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魔術塔の魔術師

ゲームしてて暫く投稿出来ませんでした。

 私は自室で机に突っ伏し唸っていた。 

 何故唸っていたかというと、王宮を出て行く事を決めたものの私の見た目が自分で言うのも何だが美少女の為に目立つからだ。仮に出て行くことに成功しても直ぐに見付かって連れ戻される可能性が有る。その為王宮を脱出出来たとしても直ぐに自分の姿を変える必要がある。それは魔術さえ使えれば姿を変える事など造作もないことだが魔力のないシェリルには大問題だった。


 私は机に突っ伏したまま子供の様に足を机の下でブラブラしながら呟いた。


「あぁ、カメレオンの薬さえあれば何とかなるんだけど…」 

  

 カメレオンの薬は魔術薬だ。魔術が使えなくても飲めば姿を変えることが出来る為に、シェリルでも魔術を使用した様に姿を変える事が出来る薬屋でも買える市販薬だ。だが薬の効能上、犯罪等に使用される可能性もある為に購入の際に身分証明を求められる場合もある。その為、王宮の魔術塔にもカメレオンの薬は有るが熱冷ましの薬等と違い何に使用するのか怪しまれる危険が有り魔術塔の薬剤室から貰うのは躊躇われた。


 シェリルは考えれば考える程行き詰まって胃がキリキリ痛んだ。朝からズキズキと痛む頭で気が遠くなりそうな気がするが冷たい机に頬をくっつけると冷やりとして気持ちがいい。


「どうしたらいいかしらねぇ…」


 クロードと会ってからもう3日も経っている。お茶会の翌日はお父様に呼び出されて、クロードとはどうだったか根掘り葉掘り聞かれてクロードとの話しを進めたいのがありありと見えた。話しを適当に誤魔化そうとしたけど何度も同じ事は出来ないだろう。


(何だか凄く疲れたわ…)


 私は重たい瞼を閉じるといつの間にか静かな寝息を立てていた。そして私以外誰もいない部屋だった為に翌日まで誰も私が熱があった事に気付かなかった。




 ゆっくりと目を開くと起きたばかりではっきりとしない頭で私は天井を見つめていた。私はいつベッドに入ったのだろう?記憶がない。起き上がってみるとちゃんと寝間着も着ていたが着替えた記憶も全くない。私はルームシューズを履くといつもはエマが開けてくれるカーテンを自分で開けに行った。

 

 どれくらい経っただろうか窓から外を見ていると静かに部屋のドアが開いた。するとパタパタと足音を立てて急ぎ足で私に近付いて来る女性がいた。


「シェリル様目を覚まされたのですね。良かったです」


 侍女のエマだ。

 エマは両手に水桶とタオルを持って早口に喋ると私の顔色を確認する様に私を見た。どうやら私は結構な時間寝ていたらしい。


「私が見つけた時には熱を出されていて、机の側に倒れていたのですよ。2日も目を覚まさなくて心配致しました」

「それは心配をかけてごめんなさい」


 エマの話しを聞くと私はカメレオンの薬のことを考えていてそのまま熱を出して2日も眠っていたらしい。小さい頃はよく熱を出して寝込んでいたが、今ではそんなこともなくたまに風邪を引いても薬を飲めば次の日にはケロリとしていたので余程心配したのだろう。そう思うと申し訳ない。

 

「元気になって頂ければそれだけで充分です。これも薬剤室のキース先生のお陰ですね」

「キースが来てくれたの?」

「はい、キース先生にお越し頂きました」 


 魔術塔の薬剤室に務めるキース・ブランシュは22歳で王宮魔術塔の薬剤室に入り1年で薬剤室の責任者になった天才と言われる男だ。ただし薬剤室から滅多に出て来ない変わり者との噂もあり私も会ったことはない。尤も私が風邪を引いてもエマが薬を貰って来てくれるので、私が薬剤室に行かないので会った事がないのも当たり前とも言える。だが今回は薬剤室の責任者とも成れば忙しいだろうにわざわざ私の為に来てもらったのだから申し訳ない。


「それはキースに迷惑をかけたしお礼に行かなきゃないわね」


 エマは私の言葉に頷くと目覚めたばかりなので今日は安静にする様私に話し、キースの元に行くのは明日にしてほしいと私に話した。私はエマの言葉に頷くともう一度ベッドに潜りこんだ。





