魔力のない王女
読み辛いので修正しました。
そして自分で言うのもなんですがここはあまり面白くないです。
だって朝の日常会話だし。
私は夢を見ていた。
四角い部屋には真っ白な壁紙、その部屋にあるのはベッドが1台と部屋の中央に机が1台、それと机の前に椅子が1脚あるだけ。
部屋の奥にある窓は閉められたままだがレースのカーテンが開けられたそこから外を眺めている少女が1人。腰まである真っ直ぐな銀髪に、青いワンピースから覗く手足は華奢で折れてしまいそうな程に細かった。
彼女は私がいる後ろを振り返って私を見た。 振り返った彼女はマリンブルーの瞳に赤々とした唇、そして生気を感じさせない青白い顔色の人形の様だ。
そして私はやっとそこに自分がいないことに気付いた。何故なら私は自分の体がそこにあることを認識出来なかったからだ。けれど間違いないなく彼女は私を見たと分かっていた。そしてお互いを認識すると彼女は口を動かした。
『待っているわ』
声は聞こえなかった。だが彼女の口の動きがそう言っているのを直ぐに私は理解した。
(待っているって何を?)
彼女なんて知らない。彼女に確認したかったがそこに体のない私の声は出ることはなく、夢の中の私の意識は深淵に落ちてゆく様に遠くなっていった。
* * * * *
「……か……でんか…王女殿下!!」
「は、はい!!!!」
シェリルは自分を呼ぶ大声に身体をビクリと振るわせると反射的に返事をしてソファーから立ち上がった。そして起立した姿勢のまま周りをキョロキョロと見回した。
「やっと起きてくださいましたか。王女殿下」
呆れた声がする方を見ると見知った顔があった。そして私はそこでやっと自分が今いる場所を思い出した。王宮騎士団団長ダリル・バートンの執務室である。私はそれに気付くと気が抜けた様にふらふらとまたソファーに座りこんだ。
「あら?ダリルだったのね」
「あら?じゃありません。何故王女殿下はここにいらっしゃるのでしょうか?ここは私の執務室でございます」
ダリルはそんな私を見ると私の前で仁王立ちになり腕を組んで顔に青筋を立てて見下ろしている。最もそれも当たり前の話である。私はダリルが執務室にいない間に勝手に部屋に入り込みソファーで眠りこけていたのである。だが幼い頃からダリルの後ろをついて歩いていた私にはダリルが本気で怒っていないのがバレバレである。
「ごめんなさいダリル。夜遅くまで本を読んでいたせいで寝不足だったみたい」
「また夜遅くまで読書をしていたんですか。ですがそれでは私の執務室にいらっしゃる理由にはなりません」
「えぇと、それは………。実は今日お父様に呼ばれているお茶会が嫌でダリルに話しを聞いて欲しくて……」
有無を言わさぬダリルの口調にシェリルはしどろもどろになると小さな声で話した。ダリルは歯切れの悪いシェリルの話し方に嘆息するとシェリルの視線に合わせる様に屈んだ。
「それはいつもの王女殿下に婚約を勧める為の茶会でしょうか?」
「ここ最近はそうじゃないお茶会はないわ」
「そうですか。私は王女殿下がご結婚を望んでいない事を存じていますがそれは理由になりません」
「それは私が魔力がないから?」
ダリルは話すべきか逡巡した。
確かにアリステリア王国は魔力がない者が王として立つことを認めていない。その為、魔力のない王子や王女は魔力の強い伴侶を求められる。そして王の子が魔力のない王子や王女1人の場合は、その伴侶が王となり王子や王女は王となった自分の伴侶を支える事が求められる。
けれどそれは今に始まったことではない。その為それを覆すとなればどれだけの苦難が待っているか分からない。それを王宮で何不自由なく育ったシェリルに出来るのだろうか?しかも幼い頃から自分に懐いてくれているシェリルはダリルには娘の様な存在の為苦労をさせたくないという気持ちもあった。
