9.真昼
・前回のあらすじです。
『ユノがフローラ王女の正体を知る』
「ありがとうローラン」
ローラン――フローラ王女の私室を見まわして、ユノは言った。
「きみ、お姫さまだったんだね」
「悪かったわね、黙ってて」
白いドレスに身を包んだフローラは、テーブルの椅子に腰をかける。
ユノは首を横に振った。
「事情があったんでしょ?」
「まあね」
フローラは苦く口の端をつりあげる。
彼女――フローラは、ユノが魔王討伐の旅をしていた時に出会った女剣士である。当時は【ローラン】と名乗っていた。
共に行動する過程で、ユノは彼女が【精霊】という超常の魂をあずかる特異な存在――【巫女】であることを知ったのだが。
「それにしてもこっちはまだ暑いわね」
カーテン越しに真昼の日射をフローラは仰いだ。
ユノにとっては、この世界で二回目の【秋の月】だった。
去年は急ぎの旅をしていたせいか、季節ごとの気温に特別な感慨を持つことは稀だった。
そして今年――【王国暦 四二一年】は、気候遷移の月である【土用月】から、ずっと地下牢にいたため、外気の変化は看守らの会話に頼りきり。
彼らも「今年の残暑は異常だ」と話し合っていた。
フローラもそれは同じ気持ちであるようで、ただ彼女には理由を知っているもの特有のよゆうがあった。
広がるフリルのスカートの下でフローラが脚を組む。
「白状しちゃうとね、私たち王族ってのは、この世界の上位存在と縁の強い血筋なのよ」
立ったままのユノに、斜向かいになった席をフローラはすすめる。
細身のフレームに不安を感じつつ、ユノは、装飾過多な椅子に座った。
「上位存在って?」
「神よ」
――答えはあらぬ方角から飛んできた。
ぱたんっ。
という入りぐちを遮蔽する音とほぼ同時に。
あわててフローラが居住いを正す。
「姉上……」
「仮にも科人を部屋にまねくなんて、危機感が少し足りないんじゃないかしら」
氷のような視線で、長いプラチナブロンドの女――アテナが、銀髪の少女を睥睨する。
「ユノはべつに危ないやつじゃないわ」
「そう」
さほど取りあう気色もなく、アテナはユノに向き直る。
立ち上がろうとするのを手で制され、ユノはぺこりと、アテナに会釈だけをした。