 王宮と魔術塔はさほど遠い距離にはなく歩いて数分の距離にあった。また魔術塔は王宮図書館と同じ様に城壁内にあっても、人の往来が少なくそこに行くまでの道は華やかさに欠けている。

 仕事の邪魔にならない様に日も沈み掛けた業務時間外でにバスケットを持って魔術塔への道を歩いていた。


 魔術塔に着くと私は真っ直ぐに薬剤室に向かった。そして薬剤室の扉を開け中に人の姿が見えないのを確認すると入り口の側に置いてあるハンドベルを振ってをチリンチリンと2回鳴らした。すると薬棚の奥からバタバタと足音がして魔術師のローブを纏った濃紺色の髪をボサボサにした男が現れた。しかもその前髪は目が隠れる程に長い。


「業務時間外にごめんなさい。室長のキース先生はいるかしら?」


 男は薬棚と患者を分ける受付け用のカウンター越しに私の言葉を聞くとその表情は見えないが僅かに首を捻り遠慮がちに答えた。


「キースは俺ですが、お姫様が何故こんな所まで?」

「え、貴方がキースだったの?」

「まぁ、この格好でいるとよく言われますが」


 私は目の前の頭をボサボにした男がキースだとは思わなかった為に目を丸くして驚いた。


「気を悪くしたらごめんなさい。悪気があったわけじゃないの」

「別に気にしてないですよ。魔術塔薬剤室の室長となるとどうも世間ではお堅いイメージらしく俺を初めて見た人は皆驚くので。それで病み上がりのお姫様は今日はどの様なご要件で?」


 キースは頭を掻きながら面倒臭そうに答えると欠伸をした。私はそんなキースのやる気のなさそうな態度に顔が引きつりそうになったけれども、社交界で身に付けた笑顔の仮面を貼り付けて平静を装ったわ。こんな人でも私の病状を診てくれた先生には違いないんだもの一応失礼な態度はなしだ。

 

「あぁ、ごめんなさい。今日は先日私の様子を診に来てくれたみたいだからお礼を言いに来たの」 

「わざわざ義理堅い事で。別に仕事だから気にしなくていいんですが」

「そうは言っても忙しいだろうに私の所まで出向いて貰って迷惑だったと思うから口に合うか分からないけれど良かったらお礼にどうぞ」


 シェリルは自分の胸の高さ迄有るカウンターにバスケットを置くとキースに押しつけた。するとキースはバスケットの上に埃が被らない様に掛けてある布を遠慮なく捲った。

 

「チョコレート菓子ですか昨日から寝てないので疲れていたから有難うございます。わざわざお姫様がこんな所まで来てくれたのにこのまま帰すのも申し訳ないのでお茶でも飲んで行って下さい」

「けど疲れているんじゃないの?」

「構いませんよ。魔術薬の研究をしていると徹夜なんて常日頃ですので。そちらに座っていて下さい」 

「それじゃあ1杯だけ頂くわ」

 

 正直意外だった。

 バスケットに掛けてある布を捲ったキースは長い前髪でその表情は分かり難いけれど、明らかに機嫌が良くなっていた。例えるならキースの周りに可愛らしいお花が咲いた様な雰囲気だ。しかもバスケットを両手で嬉しそうに抱えるキースは先程迄の怠そうな様子は全くなく素晴らしい変わり身だ。その上私にお茶まで淹れてくれるらしく、私が一応遠慮をしても誘ってくる程にお菓子が嬉しかったらしい。


「そうだ。あぁ、折角だからこのお菓子を頂きますか。それと薬に魔力を付与すると疲れるんですよね。と言ってもそれが私の仕事なので疲れるなんて言ってられませんが」 

「そうなの?私は魔力がないから魔力を使用すると体にどんな影響があるか分からなくて」


 キースは部屋の奥からポットに熱いお湯を容れたティーセットを持って来ると、私が座っている椅子のある先程指差した入り口の横にある応接用のテーブルの上に置いた。そしてテーブルの中央に布を取っただけのバスケットを置いて私の質問に答え始めたがその手は手際良くお茶を淹れている。


「簡単に説明すると風邪の引き始めの様に最初は体が重いくらいから始まり魔力が枯渇すると意識がなくなる場合もあります。最も初級魔術の使用くらいでは変化はありませんが」

