表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/68

s3.ホレ薬




   〇サイドストーリーです。内容ないようは、『ユノがマーリンにほれぐすりをねだるはなし』です。

   〇長編ちょうへんのほうのキャラクターや、世界観せかいかん、ストーリーのイメージをこわす可能性かのうせいがあります。

   〇以上いじょうの点に抵抗ていこうのあるかたは、【もどる】をおすすめします。

  (んでいただける場合ばあいでも、ご不快になったときには、閲覧えつらん中断ちゅうだんすることをおすすめします。











   ――これはユノが、マーリンの家から旅立(たびだ)つ前日。よるにわがままを言うはなしである。



   〇



 大陸北東(ほくとう)。その近海に、半島はんとう大橋おおはしでつながった小さな(しま)がある。おくに偉大な【魔法使(まほうつか)い】を(よう)する【シチリ(とう)】だ。ずっと『結界』によって内部ないぶ秘匿(ひとく)されていたが、いまは魔法(まほう)が解けて、まよいの効果はうすれている。

「でーきたっ」

 深夜である。日を(また)ぐかどうかという時間帯。マーリンは、ランプの火をたよりにいものをしていた。なが金髪(きんぱつ)に、金色のひとみの【魔法使(まほうつか)い】である。二十代(にじゅうだい)前半ほどの若いおんなだが、実際(じっさい)のとしは不明ふめい長身ちょうしんでみずみずしい身体に()()()()とミニスカートをつけて、ほそいベルトで()めている。

 (こよみ)のうえではあきだというのもあって、日が()れてからはすずしいのだが――。

 トントン。

 彼女かのじょの部屋を、ノックするおと

 完成した子供服をいて、マーリンはソファから腰をげた。

(モルガンかしら?)


 弟子(でし)――。むしろ『し使い』としてあつかっている、魔法使まほうつか見習みならいの【魔族(まぞく)】の少年しょうねんのことである。

 彼女かのじょ寝室(しんしつ)には、もうひとり、入門(にゅうもん)した生徒がいた。ベッドを占拠(せんきょ)して、その魔法使いはすやすやねむっている。十才(じゅっさい)ほどの少女しょうじょである。

 がちゃ。扉が勝手にあいた。

 ドアのまえまで来ていたマーリンは、ひくっとほおをひきつらせる。

「ユノ?」

 廊下にいたのは、黒髪黒目(くろかみくろめ)の少年だった。(えん)あって、ちょっと世話をしてやった旅人(たびびと)だ。異世界(いせかい)地球(アース)】から、妖精(アールヴ)びつけた『英雄えいゆう』。メルクリウスの基準きじゅんでは、十七じゅうなな才にしてはやや童顔(どうがん)造形(ぞうけい)に、『ちび』のそしりを受けても、まあ仕方のない体格。

 パジャマとナイトキャップをつけて――。ついでにまくらを左脇にかかえて。彼はじっとマーリンをにらんでいた。

「……訪問(ほうもん)内容ないようによっちゃあ、消し(ずみ)にさせてもらうわよ」

 時間はすっかり深夜(しんや)である。マーリンは身構みがまえる。


 ――で。ユノ。

「マーリンさん」

「あん?」

「ほれ(ぐすり)をつくってください」

 ユノは無意味むいみに拳をつくって、真剣なかおをした。

 マーリンはしかるべき()いを(はっ)する。

「なんでよ。なににつかうつもり?」

「ボクがおんなからモテるようになるために決まってるじゃないですか……っ!」

血涙(けつるい)……)

