだん意識が薄れていく。
俺は睡魔に勝てず、そのまま眠りについた。
「アイン」
誰かが俺を呼んだ気がする。
俺は思わず名前を呼んだ方に振り返ると、懐かしい場面が広がっていた。
これは俺の故郷の村だ。