episode.3 通信傍受
「あいつらは思っちゃいないだろうな、秘匿回線だと思って使っている回線が、簡単に傍受されているとは」
俺達四人は、部長にKdSの作戦室に呼び出されていた。
「隠しているつもりは無かったが、言う機会もなかったからな」
テオドールは、やや申し訳なさそうな顔をして言った。
「しかしCIR内部にも我々の協力者を送り込んでいるあたり俺達のボスは、策士だな」
普段あまり笑わないイグナーツもニンマリとして上機嫌そうだ。
よほど、俺達に傍受されているとは知らずに秘匿回線で重要機密事項を話し合っている彼らが面白いらしい。
油断しきっている隙を狙い撃つことが職務であるスナイパーを務めることが多い彼らしいといえばそうだ。
『同胞諸君、過日の襲撃、ご苦労だった』
男性とも女性とも判別し難い声が言った。
『いえ、我々は我々の責務を全うしたまでです』
『だが……国会議事堂襲撃は、未達成だったそうじゃないか』
口調は穏やかそのものだが、やはり冷たい声だからこそ感じる恐ろしさのようなものを内包している。
『それについては面目次第もございません』
テオドールは、全てやり取りを端末に打ち込んで記録している。
『まぁいい。だが私は、このことを懸念している。相手を過小評価するのは良くない。なぜ襲撃が失敗したのかを話せ』
自分たちの仕事が、これほどまでに相手に影響を与えているのかと思うとこちらも愉快だ。
それで自分の首を後々締め付けることになるのは承知しているが。
『はい、どこで情報を得ていたかは分からないのですが、国会議事堂には憲法擁護庁の特殊部隊が展開しており、派遣した部隊が壊滅させられました』
情報漏洩の可能性があるという状況を作り出したことによって、ネオナチ連中は疑心暗鬼に陥り少なからず今後の活動に影響が出るだろうな。
『そうか、つまりは憲法擁護庁を叩けば我々の行動を邪魔する者はいなくなる、ということだな?』
そう期待したが、どうやら話は簡単にはいかないらしい。
『そうすれば私達は幾分、活動が行いやすくなるでしょう』
『ならば、すぐにでも目障りな連中を消してしまえ。GSG-9を投入すれば、勝つことも容易だろう』
やはり、あのヘリは行方不明になったGSG隊員を乗せていたのか……。
『しかしあれらは『Unsichtbar』の身辺を守る役割も果たしているのですぞ!』
『Unsichtbar』を守る存在、ということは捕まえて尋問すれば、『Unsichtbar』の正体にたどり着けるのだろうか……。
『私の安全は心配しなくても構わない。それに数で言えば十数名は、いるのだろう?KdSは、少数と聞いている。まさか負けるはずもあるまいて』
確かに消えたGSGの隊員が全てを相手どらなければならない状況下において俺達は劣勢に立たせされる。
それどころか、装備と練度、場所によっては簡単に殺られかねない。
『わかりました。『Unsichtbar』の命令一つで、行動可能なよう待機させておきます』
『よろしい』
この傍受した回線では、『Unsichtbar』という呼び名で呼ばれている謎の存在。
顔も性別も声も思考も何もかもが分からないにも関わらず、国家を転覆させるほどの力を持つドイツ連邦最大の脅威。
「今夜にも襲撃を受けるかもしれんな」
フロレンツが溜め息混じりに言うと、テオドールは静かに椅子から立ち上がると
「俺は、長官と今後の対応について話し合ってくる。お前達は、この庁舎を要塞化しろ。戦場になるかもしれん」
おそらく襲撃されるのは俺達KdSの待機している連邦憲法擁護庁の本庁舎だ。
相手にとって人数有利なのであれば、俺達には屋内以外での戦闘の勝ち目がない。
よって庁舎内での戦闘以外に選択肢がないのだ。
「フロレンツ、ヘルミーナと協力して、建物の見取り図を確認して防火扉と最適な防御地点を考えろ」
「了解!」
俺は、早速部下と共に行動を開始することにした。
「イグナーツ、お前は俺と一緒に武器庫に行って可能な限りのランチャーと狙撃銃を集めにいくぞ」
「言われなくても」
その日は、そこから忙しかった。
テオドール部長が、長官と交渉して庁舎を使用しての戦闘を可能としたことで、午後からは職員の退去が始まった。
二千名近い職員の退去は、避難という形をとると時間がかかるために帰宅という形をとった。
そして有志の職員を募って、フロレンツとヘルミーナに検討させた敵の侵入経路に沿ってバリケード代わりの障害物を設置。
無論、屋上には対空火器を置いておき上空からの侵入への対策も可能とした。
あとは、俺達が防火用の隔壁と障害物とトラップをどれだけ上手く使って戦闘ができるかだ。