「それは魔術を使うのも大変なのね。私には縁のない話しだけれど」

「そうですが慣れれば幾分かはマシになりますよ。それに幾ら魔力があっても魔法陣がなければ魔力持ちでも魔力なしと変わりません」


 私がバスケットの中のチョコサンドに手を伸ばすとキースはコースターに乗ったティーカップを私に差し出した。それに角砂糖を1つ入れて口に運ぶと仄かな甘みのあるお茶の温かさにホッとする。そして普段は誰ともする事の無い会話への興味から目を輝かせた。


「それはどういう事?私は魔力なしだから魔力の授業自体が殆どないから良かったら教えてくれる」

「そうですね。まず魔力とは魔法陣を媒介にして使用するエネルギーです。そして実際に存在する物を変化させるよりも無から有を生み出す方が難しいです。そしてそれを行使する為の道具が魔法陣です」


 キースは自分の目の前にあるティーカップにミルクを淹れて簡単に説明してくれた。それにしてもキースは紅茶に砂糖を入れ過ぎではないだろうか。ミルクの他に角砂糖を3つ入れている。


「道具?」

「俺の場合だとこの指輪がそうですが指輪の内側に魔法陣が刻まれています」

「!!こんな小さな指輪に魔法陣が掘られているの」


 キースが私に見える様に右手を上げて指輪を嵌めている中指を私に見せると私は驚いて声を上げた。するとキースは声を上げて笑った。私はキースは前髪が長くて暗いイメージで声を上げて笑うなんて想像してなかった為に一瞬呆気に取られたが、我に返ると笑われて何だか恥ずかしくなりキースを睨んだ。そしてキースは一頻り笑うと私を見て涙の滲んだ目を指で拭いクツクツと我慢する様に小さな声で笑った。失礼な人だ。


「………すみません。こんな小さな指輪に精密な魔法陣を掘るという発想は俺にはなかったので。普通は羊皮紙に描いた魔法陣を魔術で縮小してアイテムに転写するんですよ。そうする事で常に魔法陣を持つ事が出来て魔術を使えるんです。なので道具と言っても差し支えないか思います」

「あまり笑わないでくれる。いくら知らなかった事とは言えそんなに笑われると私も恥ずかしいのよ」


 シェリルが恥ずかしさで赤くなった頬を両手で押さえるとキースは声には出さないまでもまだ可笑しそうに口角を上げて話した。それに頬を赤くした少女が睨んだところで全く迫力はない。


「お姫様が予想外に愉快な方で虚を突かれたもので」

「私が無知なだけかもしれないけれど授業でも習わなかったことだもの」

「普通は自分で魔法陣の転写なんてしないで市販の転写済みアイテムを購入するのでこの辺のことなんて考えもしませんよ。けど俺の場合は魔術薬と魔術式の研究の為に王宮薬剤室に入ったのでこれくらいは自分で行います」

「つまりキースはプロなのね」

 

 キースはシェリルの言葉を聞くと虚を突かれた様にティーカップを持つ手を止めたが直ぐに口元にニヤリと笑みを浮かべ紅茶を口に含んでカップをテーブルに置いた。見た目は浮浪者の様だがどうやらキースはなかなかの自信家らしい。


「俺は魔術薬と魔術式にしか興味がないだけなんですが、普段小煩い貴族にあれこれ言われているんでそう言われるのも悪くないですね」

「キース程の人に何か言う人がいるの?」

「魔術師として討伐や戦の補助に行かないで薬剤室に籠もっていると色々と言う貴族がそれなりにいるんですよ?最もそんな事をしなきゃないならいつでも俺は薬剤室を出て行きますが」

「………キースは普通の魔術師とは違うみたいね」


 魔術塔の魔術師は研究だけではなく魔物の討伐や戦の際に戦闘に参加させられる事がある。仮に直接参加しなくても回復要員として徴集される事がある。それは謂わば強制とも言えるレベルの話しであり通常では断るなど有り得ない。その為それを断るという事は魔術塔での自分の立場を危うくする。それを理解して断っているならこの男はどれだけ豪胆な神経をしているのだろうか。けれどそれ故にシェリルの興味を強く引いた。


(キースなら大丈夫かもしれない)