「どうしたのダリス?」
何かを考える様なダリルの様子にシェリルは怪訝な顔をするとダリルの顔を覗き込んだ。ダリルはそんなシェリルに嘆息すると話し始めた。
「すみません。ちょっと考え事をしていて。私が心配をしているのは魔力がないからだけではございません。前例がない事を変えると言う事はどれだけ大変な事か王女殿下がお分かりか心配しているのです」
「保守派は抵抗するでしょうね。保守派の中には魔力なしを毛嫌いしている者もいるし。けど幼い頃から王族として恥じない様に努力してきたけど、それを認めて貰えないのは嫌なのよ」
ダリルは自分を真っ直ぐに見つめてくる少女に昔はこんな目をしていたかと思いを巡らせた。自分の後をついて来て、転んでは直ぐに泣いてダリルが頭を撫でて慰めていた少女だ。それがいつの間にか自分が思っていたよりも自分の意見を言える王女として成長していた様だ。
だがダリルから不安は消えない。それはシェリルの幼い頃を知っている故かは分からないけれど、数多の要人の警護を経験したダリルの直感がシェリルはどこか不安定だと伝えている。
「そうです。王女殿下が王位を求めれば過激派の中には王女殿下に危害を加える者も現れるかもしれません。中には王女殿下が魔力がないことをいい事にそこをついて来る者も現れるかもしれません。その時王女殿下はどの様に対処されますか?」
「それは…今は分からないけどなんとかするわ」
言い淀むシェリルに嘆息するとダリルはシェリルの肩を掴み言い聞かせる様に話した。
「それならば王女殿下はもっと味方をお作り下さい。それがきっと王女殿下の力になります。私が今言えるのはこれだけです」
「分かったわ。ダリルはいつも最後は私の味方をしてくれるのね。有難う」
立場上堂々とシェリルの味方が出来なくても自分を思うダリルの言葉に嬉しくなるとシェリルは花の様にふわりと微笑んだ。
ダリルの言う事は正しい。魔力なしでも国王の娘というだけで恭しく接している貴族も腹の中では何を考えているか分からない。しかも私が王位を狙っているとなれば、私と自分の息子を結婚させて王族の身内になる計画も無駄になる。そうなれば私など保身派には目障りでしかないだろう。その時に私を助けてくれるのはダリルの言う私の味方だ。
「私はいつも王女殿下の味方ですよ」
(けれど王女殿下が結婚しようがしまいが苦しめる者が現れたら、その時は私が始末するしかないな)
「ダリルならそう言ってくれると思っていたわ。お陰でちょっと元気が出たし」
優しく微笑むダリルに「フフ」と小さく声を上げてシェリルは笑うと立ち上がった。そしてダリルもそれに合わせる様に立ち上がった。
「ところで王女殿下。本日は午前中の授業はないのですか?」
「あっ…まずいわダリル。もう先生を30分も待たせている」
シェリルは思い出した様に言うダリルの言葉に午前中の授業の事を思い出すと執務室内の壁掛け時計を確認して青褪めた。
私が思っていたよりも私はソファーで長時間眠っていたらしい。今頃、時間になっても現れない私に外国語の先生は怒り心頭であろう。
「それでは急いで授業に戻らないと行けませんね。王女殿下の事ですから授業の後にもきっと予定を入れているのでしょう。遅刻した分授業が長引いた大変です」
「ええ、そうよ。昼食の前に図書館に行こうと思ってたのよ。けどこのままじゃ時間がなくなるわ。それじゃあねダリル。さっきは有難う」
言葉とは裏腹にのんびりと話すダリルにシェリルは早口でお礼を言うと脱兎の如く執務室を飛び出した。そんなシェリルを見送るとダリルは嘆息して呟いた。
「まだまだ子供ですね。けれどそこが可愛いんですけれどね」
書くの遅いので続き1週間後には出せる様に頑張ります。