 アンデッド系モンスターもはだしで逃げ出す悲惨(ひさん)なユノのがおに、ひきつるマーリン。

 ちら。

 とマーリンはへやのおくた。ベッドに、栗色(くりいろ)ながかみおんなねむっている。エバといったか。

大声(おおごえ)ださないでよ。いま何時(なんじ)だとおもってんの?」

「つくってくれなきゃ大声だします」

喉笛(のどぶえ)かき切られたくなかったらわたしの言うことききなさい」

 マニキュアのついた手をワキワキやって、マーリン。ユノは「はぁ……」と溜め息をつき。


「わかりました。じゃあできあがるまでっててあげますから。はやく作ってください」

「なんでそんな態度(たいど)でかいのよ」

 ()いたところで答えは期待できないが。

 マーリンは(ことわ)った。まじめに。

「だめよ。他者の愛情(あいじょう)なんて、(くすり)でどうこうしていいもんじゃないでしょ」

「それが人体実験(じんたいじっけん)をしたあげく、その被験体(ひけんたい)森一帯(もりいったい)に飾ってるマッドサイエンティストのセリフですか」

「そーよ」

 ぴくぴく。(ほお)の筋肉をケイレンさせて、マーリン。

「ほら。分かったらさっさと部屋かえんなさい」

「いまボクが大きな(こえ)出したら、エバきるだろーなー」

「かわいそうなことすんじゃないわよ。長旅(ながたび)で疲れてるみたいなんだから」

「それがマッド・イエンティストの言葉ことばですか」

「そーよ」

 二度目(にどめ)れたもので、マーリン。

 むぅー。とユノはほっぺをふくらます。(※かわゆくない)


「でもボク……。【異世界】に来たら、おんなとか、心とかおのキレイな出来るおとこのひととかに、ちやほやされる人生を約束されるっておもってたのに……。これじゃあサギですよ」

「なんの影響(えいきょう)でそんなあほみたいな信仰(しんこう)持てんのよ」

「まえの世界の大衆小説(たいしゅうしょうせつ)ですけど」

わすれちまいなさい。いますぐに」

 ユノは忘れなかった。(けっ)して。

「でもでもっ。ボク地球(ちきゅー)にいたときは、ほんとにかあいそーな境遇(きょうぐう)だったんです。じゃあこっちでみんなからひたすら可愛がられる人生でも、ばちたりませんよね?」

「で?」

「ほれ(ぐすり)をつくってください」

 にわかにまじめな表情ひょうじょうにもどって、ユノ。

 マーリンは、ここ何十年なんじゅうねんかぶりに感じた頭痛(ずつう)――これだから人間はキライなのだ――をこらえつつ。

「……わかった。たしか作り()きあったから、それあげる」

「わーいっ。マーリンさん、はなしが分かるじゃないですかッ。ぐえ!」


 ユノが飛びつくと、マーリンはその(ほお)にケリを()れた。首をへんな(ほう)にまげて、廊下にふっとぶユノ。

 へやの薬棚(くすりだな)から、魔女まじょおくのほうにつっこんでいたビンを取った。

 ラベルを確認して――。

 硝子がらす()をしめる。ユノの元にもどる。

「はい、これ。すぐ()んでね。あけてから時間がたつと、効果なくなるから」

 ユノはこくこくうなずいた。

 水晶(すいしょう)(せん)をあけて、ビンをあおる。

 強烈きょうれつな――睡魔(すいま)がおとずれる。

「これで、ボクも――」

 期待をむねいっぱいに、ユノはたおれた。

 ぐうぐう。

 持ってきていたまくらを抱いて、(ゆか)でねむる。

「モルガーン」

 とマーリンが()ぼうとすると、むこうから来た。

 寝巻(ねま)きのローブすがたで、とてとてあおかみ美少年(びしょうねん)がやってくる。

「あ。オレのナイトキャップ。こんなとこにあったんだ」

「あんたねー。(きゃく)のめんどうくらいちゃんとなさいよ。これが夜這(よば)いだったらどうすんのよ」

「ユノの焼死体(しょうしたい)をオレが()めることになったでしょうね」

「……まあ。そうね」


 弟子のセリフに反論(はんろん)できず、マーリンはうなずいた。ユノをクツの先でつっついて、モルガンにまかせる。

「ほら。帽子ぼうしだけじゃなくて、こいつも持ってってよ」

「はいはい」

 モルガンはユノの(くび)ねっこをつかんだ。廊下をひきずっていく。

「うわあ~。さすが【異世界(いせかい)】だあ。いろんな子に言いよられて、ボクこまっちゃうよおー」

 まくらにぎゅッと抱きついて、むにゃむにゃ寝言ねごとをいう。

「……なんていうか」

 モルガンとともに寝室(しんしつ)に消えた、『地球(アース)』からの勇士(ゆうし)

 だれもいなくなった廊下で、マーリンは嘆息(たんそく)した。

「そこまで他人(ひと)執着(しゅうちゃく)する気持ちが、わからないわ」






            〈おわり〉






















      んでいただき、ありがとうございました。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