「それはどうも。けど褒めているんですよね?」

「勿論褒めているのよ。それで今日初めて会ったばかりだけど、お話しをしてみてキースに質問したい事が出来たのだけどいいかしら?」

「俺で答えられることならいいですよ」 

「キースはもしも魔力なしが国王になったらどう思う?」

 

 私は出来るだけ早く王宮を出るつもりだった。そうなるとチャンスは今しかないかもしれないと思い早鐘を打つ心臓を落ち着ける様に意識してゆっくりと話した。


「別に誰が王様になろうと俺の研究の邪魔さえしなければ興味ないので構いません」

「例えばそれが私だとしても?」 

「つまり今の話しはお姫様が王様になりたいということですか」

「端的に話すとそうなのだけどどうかしら?」

「俺の回答は変わりません。俺の邪魔さえしなければ誰でもいいです」


 キースはクッキーを食べながら興味なさそうに私に返事をすると欠伸をした。そういえば徹夜明けって話しをしていたわね。私はそんなキースに世間話しをする様な気さくさな笑顔を向けた。


「それじゃあ質問を変えるわ。簡単に言うと私の味方になってくれない」

「は?」 

 

 虚を突かれたのかキースの手から食べ掛けのクッキーがポロリと落ちた。けれど私はそんなキースにはお構いなしで喋り続けた。


「私が王位に着く事を良く思わない人が多いのよ。だからキースに味方になってほしいのよ」

「何で俺が?」 

「だってキースは誰が王位に着いても構わないんでしょう?それに私に敵意はないし、頭もいい」

「だからって何で俺がお姫様の味方にならなきゃないんだ」

「それはキースは役に立ちそうだし」

「ふざけるな。何でそれで俺があんたの味方にならなきゃないんだ。大体それで俺に何のメリットが有る」 


 自分の都合も関係なしに話すシェリルにキースは前髪で隠れていても間違いなく不機嫌な表情を作ると声を荒らげた。魔術塔の爪弾き者の自分にお礼とはいえ会いに来るとは少々変わったお姫様だと思ってはいたが予想の斜め上過ぎる。

 

 シェリルは声を荒げるキースを気にすることもなく何かを考える様に暫し右上を見るとキースに向き直った。そして両手を広げると快活に話した。


「メリットね。それじゃあ私が王位に着いたらキースが魔術薬の研究を誰にも邪魔されない様に魔術薬と魔術式の研究所を魔術塔とは別に作るのはどうかしら?」

「それはつまり俺が戦場に呼ばれることはないということですか?」

「そういう事になるわね」


 あくまでもマイペースに答えるシェリルにキースは嘆息すると疲れた様に声を上げた。


「それは非常に魅力的だが今のお姫様に王様になれるだけの器があるか判断しかねます」

「それじゃあ今の話しは保留でいいわ。けど覚えていて私はキースに味方になってほしいの」


 目の前のお姫様は自分が何を言っても無駄だと分かるとキースは諦めた。ただ下手をすれば魔術塔を追われるだけではなく自分の命にも関わってくる為にすぐに返事は出来なかった。しかしキースは同時に今まで見たことも聞いたことない王族だと思った為、ほんの少し協力してみたいとも気もした。


「分かりました。覚えていましょう。それともうこんな時間で帰らならなくて大丈夫ですか?」 

「あらそうね?帰りが遅くなるとエマが心配するわ」

「お姫様少々待って下さい」 


 キースはシェリルと話して昨日からの睡眠不足の眠気が一気に襲ってきたのか大きな欠伸をすると壁掛け時計を確認しシェリルに魔術塔からの帰宅を促した。そして薬棚の奥からローブを一着持って来るとシェリルに渡した。


「これは?」

「魔術塔の見習い魔術師用のローブです。この時間ですと外も寒くなってきますし、また倒れられても困るので」

「有難う。早めに返しに来るわね」

「それは結構ですよ。何故か薬剤室に来た新しい魔術師は皆直ぐに辞めてしまうんですよね。なのでいつもローブが余っているんです」

「あぁ、そうなの。取り敢えず考えて置いてね」


 両手を困った様に広げてみせるキースにシェリルは苦笑すると、キースの魔術への情熱に着いてこれず皆辞めてしまうのかもしれないと思ったがそれは言わずに有り難くローブを受け取ると魔術塔を後にした。

次回やっと王宮を出る予定。

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